No.2377

Day21「海水浴」 #文披31題 #小咄 #翼角

 足裏をうぞうぞと砂が流れていく。少しずつ今立つ場所が形を変えていく。足首には温く波が絡みついては解けて、その感覚に少しばかり感嘆した。
「大和、早く!」大和の未知の体験など一顧だにしない声が呼ぶ。「遊ぼう!」
 既に膝まで海に浸って、このみが笑っている。ふわりと風を孕むパーカーを羽織っているが水着の下の太腿は剥き出しでその白さが眩しい。それよりもずっと、大和を呼ぶ笑顔が雫を散らして煌めいている。その隣にはビーチボールを掲げた京介もいて、このみと共に大和を待っている。来年になったら受験生だ、遊べる夏休みはこれが最後だと気づいて大騒ぎをしていた二人は、今日という計画の日を実に満喫していた。
 流れて絡んで引き込む海を振り切って一歩。この海が彼の冬には歌って人間を引きずり込もうとしていたなど、あの二人は知らないし、信じないだろう。この場では大和ともう一人だけが知っている。
 もう一歩を踏み出しながら背後を振り返る。柄にもなく同行した彼はここまで沈黙を貫いていて、きっと海で遊ぶことに興味などないのだろう、と思う。ただ大和が来たからついてきたのであって。
 それでも、大和の大事な友人たちと共に、この夏の一日に興じてくれたなら。行こうと告げた声は我ながら軽やかで、差し出した手はきっと浮かれていた。その手が握り返された瞬間に、真夏の太陽が一層眩しく輝いたようで目を細める。
(大和と誰かとこのみと京介/翼角高校奇譚)

翼角はマルチエンディング方式なので手を指しだした先にいるのは鷹臣かナナキか無道だしどいつもこいつも海で遊ぶの柄じゃない。
このみちゃんは幼馴染、京介は2年連続クラスメイトで同じ寮生。

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