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これは二次創作なので実際どうなるか知らんけど穂群が凍雨のこと「親父さん」て呼ぶのがあまりにも““““良””””き #トウジンカグラ
ついでなので去年の11月19日と22日の中断したやつ #トウジンカグラ #小咄
七宝とフジの里の暮らしはあまりにも違い過ぎる。
何せ寒い。この屋敷は見る限り里の他の家屋よりは立派だが、それでもどこからか風が吹き込んでくる。七宝宮で隙間風など感じることはなかった。火群は好んで寄りつくことはしなかったが、思えば贅を尽くされたヒノモトで最も尊い帝の御所なのだ。他のどこよりも暮らしやすい場所には違いない。
そもそも、目が開けないほど白く眩く一面に積もる雪など火群は初めて見た。昼には目を瞬くばかりのそれが夜になると月明かりに淡く輝いて、しんしんとして、音が吸い込まれるという感覚も火群は初めて知った。その不思議な聞こえの世界を堪能したのは雪の深まり始めたほんの初日のことで、今や屋敷の囲炉裏の傍で背を丸めるばかりである。
その囲炉裏も、今は灰をかけられてすっかり灯りを落としている。灰の下の埋み火のおかげで外よりはよほど暖かいだろうし、重ねて被った衾も熱を閉じ込めてはいるが、それでも寒いものは寒い。
なので火群は触れるものに腕を絡め、足を絡めて、ぎゅうと抱き寄せた。寝衣越しにも触れる温もりが心地良く、ぐりぐりと頬を寄せてほうと息を吐く。抱いたものを引きずり込むようにもぞもぞと衾に潜り込んでみる。
「……穂群」
「ん」
頭の天辺をくすぐる声が降ってくる。
火群は喉奥だけで答えて、足りない分を埋めるようにまた頬を寄せる。
ぺったりと、潰れるぐらいにくっついた耳がどこか大きく気忙しい音を拾う。それはどっ、どっと重く響いて、聞いた火群はふるりとちいさく身体を震わせた。じわりと滲む衝動のまま、衾の中で更に腕を、足を絡める。ぐっと抱き締めた身体が強張って、それからぎこちなく弛緩する。
「……寒いのか」
再度落ちてくる声は、かたくてやわらかい。
そろと、火群の肩に手が触れる。それは寄せるでもなく、けれど引き剥がすこともせず、半端な場所で留まっている。手のひらからじわりと滲む熱はただただ熱い。
「んー?」
それがおかしくて、火群は寄せるばかりだった頭を持ち上げた。
衾の中から見上げれば暗がりの中、濃藍の瞳がそうっと、しかし奥に炎を揺らめかせて見つめている。
ああ、この顔ときたら。
思わず声を上げて笑いそうになる。堪えるようにまた顔を伏せて、熾火を隠せない男の胸に頬を寄せる。ぐりぐりと頬を押しつければ男の寝衣が徐々にはだけて、触れる皮膚の厚さと響く鼓動の速さが鮮明になる。半端に触れる手を擦り抜けて自ら腕の中に囚われに行く。そのくせ逃がさないのはこちら側なのだと、腹も下肢も押しつけながら足を強く絡める。
「さみィ」
「……な、ら、囲炉裏に、火を」
「いいよ。わかンだろ?」
掻き抱いた身体がぎこちなく、体よく理由を見つけて衾から、火群の腕から逃げだそうとするが許さない。これ以上はとけてくっついてしまうほどに抱きついて視線だけで見上げれば、いよいよ以てゆらゆらと揺れる濃藍が火群を捉えていた。もしもここで灰で覆った炭に再び火を入れれば、その炎よりも赤い頬が見えるのだろう。
それも愉しそうではあるが、火群はとかく寒いのだ。折角温めた床の温もりも、冷静ぶっておきながらゆらゆら揺れる欲を隠せない男も逃がすつもりはない。追い打ちとばかりに囁く。
「な、ひさめ」
「っ」
殊更大切に紡いだ名前は吐息になって、はだけた男の肌を擽る。どうしようもなく跳ねた氷雨の鼓動を笑うことはせずただ擦り寄れば、観念したように、それでもそろりそろりと、氷雨の手が火群の肩を、背を滑った。やわりと、今度こそ確かに抱き締められて火群もぐりぐりと身体を寄せる。強張る氷雨の身体がやっぱりおかしくて、けれど笑みは唇を舌でなぞって宥め飼い慣らした。
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七宝とフジの里の暮らしはあまりにも違い過ぎる。
何せ寒い。この屋敷は見る限り里の他の家屋よりは立派だが、それでもどこからか風が吹き込んでくる。七宝宮で隙間風など感じることはなかった。火群は好んで寄りつくことはしなかったが、思えば贅を尽くされたヒノモトで最も尊い帝の御所なのだ。他のどこよりも暮らしやすい場所には違いない。
