No.2376

Day20「包み紙」 #文披31題 #小咄 #トウジンカグラ

 今上帝にと献上された上等の紗を広げ、その真ん中に畳んだ着物を重ねていく。彼の地は閉ざされていて専ら自給自足、新しいものはその都度近隣まで交換に行くか各地に散らばった里人が持ち帰るかしないと手に入れる機会はないと聞く。着回して継いで接いでゆく着物など言うまでもない。
 故に、少女は夏用の着物をいくつか見繕っている。少しぐらいは上背が伸びているかも知れないので丈は詰めていない。恐らく彼の伴侶が手直してくれるだろう。あれはなかなか不器用で、そのくせ世話焼きで、身の回りのことは大抵一人でしてしまう男だと見ている。それも見越して針や糸もいくらか積んでいく。
 夏ならばあれも、もうすぐ秋になるならばこれも、彼の地は樹海深くの里だから。踏んだことのない、人伝いに聞き、水鏡で視たことしかない土地を思う。しばらく顔も見ていないあの子を思う。寂しいなどと感じることはなく、ただただ愉快な気持ちでいっぱいだった。少女の気持ちをかたちにして、丸く膨らんだ包みを天辺できゅうと結ぶ。外国の製法を取り入れて、金糸銀糸を織り込んだという紗はすっかりまあるく不格好になっている。まだ絢爛を残す姿もこれから幾日かを掛け、時に雨風に遭いながら彼の地へと運ばれて、きっと辿り着くころにはすっかり擦れて縒れてしまっているのだろう。それだって最後には無造作に開かれて、この布の価値を介さぬようにぽいと放られるのだ。
 想像した様がおかしくて楽しみで、少女はぽんと丸い包みを叩いた。
(瑠璃/トウジンカグラ)

これは本編後初めての夏を迎える瑠璃
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