2025年7月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する
Day17「空蝉」 #文披31題 #小咄 #じょ
色とりどり、鮮やかに光。痛いほどの熱を湛えた陽光に晒されて、黒く濃い影が輪郭を描く。
透鏡の小さな遮光眼鏡で、その幾百ものを光を遮る。あの豊かな色彩を美しく、興味深く、静かに心を弾ませながら眺めて酒を舐めていた頃もあった。しかしながら今は薄黒く透かし見るのが精一杯で、それだって目を背けている。
随分と低くなった目線を地面に向けて、小さな体躯を益々縮こまらせて、嗚呼、嫌だ嫌だと厭うて日陰へ向かう。近くを見る使い魔と、遠くを見る使い魔が前に後ろに従っている。
目を伏せて、耳に入る音は聞き流して、一人の方へ、ひとりの方へ。過去とは真逆の在り方をする己は何だろうか。最早誰もかつての畏怖を込めた異名で己を呼びはしない。ただ狩るべき符牒として、魔女、と括られる。その声を恐れて息を潜めている。どうしてだか生きている、まだ。どうして。
暗がりに向かう足先、俯いた地面に黒々とした影が差す。それは踊るように軽やかで、けれど何よりも濃く暗い影だった。影の持ち主がひとつ動く度に、あんまりにも重い影が引きずられて、まるで涙みたいに飛び散っていく。遮光眼鏡の向こうにその景色を見つける。
かつての異名には程遠い間の抜けた名で呼ばれて、小さな頭を持ち上げた。随分高い位置にある相手の頭は燃える炎の色彩を宿して虚ろで、爛々とした瞳は底が見えないほどの悲しみに枯れ果てている。嗚呼、嫌だ嫌だ。お互いに、どうしてだかまだ生きている。彼がいるから、まだボクはいるに違いない。幾分か低く落ち着いた、かつての己の声が聞こえた。
(ジル/じょ)
夏の空蝉。
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色とりどり、鮮やかに光。痛いほどの熱を湛えた陽光に晒されて、黒く濃い影が輪郭を描く。
透鏡の小さな遮光眼鏡で、その幾百ものを光を遮る。あの豊かな色彩を美しく、興味深く、静かに心を弾ませながら眺めて酒を舐めていた頃もあった。しかしながら今は薄黒く透かし見るのが精一杯で、それだって目を背けている。
随分と低くなった目線を地面に向けて、小さな体躯を益々縮こまらせて、嗚呼、嫌だ嫌だと厭うて日陰へ向かう。近くを見る使い魔と、遠くを見る使い魔が前に後ろに従っている。
目を伏せて、耳に入る音は聞き流して、一人の方へ、ひとりの方へ。過去とは真逆の在り方をする己は何だろうか。最早誰もかつての畏怖を込めた異名で己を呼びはしない。ただ狩るべき符牒として、魔女、と括られる。その声を恐れて息を潜めている。どうしてだか生きている、まだ。どうして。
暗がりに向かう足先、俯いた地面に黒々とした影が差す。それは踊るように軽やかで、けれど何よりも濃く暗い影だった。影の持ち主がひとつ動く度に、あんまりにも重い影が引きずられて、まるで涙みたいに飛び散っていく。遮光眼鏡の向こうにその景色を見つける。
かつての異名には程遠い間の抜けた名で呼ばれて、小さな頭を持ち上げた。随分高い位置にある相手の頭は燃える炎の色彩を宿して虚ろで、爛々とした瞳は底が見えないほどの悲しみに枯れ果てている。嗚呼、嫌だ嫌だ。お互いに、どうしてだかまだ生きている。彼がいるから、まだボクはいるに違いない。幾分か低く落ち着いた、かつての己の声が聞こえた。
(ジル/じょ)
夏の空蝉。
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BEASTコミカライズ履修したから拾った日読んでもよくない??ダメ??とりあえず小説BEASTへのモチベーション上がったので次の休みに(読めたら)読むぞ院長先生と敦君の関係は原作コミックスよりしっくりする世界かも知れないでもコミカライズの描写原作小説挿絵との解釈違いがある心がふたつある #版権作品
Day16「にわか雨」 #文披31題 #小咄 #翼角
自分は空――カラだ。空でいい。空であるべき、だった。
無道を名乗るのであれば。そんな矛盾にはとうに気づいていて、ならばもう旧きだけを縁にした時代錯誤の存在など本当に消えてしまえばいいのだと己に存在を関したのが先の春。たった一人、約束の子どもを守護するためだけに、己は『無道空』だった。
と、去年を振り返りながらまるいつむじを見下ろす。子どもは資料室の床、無道の足下に無造作にしゃがみ込んで低い声で呟いている。無道の適当な相槌に気づくこともなく、真宮が、俺だって、あいつはいつも、そんなことをずっと垂れ流していた。青少年の真摯な悩みで、愚痴で、もしかすると惚気だった。