そもそも、目が開けないほど白く眩く一面に積もる雪など火群は初めて見た。昼には目を瞬くばかりのそれが夜になると月明かりに淡く輝いて、しんしんとして、音が吸い込まれるという感覚も火群は初めて知った。その不思議な聞こえの世界を堪能したのは雪の深まり始めたほんの初日のことで、今や屋敷の囲炉裏の傍で背を丸めるばかりである。
その囲炉裏も、今は灰をかけられてすっかり灯りを落としている。灰の下の埋み火のおかげで外よりはよほど暖かいだろうし、重ねて被った衾も熱を閉じ込めてはいるが、それでも寒いものは寒い。
なので火群は触れるものに腕を絡め、足を絡めて、ぎゅうと抱き寄せた。寝衣越しにも触れる温もりが心地良く、ぐりぐりと頬を寄せてほうと息を吐く。抱いたものを引きずり込むようにもぞもぞと衾に潜り込んでみる。
「……穂群」
「ん」
頭の天辺をくすぐる声が降ってくる。
火群は喉奥だけで答えて、足りない分を埋めるようにまた頬を寄せる。
ぺったりと、潰れるぐらいにくっついた耳がどこか大きく気忙しい音を拾う。それはどっ、どっと重く響いて、聞いた火群はふるりとちいさく身体を震わせた。じわりと滲む衝動のまま、衾の中で更に腕を、足を絡める。ぐっと抱き締めた身体が強張って、それからぎこちなく弛緩する。
「……寒いのか」
再度落ちてくる声は、かたくてやわらかい。
そろと、火群の肩に手が触れる。それは寄せるでもなく、けれど引き剥がすこともせず、半端な場所で留まっている。手のひらからじわりと滲む熱はただただ熱い。
「んー?」
それがおかしくて、火群は寄せるばかりだった頭を持ち上げた。
衾の中から見上げれば暗がりの中、濃藍の瞳がそうっと、しかし奥に炎を揺らめかせて見つめている。
ああ、この顔ときたら。
思わず声を上げて笑いそうになる。堪えるようにまた顔を伏せて、熾火を隠せない男の胸に頬を寄せる。ぐりぐりと頬を押しつければ男の寝衣が徐々にはだけて、触れる皮膚の厚さと響く鼓動の速さが鮮明になる。半端に触れる手を擦り抜けて自ら腕の中に囚われに行く。そのくせ逃がさないのはこちら側なのだと、腹も下肢も押しつけながら足を強く絡める。
「さみィ」
「……な、ら、囲炉裏に、火を」
「いいよ。わかンだろ?」
掻き抱いた身体がぎこちなく、体よく理由を見つけて衾から、火群の腕から逃げだそうとするが許さない。これ以上はとけてくっついてしまうほどに抱きついて視線だけで見上げれば、いよいよ以てゆらゆらと揺れる濃藍が火群を捉えていた。もしもここで灰で覆った炭に再び火を入れれば、その炎よりも赤い頬が見えるのだろう。
それも愉しそうではあるが、火群はとかく寒いのだ。折角温めた床の温もりも、冷静ぶっておきながらゆらゆら揺れる欲を隠せない男も逃がすつもりはない。追い打ちとばかりに囁く。
「な、ひさめ」
「っ」
殊更大切に紡いだ名前は吐息になって、はだけた男の肌を擽る。どうしようもなく跳ねた氷雨の鼓動を笑うことはせずただ擦り寄れば、観念したように、それでもそろりそろりと、氷雨の手が火群の肩を、背を滑った。やわりと、今度こそ確かに抱き締められて火群もぐりぐりと身体を寄せる。強張る氷雨の身体がやっぱりおかしくて、けれど笑みは唇を舌でなぞって宥め飼い慣らした。
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常識が薄々なのである程度の特殊プレイにもそういうモンかァで対応してしまう穂群、飲食物に関してだけは瑠璃の躾が先行するので断るけど氷雨が体裁を全て擲って土下座してきたら受け入れてしまう破れ鍋に綴じ蓋 #トウジンカグラ
今日はハチミツの日ですが宮中から露から善意で贈られた滋養たっぷりのハチミツをウッカリ穂群に滴らせて事に及んだものの普段の穂群(の諸々)の方が甘いな…という知見を真面目に得る氷雨という本編後虚構二次創作がどこにもないのは由々しき問題 #トウジンカグラ
リボ=風紋記/ReVOLVERSはページを丸ごと閉じて幾久しく本当に記憶にないお誕生日SSが出てきても置いておくところがないのでとりあえずここに置いておくかという気持ち #リボ #小咄
なお誕生日は3月31日
酒の席で、そういやお前いくつになったんだっけか、などと話題にされたのはいつのことだったか。
