No.2421

Day28「西日」 #文披31題 #小咄 #リボ

 赤い光が長く伸びる。浮かび上がる影も長く伸びる。赤の中に黒々と、刺すように、墓標のように、あらゆるものが黒く長く。いずれ藍に変わって、黒く溶けて、静かに全てを呑み込んでいく。その寸前、狭間の時間。
 一人きりの長屋の中。遠征ばかりのためか、あるいは別の理由か、室内の景色は自分の家だというのにちっとも馴染みがない。空々しい部屋、赤く満たす光の中で、白い書面だけが浮き上がっている。卓に無造作に置かれたそれを、ティルはじっと見つめている。
 黎明とは真逆の時間だった。立てかけた棍が本物よりもずっとずっと長く伸びて、ティルに突き刺さっている。
 息を吐く。短く、浅く。赤い光を掻き分けて、卓へと近寄る。ほんの短い距離を進む最中、窓から吹き込んだ温い風がティルの赤毛をやわく撫でる。跳ねた毛先が赤に泳ぐ。前髪を浮かす。褒められているような、咎められているような、そんな気分になる。白い紙面を手に取る。
 赤の中に黒々と、あらゆる影が浮かび上がる。ここにはティルしかいない。隣の住人も不在なのか、どこかで砂が巻き上がるような乾いた音だけが聞こえている。己の胸の奥に押し込められた心臓の音すら、埋もれていく。
 紙面を、開く。赤い光の中、一人佇む。綴られた文字と向かい合う。黒々と伸びた棍の影が、音すら立てないティルの胸を貫いている。
(ティル/風紋記)

裏切りものの時間。
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