適当な相槌を続けながら、施錠せず閉じただけの扉に視線を向ける。何分あれは何もかも隠さないから、恐らく無道でなくても見えない接近に気づくだろう。当の子どもだけは気づかないのだが。
その、年齢相応で、ほんの少しで揺らいではその度に強固になってゆく関係を笑う。そんなところにばかり気づいた子どもがむっとした様子で顔を上げて、無遠慮に開け放たれた扉に肩を跳ねさせるまであと少し。目の前で子どもたちの言い合いが始まるまではもうしばらく。
自分は空だ。そのはずだった。けれど今はもう、荒れては凪ぐ雲模様を見下ろす空のようだとすら思う。その事実にまた可笑しくなって笑うが、扉が開け放たれた音に掻き消され誰にも気づかれることはなかった。
(無道と大和/翼角高校奇譚)
空、くう、から、そら。
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自分は空――カラだ。空でいい。空であるべき、だった。
無道を名乗るのであれば。そんな矛盾にはとうに気づいていて、ならばもう旧きだけを縁にした時代錯誤の存在など本当に消えてしまえばいいのだと己に存在を関したのが先の春。たった一人、約束の子どもを守護するためだけに、己は『無道空』だった。
と、去年を振り返りながらまるいつむじを見下ろす。子どもは資料室の床、無道の足下に無造作にしゃがみ込んで低い声で呟いている。無道の適当な相槌に気づくこともなく、真宮が、俺だって、あいつはいつも、そんなことをずっと垂れ流していた。青少年の真摯な悩みで、愚痴で、もしかすると惚気だった。
適当な相槌を続けながら、施錠せず閉じただけの扉に視線を向ける。何分あれは何もかも隠さないから、恐らく無道でなくても見えない接近に気づくだろう。当の子どもだけは気づかないのだが。
その、年齢相応で、ほんの少しで揺らいではその度に強固になってゆく関係を笑う。そんなところにばかり気づいた子どもがむっとした様子で顔を上げて、無遠慮に開け放たれた扉に肩を跳ねさせるまであと少し。目の前で子どもたちの言い合いが始まるまではもうしばらく。
自分は空だ。そのはずだった。けれど今はもう、荒れては凪ぐ雲模様を見下ろす空のようだとすら思う。その事実にまた可笑しくなって笑うが、扉が開け放たれた音に掻き消され誰にも気づかれることはなかった。
(無道と大和/翼角高校奇譚)
空、くう、から、そら。
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序盤は夏を意識してたけど途中からもうええかになってる。だってトウジンカグラと翼角はともかく他の世界に四季とかあるかわかんないし…
Day15「解読」 #文披31題 #小咄 #王女と騎士
一日の終わりあたりに、今日は何をした、という話をする。
それは他愛もない雑談の成りをして、その実、慎重を期した情報収集だった。話を振るこちらは真実の全てを決して話しはしない、それに引き替え若き監督官殿は宙を見上げて指を折る。夜の寒村、室内で頼りになる明かりなど俺の灯した魔術照明しかない。そこに今日の一日が映り込んででもいるかのように、目を細めて見上げながら一日を振り返っている。
曰く、村内の見廻り、三日前にぎっくり腰になった爺さんの荷車の修理、村で一番腰の曲がった婆さんのところで薪割り、子どもたちの山狩りの付き添い、漁師の爺さんたちと仕掛けた罠のチェックと修繕。成程、王宮から派遣された若き監督官殿らしい仕事ぶりである。島の通過時期ではないから航路の監視がないのは理解できるとして、全く素晴らしい。
――というようなことを、俺は極めて婉曲に表現した。お前が手伝ってくれて、村の連中も感謝してるよ、そんな感じに。
特に肯定は返ってこなかったし、否定めいた謙遜も聞こえなかった。ただ温い沈黙があった。その不自然な会話の隙間に、手慰みのように整理していた薬品箱から会話相手へ視線を転じた。
少年とは決して呼べないが、成人と聞くと唸りたくなる。監督官はそういった年頃の男だった。それがじいっと、何を言うでもなく俺を見つめていた。どこかぼんやりもした視線だった。もしも指摘すればハッとして取り止めるだろう、その程度の無意識に違いなかった。
けれど俺は、肩書きばかり立派な子どもの視線に意味を見出してしまう。野放図に伸びる銀髪が暖色の照明の下、やわらかくまろく佇んでいる。俺よりも幾分低い位置にある頭の天辺を見つめる。そこに何かが収まるべきのように思える。
俺の手が動いたのも、そういったものに看過された無意識に違いなかった。ありがとうな、だったか、助かるよ、だったか、とにかくそういった類いのことばが唇から滑り落ちていた。銀色の光彩が細められて、密かな喜色を滲ませていた。だからこれで正解だったのだと思う。思うが、それは正解でいいのだろうか?
