No.2316

Day10「突風」 #文披31題 #小咄 #王女と騎士

 悲鳴と歓声が二重に絡まって尾を引いて、あっという間に置き去りになる。
 遠い遠い、高い高い空の向こうへ置いてけぼり。ふたりはぐんぐん遠ざかる。悲鳴から、過去から。ふたりを縛っていた何もかもから。
 ねえ! 歓声が叫んだ。ごうごうという風の音の向こうで、あまりに鮮明な声だった。それもまた頭のずっと遠くに置き去りになった。それでも獣の仔は確かに聞いた。地上に着いたら何しよっか! 悲鳴を上げながら、ずっと向こうのことばを捉えた。ごうごうと唸る音の中、考えた。
 何をしようか。何かできるのだろうか。
 地面を這って進むか弱い虫のように、影を進んで生きるだけではないのだろうか。歓声は潜むことなど何も知らない明るさで、ただただ落下の自由を叫んでいる。どんどん自由が近づいてくる。大地はその大きな手を広げて、空の島から落ちてくるふたりを待っている――
 そういうことは、生きて降りてから考えましょうよ! 悲鳴は泣きを含んで答えたが、涙はまた空の彼方に置き去りになった。きらきらしながら舞い上がって、ふたりの墜落を祝っていた。
(ギベルとレイリア/王女と騎士)

冒険の始まりだヤッホー! ヒエエェェ…!!
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