No.2309

Day8「足跡」 #文披31題 #小咄 #リボ

 風に浚われて消えていく。
 そのことを苛立たしく思いながら、主人の軌跡を追いかける。この苛立ちの源泉が何なのかは知らない。何か、衝動が口を突いて溢れそうになる。
 なのでぐっと、唇を引き結んで耐えた。吹き荒ぶ風には砂が混ざって、ああこの砂さえなければ、そうも思った。あの砂の国で生まれたというだけの繋がりがなければ、きっと彼にここまで翻弄されることもなかっただろうに。
 その日々の終わりも、近いけれど。
 丘陵の向こうに、見慣れた赤銅色が靡いている。舞う砂粒にも掻き消されない鮮やかな色。熱気が青空に抜けていく、その只中に立つ背中。馴染みの肩布を風に遊ばせて堂々と、なのに、どこか、昔よりも細く見える背中。
 名前を呼んだ。風音を真っ直ぐに貫いて、声は主人の下まで届いた。ゆっくりと、赤銅を靡かせたまま振り返る。翡翠の瞳がこちらを認め、細められる。その様が苛立たしくて、胸の奥の方が締めつけられるようで、耐えた分の小言を意味もなく吐き出しながら駆け出した。消える寸前の主の軌跡を足裏でなぞり、深く深く、砂に刻みつけていく。自身で上から書き記してゆく。
(カイとストラル/風紋記)

もうすぐ死別することを理解してる主従。
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