(ルークとシーレ/王女と騎士)
それを読み解けてしまう時点でもう不正解。
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一日の終わりあたりに、今日は何をした、という話をする。
それは他愛もない雑談の成りをして、その実、慎重を期した情報収集だった。話を振るこちらは真実の全てを決して話しはしない、それに引き替え若き監督官殿は宙を見上げて指を折る。夜の寒村、室内で頼りになる明かりなど俺の灯した魔術照明しかない。そこに今日の一日が映り込んででもいるかのように、目を細めて見上げながら一日を振り返っている。
曰く、村内の見廻り、三日前にぎっくり腰になった爺さんの荷車の修理、村で一番腰の曲がった婆さんのところで薪割り、子どもたちの山狩りの付き添い、漁師の爺さんたちと仕掛けた罠のチェックと修繕。成程、王宮から派遣された若き監督官殿らしい仕事ぶりである。島の通過時期ではないから航路の監視がないのは理解できるとして、全く素晴らしい。
――というようなことを、俺は極めて婉曲に表現した。お前が手伝ってくれて、村の連中も感謝してるよ、そんな感じに。
特に肯定は返ってこなかったし、否定めいた謙遜も聞こえなかった。ただ温い沈黙があった。その不自然な会話の隙間に、手慰みのように整理していた薬品箱から会話相手へ視線を転じた。
少年とは決して呼べないが、成人と聞くと唸りたくなる。監督官はそういった年頃の男だった。それがじいっと、何を言うでもなく俺を見つめていた。どこかぼんやりもした視線だった。もしも指摘すればハッとして取り止めるだろう、その程度の無意識に違いなかった。
けれど俺は、肩書きばかり立派な子どもの視線に意味を見出してしまう。野放図に伸びる銀髪が暖色の照明の下、やわらかくまろく佇んでいる。俺よりも幾分低い位置にある頭の天辺を見つめる。そこに何かが収まるべきのように思える。
俺の手が動いたのも、そういったものに看過された無意識に違いなかった。ありがとうな、だったか、助かるよ、だったか、とにかくそういった類いのことばが唇から滑り落ちていた。銀色の光彩が細められて、密かな喜色を滲ませていた。だからこれで正解だったのだと思う。思うが、それは正解でいいのだろうか?
(ルークとシーレ/王女と騎士)
それを読み解けてしまう時点でもう不正解。
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躁転を感じる…ナチュラルハイならそれはそれで困るし好みの二人をキメてアッパーになってるならそれもまた怖いが…
やっぱりBEASTを読まずに拾った日まで飛ばすのはよくない…三次元人が二次元の世界を表現してるの見るとムズムズする悪癖持ってるからBEASTの劇場版に手を出せる気はしないが小説BEAST→拾った日の履修を前提にDEAD APPLEまでは観なければ…原作読んでアニメ観て二次創作まで漁って自分の一次創作して二次創作の原稿しようとするの馬鹿すぎじゃない?体いっぱい欲しい
2017年に書き散らかしすぎ。何があったんだ2017年
ナナキと月影が一番書いててウゾゾッてなるので冷静になろうと思って掌編を浚い直したらPC内でデータが散逸しまくっていて大混乱。ここもサイト内でまとめておかなければいけないのか…本編が1話しかないのに… #翼角
トウジンカグラ以外は意味不明だと思うけどでも自分の中ではトウジンカグラが新参で他はもっといるし全員満遍なく書きたいから偏らんようにカウントしよ~って今更数えたら既にトウジンカグラに偏っていた。これからは自分にしかわからないタイプの創作で埋まると思うので自分のための作文を極めていくぜ
全部の創作でやりたいとは言ったけどミコトさんだけは自分の中にあの美しさが見つけられないので出てこない
残念だったね…
残念だったね…
無限に眠いけど無限に起きておきたい寝ずに稼働する肉体が欲しい
更に言うなら労働に従事する時間がもったいないので働かずに生きていきたい
更に言うなら労働に従事する時間がもったいないので働かずに生きていきたい
Day14「浮き輪」 #文披31題 #小咄 #翼角
溺れる者は何とやら。
とはいえ、掴んではいけないものもあるのではないか。本郷大和が後悔したのは救出が為された後だった。
見上げた水面は夜の中、逆光の輪郭だけを描いていた。救いを求めて伸ばした己が手の輪郭すら曖昧で、光輪めいて淡い影だけがその瞬間のよすがだったのだ。引き上げられた陸の上で水を吐いて咳き込みながら、やっと大和は己を救った者を見た。つまり後悔した。
「――山伏より俺を選ぶなんて、随分賢くなったじゃねぇか。ん? 大和」
「――げ、きっ……!」
思わず漏れた声は再び咳き込む合間に消える。朧月に淡い色素の髪を溶かす同級生はあまりにも、あまりにも機嫌よくしゃがみ込み大和の背を擦る。否、叩く。そうかそうか元気かよかったな、など心にもないことを呟きながら、そして傍らの月を見上げた。
「月影」
夜闇と月光から滲み出るように現れる人影。人、などではないことは大和も理解している。夜の高校のプールサイドにはあまりに違和感のある着流し姿に、胸元はゆうに超えて伸ばされた髪。尖った耳に、伏せがちな人ならざる色彩の瞳。その静かな熱は名を呼んだ少年にだけ注がれている。
その熱など知らぬげに、歌うように、主たる少年は己の鬼に告げた。
「片付けろ」
応える声はない。ただ大和の頬をやわい風が通り抜けて、続けてぞわりと、全身が総毛立つ。大和の背を戯れに支える少年だけは平然と笑みを浮かべ、これから起こる人外の所業を眺めている。
(大和とナナキと月影/翼角高校奇譚)
気をつけろ大和!ナナキルートだ!
