No.2413

Day25「じりじり」 #文披31題 #小咄 #翼角

 世界の全てを喰べ尽くして。
 真っ暗の世界に、たった一つの光。それは決して明かりなどもたらさず、赤く蕩けた陽光に似て佇んでいる。灼熱だけをもたらして哄笑を謳う。己を注いで呑み尽くし喰らい尽くした無色の器――人と呼べるときには確か、本郷大和と呼ばれていた――を無造作に爪先に転がして、真っ暗の世界の真ん中に佇んでいる。
 膚が焦げる。生き残った人間たちがいずれここに辿り着いて、この光を滅し誅し戮するまでにいくらもない。純然たる事実だった。鬼道ナナキという人の身を捨て、幾百の年月の末目覚めたとて理解しているだろうに。
 もう空っぽになった、本郷大和だったものを眺めながら考える。その思考も焦がされて、灰になって流れていく。
「――月影」
 己を呼ぶ声。ゆっくりと、どろりと流れ出る赤い陽光を見上げる。
 二本角を戴く鬼がいる。かつてただの人だった存在。遠いとおいあの日に月影が我が身を喰わせた愛しい人間。人の身を捨て、傲岸にも月影に名を与えた鬼。月影を天から引きずり下ろして地に繋ぎ止めて貪って、そのくせ都合よく打ち捨てた男。
 ずっと待っていた。只人の中で脈々と眠り続けるこの男を。遂に鬼道ナナキという人の身に降りた鬼を。待つ道理もないことを理解しながら、この男でなければいけないのだと焦がれていた。
 この熱に、また都合よく焦がされるのならば。ただ見下ろすだけの鬼に、失った天に、唯一の光に手を伸ばす。陽生、と呼んだ声は熱に浮かされて掠れて消えて、月影自身も赤の陽光に蕩けていく。この男の傍らでならば、全てを滅ぼそうと、あるいはいずれ滅びようとも構わない。やっと、やっとこの時が。
(陽生×月影/翼角高校奇譚)

翼角のバッドエンド(ジェノサイダー鷹臣エンド)、月影のハッピーエンド。
全創作込みなら絶対に一つはここを書くだろうという確信しかなかったひせげつ。

閉じる

ネタ

プライバシーポリシー
当ページでは、cookieを使った以下のアクセス解析サービスを利用しています。
●アクセス解析研究所
このアクセスデータは匿名で収集されているものであり、個人を特定するものではございません。
こうした履歴情報の収集を望まない場合、cookieの受け入れを拒否することが可能です。詳細はご利用のブラウザの設定をご確認ください。
詳しくはサービスのプライバシーポリシーをご覧ください。