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溺れる者は何とやら。
とはいえ、掴んではいけないものもあるのではないか。本郷大和が後悔したのは救出が為された後だった。
見上げた水面は夜の中、逆光の輪郭だけを描いていた。救いを求めて伸ばした己が手の輪郭すら曖昧で、光輪めいて淡い影だけがその瞬間のよすがだったのだ。引き上げられた陸の上で水を吐いて咳き込みながら、やっと大和は己を救った者を見た。つまり後悔した。
「――山伏より俺を選ぶなんて、随分賢くなったじゃねぇか。ん? 大和」
「――げ、きっ……!」
思わず漏れた声は再び咳き込む合間に消える。朧月に淡い色素の髪を溶かす同級生はあまりにも、あまりにも機嫌よくしゃがみ込み大和の背を擦る。否、叩く。そうかそうか元気かよかったな、など心にもないことを呟きながら、そして傍らの月を見上げた。
「月影」
夜闇と月光から滲み出るように現れる人影。人、などではないことは大和も理解している。夜の高校のプールサイドにはあまりに違和感のある着流し姿に、胸元はゆうに超えて伸ばされた髪。尖った耳に、伏せがちな人ならざる色彩の瞳。その静かな熱は名を呼んだ少年にだけ注がれている。
その熱など知らぬげに、歌うように、主たる少年は己の鬼に告げた。
「片付けろ」
応える声はない。ただ大和の頬をやわい風が通り抜けて、続けてぞわりと、全身が総毛立つ。大和の背を戯れに支える少年だけは平然と笑みを浮かべ、これから起こる人外の所業を眺めている。
(大和とナナキと月影/翼角高校奇譚)
気をつけろ大和!ナナキルートだ!
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Day13「牙」 #文披31題 #小咄 #リボ
鈍く鋼が鳴る。微かに火花すら散る。刹那の花も得物の唸りと風切り音に消え失せる。
距離を取る。棍を正中に構え直す。型を取るのは基本だが、切っ先の向こうで相対する人は無造作に突っ立っている。磨き抜かれた寵姫のような黄金の髪は無造作に、砂と一緒に風と靡く。腰に巻かれたほつれた肩布がばさばさとはためいて、手足もただその場に突っ立っている。二点、右手が長尺の鉄扇をこちらに突きつけて、天穹の頂点より尚遠い碧眼が静かにこちらを見つめている。
それだけで動けない。額に滲んだ汗が、雫になって垂れ流れていく。乾いた風が幾度か二人の間を通り抜けて、そして最後にふっと止んだ。心底、呆れた、という笑いと共に。
「――止めだよ、止め。理由はわかるかな、ティル」
「……はい」
ど、と。雫になって流れた汗が、それでは足りずに噴き出していく。水分がそこに全部持っていかれたかのように口の中が乾いている。少し気を抜けば尻から座り込みそうで、ただ棍を構え続けることで耐えた。
少年の姿勢に、麗人はまた笑った。先ほどよりも柔らかい微笑だった。相変わらず瞳の碧は遠かった。
「それはよかった。わからないほど勘が悪いようなら、これから先君に付き合うことはないだろうからね」
歌うように告げながら、靡く金の髪を押さえる。鉄扇は閉じて腰帯に仕舞われ、つまり稽古の時間は終わりだと告げている。
あの黙して相対する間、この人の頭の中で自分は何度打ち倒されたのだろうか。少なくとも何一つ抵抗できなかったことだけは少年にもわかった。実際、身動ぎすらも叶わなかった。
踵を返す背中を前に、ようやっと棍を下げる。乾いた口の中を舌でなぞる。
あの人を前にして、何もできない。全てを見透かされているとすら思う。腹の底で静かに飼い慣らしている遠くの意図すら。そのときが来ても何もできないのではないかと。この怯えも丸ごと全部、研ぎ澄まさなければいけない。せめてあのつまらなさそうに去りゆく背に一突きを見舞う、そんな夢想ができる程度には。
(ティルとカイ/風紋記)
手を合わせるまでもなく脳内で一方的にボコられるけど心の内には小さな獣を飼っている
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鈍く鋼が鳴る。微かに火花すら散る。刹那の花も得物の唸りと風切り音に消え失せる。
距離を取る。棍を正中に構え直す。型を取るのは基本だが、切っ先の向こうで相対する人は無造作に突っ立っている。磨き抜かれた寵姫のような黄金の髪は無造作に、砂と一緒に風と靡く。腰に巻かれたほつれた肩布がばさばさとはためいて、手足もただその場に突っ立っている。二点、右手が長尺の鉄扇をこちらに突きつけて、天穹の頂点より尚遠い碧眼が静かにこちらを見つめている。
それだけで動けない。額に滲んだ汗が、雫になって垂れ流れていく。乾いた風が幾度か二人の間を通り抜けて、そして最後にふっと止んだ。心底、呆れた、という笑いと共に。
「――止めだよ、止め。理由はわかるかな、ティル」
「……はい」
ど、と。雫になって流れた汗が、それでは足りずに噴き出していく。水分がそこに全部持っていかれたかのように口の中が乾いている。少し気を抜けば尻から座り込みそうで、ただ棍を構え続けることで耐えた。
少年の姿勢に、麗人はまた笑った。先ほどよりも柔らかい微笑だった。相変わらず瞳の碧は遠かった。
「それはよかった。わからないほど勘が悪いようなら、これから先君に付き合うことはないだろうからね」
歌うように告げながら、靡く金の髪を押さえる。鉄扇は閉じて腰帯に仕舞われ、つまり稽古の時間は終わりだと告げている。
あの黙して相対する間、この人の頭の中で自分は何度打ち倒されたのだろうか。少なくとも何一つ抵抗できなかったことだけは少年にもわかった。実際、身動ぎすらも叶わなかった。
踵を返す背中を前に、ようやっと棍を下げる。乾いた口の中を舌でなぞる。
あの人を前にして、何もできない。全てを見透かされているとすら思う。腹の底で静かに飼い慣らしている遠くの意図すら。そのときが来ても何もできないのではないかと。この怯えも丸ごと全部、研ぎ澄まさなければいけない。せめてあのつまらなさそうに去りゆく背に一突きを見舞う、そんな夢想ができる程度には。
(ティルとカイ/風紋記)
手を合わせるまでもなく脳内で一方的にボコられるけど心の内には小さな獣を飼っている
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プレモルって青と金で概念☔🌾なのでは?
有志がpixiv百科事典を充実させてるパターンとかも結構ドボンする要因だよなって #版権作品
凄まじい勢いで原作と小説とアニメの該当回まで履修したからやめよう。2期のアタマ4話過去話に使う上そこの回の最後のサブタイトルで作品名回収するなんてことある??ビックリしちゃうな… #版権作品
「割と最近だけどまだ人のいるジャンル」だと思ってたけど2013年開始だからふり~とかマジェプリの時代だった割と最近じゃなかった。リアルタイムでセンサーに引っかかってなくてよかったアニメの構成とか劇場版とかその特典で脳を灼かれておかしくなるところだった #版権作品
ていうのを見るとつい「やっぱりルークは死んで永遠になってくれ」と思ってしまうからやめた方がいいよ #王女と騎士
相手の生きる世界を願うifとか2人の出会いとか生き残った方が死んだ方の服装に影響されてるとかおいおいそこまでそんな…ヘキを踏み抜くことが…!?!? #版権作品
死んだら永遠になるので死に別れる2人がヘキだという世迷言を随分昔からほざいてるけど、ついうっかりとんでもなく高濃度の「物語が始まった時点で終わっている」「その死が1人の生きる指針である」「己を犠牲にしても死を覆して相手の生きる世界を願う」を浴びてウソだろ…こんな…というきもちとお前(高濃度のヘキ)…こんなところにいたのか…のきもち。推し絵師が描いてて先般のイベントで後ろのスペースに位置していて姪がほぼ全巻所持していたばかりに… #版権作品
Day12「色水」 #文披31題 #小咄 #王女と騎士
ひゅうひゅうと、呼吸だけを繰り返す。
身体が重かった、熱かった。視界は赤い。なのに二本の足はしっかりと地面を踏み締めて、足下はぬかるんでいる。身体を引き摺るように一歩を踏み出せば、びちゃり、びちゃりと濡れた音が響いた。ちゃらり、ちゃらりと、身体の一部ほどに馴染んだ鎖が鳴っている。
どこを、何を、どうして、今はいつ。三々五々と巡る疑問に、赤い視界が影を宿してぐらついている。足下を、引きずって歩いてきた道を見ようとする。ちいさな雫が、一歩進む度に落ちて、波紋を広げていく――その赤がやんわりと闇に閉ざされた。
「へいへい、そこまでそこまで」
は、と短く呼気が落ちる。重い感覚にまるで似つかわしくない、軽々しい声だった。己の視界を後ろから塞いで、進む一歩を引き留めている。
「見たくないなら見なくてもいい。ぜーんぶオレに任せておきな。オマエは何も考えなくてもいい――」
ぱしりと。
その声を、言葉を、閉ざす闇を払い除ける。
手の甲で銀の鎖がちりちりと音を立てて、己の肌に食い込んでいる。視界が急速に開けて、背後にいたはずの存在が目の前に立っていた。降参めいて両手をひらひらと挙げながら、実に、実にうれしそうに笑っていた。
「――それでこそ、オレの可愛いシーレだよ」
誰がお前のだ。言葉と共に、口の中に溜まって声を塞いでいた何かを吐き出した。足下の水で跳ねたそれにまた、赤い男はケラケラと笑い声を上げた。
(シーレとイエス/王女と騎士)
頼れるシーレのブレーキ、ちょうちょ結びのおさげ野郎。
閉じる
ひゅうひゅうと、呼吸だけを繰り返す。
身体が重かった、熱かった。視界は赤い。なのに二本の足はしっかりと地面を踏み締めて、足下はぬかるんでいる。身体を引き摺るように一歩を踏み出せば、びちゃり、びちゃりと濡れた音が響いた。ちゃらり、ちゃらりと、身体の一部ほどに馴染んだ鎖が鳴っている。
どこを、何を、どうして、今はいつ。三々五々と巡る疑問に、赤い視界が影を宿してぐらついている。足下を、引きずって歩いてきた道を見ようとする。ちいさな雫が、一歩進む度に落ちて、波紋を広げていく――その赤がやんわりと闇に閉ざされた。
「へいへい、そこまでそこまで」
は、と短く呼気が落ちる。重い感覚にまるで似つかわしくない、軽々しい声だった。己の視界を後ろから塞いで、進む一歩を引き留めている。
「見たくないなら見なくてもいい。ぜーんぶオレに任せておきな。オマエは何も考えなくてもいい――」
ぱしりと。
その声を、言葉を、閉ざす闇を払い除ける。
手の甲で銀の鎖がちりちりと音を立てて、己の肌に食い込んでいる。視界が急速に開けて、背後にいたはずの存在が目の前に立っていた。降参めいて両手をひらひらと挙げながら、実に、実にうれしそうに笑っていた。
「――それでこそ、オレの可愛いシーレだよ」
誰がお前のだ。言葉と共に、口の中に溜まって声を塞いでいた何かを吐き出した。足下の水で跳ねたそれにまた、赤い男はケラケラと笑い声を上げた。
(シーレとイエス/王女と騎士)
頼れるシーレのブレーキ、ちょうちょ結びのおさげ野郎。
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Day11「蝶番」 #文披31題 #小咄 #トウジンカグラ
ここは存外と特等席だ。杯を傾けながら、左しか残っていない目玉をほんのわずかに右へ左へ。お互いから視線を逸らして、その実、真ん中にして真ん前の波佩など路傍の石の如く扱って互いだけを意識する男たち。
「……ので、波佩殿もおわかりかと思います。これの言い分に理がないと」
「るッせェな。言いてェことあンなら自分で言えよ、コッチに借りンじゃなくてよ」
お互いの口に波佩を上らせて尚、互いしかいない訳である。ここに可愛い懐刀がいれば不敬だと甲高く喚いているところだが、義弟夫夫の痴話喧嘩に入れる必要もあるまいと下がらせている――熊野だけは座敷の隅で黙して座しているが。
ここまで互いにいがみ合いながら、未だ先に折れるのはそちらだと言わんばかりに矛先を下げている。成程成程。波佩は器用にも頷きながら杯を干した。遠路遥々、生まれたばかりのよちよち歩きが七宝ではなくこちらを頼ってきたというだけで義弟に肩入れしたくなるが、男の性分として義弟の傲慢な口ぶりにも大いに同意できるところがある。
どちらかに言を傾け、更に場を引っ掻き回すのが一番楽しいに決まっている。しかしながら露の上下二国を従える辣腕の領主は、そこまで享楽的ではなかった。
故に空の杯をたんと畳上に落とした。濃藍の義弟がはっとして、黄金の義弟がちらと目端で波佩を捉える。それを間違いなく認めて鷹揚に頷き、そして波佩は立ち上がる。獣の尾に似た結い髪が撓って跡を曳き、追うように存在すら沈黙に閉じ込めていた熊野が続いた。
「夫夫喧嘩は犬も食わんと言うからな。オレは暫し席を外す故、いくらでも、奥深くまで、二人で語り合え!」
じゃあまたな! 呆然と見上げる二対の瞳を置き去りに、波佩は揚々たる足取りで己の間を辞した。
子は鎹、とはよく言ったものである。しかしながら波佩は夫夫の子ではなく義兄であり、鎹ほどの勤勉さもなかった。二人を只中で支える程度はしてやるとして、どちらにも気紛れに懐を広げる程度には適当であった。
全てを開け放したまま、波佩は熊野だけを従えて城下へと足を向けた。日の高い今のうちから浴びるように酒を飲むつもりである、恐らく夫夫の語らいは夜更けまでは続くはずなので。
(波佩と氷雨と穂群/トウジンカグラ)
いつかの夫夫喧嘩で家出する穂群と後手後手で追いかける氷雨の話。蝶番のようにバタバタと、ふたりを繋ぎつつもどちらにでも懐を広げる男。
閉じる
ここは存外と特等席だ。杯を傾けながら、左しか残っていない目玉をほんのわずかに右へ左へ。お互いから視線を逸らして、その実、真ん中にして真ん前の波佩など路傍の石の如く扱って互いだけを意識する男たち。
「……ので、波佩殿もおわかりかと思います。これの言い分に理がないと」
「るッせェな。言いてェことあンなら自分で言えよ、コッチに借りンじゃなくてよ」
お互いの口に波佩を上らせて尚、互いしかいない訳である。ここに可愛い懐刀がいれば不敬だと甲高く喚いているところだが、義弟夫夫の痴話喧嘩に入れる必要もあるまいと下がらせている――熊野だけは座敷の隅で黙して座しているが。
ここまで互いにいがみ合いながら、未だ先に折れるのはそちらだと言わんばかりに矛先を下げている。成程成程。波佩は器用にも頷きながら杯を干した。遠路遥々、生まれたばかりのよちよち歩きが七宝ではなくこちらを頼ってきたというだけで義弟に肩入れしたくなるが、男の性分として義弟の傲慢な口ぶりにも大いに同意できるところがある。
どちらかに言を傾け、更に場を引っ掻き回すのが一番楽しいに決まっている。しかしながら露の上下二国を従える辣腕の領主は、そこまで享楽的ではなかった。
故に空の杯をたんと畳上に落とした。濃藍の義弟がはっとして、黄金の義弟がちらと目端で波佩を捉える。それを間違いなく認めて鷹揚に頷き、そして波佩は立ち上がる。獣の尾に似た結い髪が撓って跡を曳き、追うように存在すら沈黙に閉じ込めていた熊野が続いた。
「夫夫喧嘩は犬も食わんと言うからな。オレは暫し席を外す故、いくらでも、奥深くまで、二人で語り合え!」
じゃあまたな! 呆然と見上げる二対の瞳を置き去りに、波佩は揚々たる足取りで己の間を辞した。
子は鎹、とはよく言ったものである。しかしながら波佩は夫夫の子ではなく義兄であり、鎹ほどの勤勉さもなかった。二人を只中で支える程度はしてやるとして、どちらにも気紛れに懐を広げる程度には適当であった。
全てを開け放したまま、波佩は熊野だけを従えて城下へと足を向けた。日の高い今のうちから浴びるように酒を飲むつもりである、恐らく夫夫の語らいは夜更けまでは続くはずなので。
(波佩と氷雨と穂群/トウジンカグラ)
いつかの夫夫喧嘩で家出する穂群と後手後手で追いかける氷雨の話。蝶番のようにバタバタと、ふたりを繋ぎつつもどちらにでも懐を広げる男。
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Day10「突風」 #文披31題 #小咄 #王女と騎士
悲鳴と歓声が二重に絡まって尾を引いて、あっという間に置き去りになる。
遠い遠い、高い高い空の向こうへ置いてけぼり。ふたりはぐんぐん遠ざかる。悲鳴から、過去から。ふたりを縛っていた何もかもから。
ねえ! 歓声が叫んだ。ごうごうという風の音の向こうで、あまりに鮮明な声だった。それもまた頭のずっと遠くに置き去りになった。それでも獣の仔は確かに聞いた。地上に着いたら何しよっか! 悲鳴を上げながら、ずっと向こうのことばを捉えた。ごうごうと唸る音の中、考えた。
何をしようか。何かできるのだろうか。
地面を這って進むか弱い虫のように、影を進んで生きるだけではないのだろうか。歓声は潜むことなど何も知らない明るさで、ただただ落下の自由を叫んでいる。どんどん自由が近づいてくる。大地はその大きな手を広げて、空の島から落ちてくるふたりを待っている――
そういうことは、生きて降りてから考えましょうよ! 悲鳴は泣きを含んで答えたが、涙はまた空の彼方に置き去りになった。きらきらしながら舞い上がって、ふたりの墜落を祝っていた。
(ギベルとレイリア/王女と騎士)
冒険の始まりだヤッホー! ヒエエェェ…!!
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悲鳴と歓声が二重に絡まって尾を引いて、あっという間に置き去りになる。
遠い遠い、高い高い空の向こうへ置いてけぼり。ふたりはぐんぐん遠ざかる。悲鳴から、過去から。ふたりを縛っていた何もかもから。
ねえ! 歓声が叫んだ。ごうごうという風の音の向こうで、あまりに鮮明な声だった。それもまた頭のずっと遠くに置き去りになった。それでも獣の仔は確かに聞いた。地上に着いたら何しよっか! 悲鳴を上げながら、ずっと向こうのことばを捉えた。ごうごうと唸る音の中、考えた。
何をしようか。何かできるのだろうか。
地面を這って進むか弱い虫のように、影を進んで生きるだけではないのだろうか。歓声は潜むことなど何も知らない明るさで、ただただ落下の自由を叫んでいる。どんどん自由が近づいてくる。大地はその大きな手を広げて、空の島から落ちてくるふたりを待っている――
そういうことは、生きて降りてから考えましょうよ! 悲鳴は泣きを含んで答えたが、涙はまた空の彼方に置き去りになった。きらきらしながら舞い上がって、ふたりの墜落を祝っていた。
(ギベルとレイリア/王女と騎士)
冒険の始まりだヤッホー! ヒエエェェ…!!
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Day9「ぷかぷか」 #文披31題 #小咄 #王女と騎士
島が来たと誰もが呟く。年寄りたちは洗濯物が乾かないと物憂げに呟き、子どもたちは影を追って走り出す。
ルークはただ無感動に、空をゆく島を見上げている。
あそこから、逃げてきた、訳では断じてない。捨ててきた、訳でもない。見放された、とも異なる。両耳から細い鎖で垂れ下がる黄水晶が、苛むようにちりちりと音を立てる。もうすっかり慣れたそれに、ルークは目を伏せて懐を探った。紙巻き煙草を取り出して口に咥え、爪先を弾くだけで魔術の火花を散らして煙をくゆらせる。立ち上る紫煙の向こうを、遠く高く、空に浮かぶ島がゆっくりと遠ざかってゆく。島は夜ごとの月のように、数日間村の上を周回し、見えなくなるのはまだ少し先になる。
いつかあそこに戻るのだろう。いつか、を考えるのは無益で、無駄だった。そのときが来るのなら、それはルークが生まれた目的を果たすためで、つまり――実に無駄だった。
天から地へと視線を転じる。高所に立つ診療所、正確には監督官邸からは村のほとんど全てが一望できる。働き盛りの若い世代が顕著に少ない中、年寄りと子どもたちはただただ暮らしを営んでいる。洗濯物の乾きに憂い、影を追うだけの変化を見せながら。
こんな日々はあとどれだけ続くのだろうか。そう考えることは恐らく幸福で、不幸だった。己の命の期限とほとんど同義だったので。
ルークが吐き出した紫煙の向こうに、切り裂くような白銀が現れるのは今しばらく先のことである。
(ルーク/王女と騎士)
倦んだ日常に島と煙がぷかぷか。
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島が来たと誰もが呟く。年寄りたちは洗濯物が乾かないと物憂げに呟き、子どもたちは影を追って走り出す。
ルークはただ無感動に、空をゆく島を見上げている。
あそこから、逃げてきた、訳では断じてない。捨ててきた、訳でもない。見放された、とも異なる。両耳から細い鎖で垂れ下がる黄水晶が、苛むようにちりちりと音を立てる。もうすっかり慣れたそれに、ルークは目を伏せて懐を探った。紙巻き煙草を取り出して口に咥え、爪先を弾くだけで魔術の火花を散らして煙をくゆらせる。立ち上る紫煙の向こうを、遠く高く、空に浮かぶ島がゆっくりと遠ざかってゆく。島は夜ごとの月のように、数日間村の上を周回し、見えなくなるのはまだ少し先になる。
いつかあそこに戻るのだろう。いつか、を考えるのは無益で、無駄だった。そのときが来るのなら、それはルークが生まれた目的を果たすためで、つまり――実に無駄だった。
天から地へと視線を転じる。高所に立つ診療所、正確には監督官邸からは村のほとんど全てが一望できる。働き盛りの若い世代が顕著に少ない中、年寄りと子どもたちはただただ暮らしを営んでいる。洗濯物の乾きに憂い、影を追うだけの変化を見せながら。
こんな日々はあとどれだけ続くのだろうか。そう考えることは恐らく幸福で、不幸だった。己の命の期限とほとんど同義だったので。
ルークが吐き出した紫煙の向こうに、切り裂くような白銀が現れるのは今しばらく先のことである。
(ルーク/王女と騎士)
倦んだ日常に島と煙がぷかぷか。
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Day8「足跡」 #文披31題 #小咄 #リボ
風に浚われて消えていく。
そのことを苛立たしく思いながら、主人の軌跡を追いかける。この苛立ちの源泉が何なのかは知らない。何か、衝動が口を突いて溢れそうになる。
なのでぐっと、唇を引き結んで耐えた。吹き荒ぶ風には砂が混ざって、ああこの砂さえなければ、そうも思った。あの砂の国で生まれたというだけの繋がりがなければ、きっと彼にここまで翻弄されることもなかっただろうに。
その日々の終わりも、近いけれど。
丘陵の向こうに、見慣れた赤銅色が靡いている。舞う砂粒にも掻き消されない鮮やかな色。熱気が青空に抜けていく、その只中に立つ背中。馴染みの肩布を風に遊ばせて堂々と、なのに、どこか、昔よりも細く見える背中。
名前を呼んだ。風音を真っ直ぐに貫いて、声は主人の下まで届いた。ゆっくりと、赤銅を靡かせたまま振り返る。翡翠の瞳がこちらを認め、細められる。その様が苛立たしくて、胸の奥の方が締めつけられるようで、耐えた分の小言を意味もなく吐き出しながら駆け出した。消える寸前の主の軌跡を足裏でなぞり、深く深く、砂に刻みつけていく。自身で上から書き記してゆく。
(カイとストラル/風紋記)
もうすぐ死別することを理解してる主従。
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風に浚われて消えていく。
そのことを苛立たしく思いながら、主人の軌跡を追いかける。この苛立ちの源泉が何なのかは知らない。何か、衝動が口を突いて溢れそうになる。
なのでぐっと、唇を引き結んで耐えた。吹き荒ぶ風には砂が混ざって、ああこの砂さえなければ、そうも思った。あの砂の国で生まれたというだけの繋がりがなければ、きっと彼にここまで翻弄されることもなかっただろうに。
その日々の終わりも、近いけれど。
丘陵の向こうに、見慣れた赤銅色が靡いている。舞う砂粒にも掻き消されない鮮やかな色。熱気が青空に抜けていく、その只中に立つ背中。馴染みの肩布を風に遊ばせて堂々と、なのに、どこか、昔よりも細く見える背中。
名前を呼んだ。風音を真っ直ぐに貫いて、声は主人の下まで届いた。ゆっくりと、赤銅を靡かせたまま振り返る。翡翠の瞳がこちらを認め、細められる。その様が苛立たしくて、胸の奥の方が締めつけられるようで、耐えた分の小言を意味もなく吐き出しながら駆け出した。消える寸前の主の軌跡を足裏でなぞり、深く深く、砂に刻みつけていく。自身で上から書き記してゆく。
(カイとストラル/風紋記)
もうすぐ死別することを理解してる主従。
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トウジンカグラ■■■■■
王女と騎士 ■■■■■
翼角 ■■■
風紋記 ■■
じょ ■
文披全創作でやりたいって言って後半戦開始時点これ。
なおhbsは歴史解釈の二次創作のようなものなので自身の創作からは除外されています。