この手の話題は面倒だし、相手も相当呑んで赤ら顔だった。ので、さあ、いくつでしたっけねえ、などと返して躱そうとした。お前若いのにそんなボケたこと言ってて大丈夫か? などと善意の追撃を食らったが、忘れたものは忘れましたから、で無理を通して酒を舐めた。
とはいえ相手も絡み酒である。この程度で解放されるとも思っていなかったのでそこは予想の範囲内だ。
「最初に会ったときいくつだっつってたっけなあ。お前、誕生日は?」
「……さあ?」
ただし、答えに窮する。
生まれた日、さて。これは本当に覚えがない。今生での年齢に関しては一応覚えていてとぼけているのだが、年の変わり目で数えているので生まれた日を気にしたことがなかった。
対する相手は赤い眉間に縦皺を刻み、ずいと顔を寄せてきた。
「それも覚えてないのか!」
「覚えてないというか、はあ、まあ」
「おいおい……大事なことだろ?」
こちらとしては生まれた日などより、間近で酒臭い溜め息を吐かれることの方が余程大ごとである。
すすすと身を引いても赤ら顔はにじり寄ってきた。そろそろ後頭部あたりに一発入れていいだろうか、記憶もきれいに飛ぶように、且つ殴打の痕跡を残さないように良い角度で。あるいはこれを顔面にぶっかけるのはどうだろう。いや酔いを申し訳程度に醒ますか更に絡まれるかの二択でしかない気がする。
そんなことを考えながら酒杯を覗き込みつつ、お返しではないが溜め息に乗せて答える。
「別に。ストラル様ぐらい立場のある方ならともかく、一年のうちのいつも通りの一日でしょう」
「……お前、」
「強いて言えば、死ぬために生まれた一生に一度きりの日ですか」
立場ある人間であればその日と祝いを口実に駆け引きだとか根回しだとか、そんなことをしなければならないのだろう。自分はそうではない。単なる一兵卒、今生はこの酔っ払いの食客である。更に言えば自分の場合、一生に一度きりを何度も何度も繰り返しているわけで、全く以てありがたくも何もない。むしろ忌むべき――
瞬間、目の前に影。
顔を上げれば吐息どころか唇すら触れそうな距離に、じっとりした目の主人がいる。
「暗い」
「はあ?」
「暗いぞお前、いや暗いなんてもんじゃない。夜闇だ。沼の底だ。墨汁の化身だ」
そろそろかちんときて酒杯を掴む手に力がこもった。いざ顔面、という思考を読んだのかぱっと顔が離れていく。それどころか席を立って仁王立ち。腰に手を当て、こちらを見下ろす表情はにやりと、あからさまにろくでもないことを考えている顔である。
主は酒杯を手にしたまま胸を叩く。天から零れる酒を避けながら耳にした言葉を、ここから先しばらくはすっかり忘れていた。
「見てろよカイ。俺が、お前に、誕生日のなんたるかを教えてやろう」
――そう言えばそんなこともあったなあ。
遠い目をする。開かれた扉、既に見慣れた室内はいつもより豪奢な花が飾り付けられ、卓上には少しばかり手の込んだ料理が並んでいる。満面の笑みを浮かべながら主、且つ仕掛け人たるストラルは手ずから椅子を引いた。
「さあどうだカイ! いや、まずは座れ!」
一度家に帰るからお前もついてこい、などと言われたときは別段いつも通りだと思った。軍の宿舎にいても特にすることもなく、一応自分はストラル個人の食客であるからして雇い主に従うべきである。特にストラルは人と関わりたい、面倒を見たい性分だということもわかっていたので、まあいつぞやのようなとんでもない子守をさせられるのでなければ、と同行した次第である。
まさかこんな思惑があったとは。例え酒の席であっても、この人が有言実行と誠実と驚かせたがりを忘れるはずがなかったのである。
「どうだ、と言われましても、僕の誕生日は、」
「覚えてないなら今日が誕生日だ! そういうことでいいだろう!」
「いやいやいや……」
堂々と胸を張りながら粗雑極まりない発言をする主に、然りとて抗うことも上手く言い返すこともできない。何より席は用意されており、用意したのは恐らくこの大雑把な主ではないのだから。
諦めて大人しく席に収まれば、酒を手にしたストラルの奥方――ティアナがにこにこと傍に寄ってきた。
「香の龍砂だけれど、よかったかしら」
「……わざわざすみません、ティアナ様」
生まれた日と同じく思い入れのない故郷の酒を取り寄せてくれたことと、こんな席を用意してくれたことに関して頭を下げる。全く気にした様子もなく、むしろ嬉しそうにティアナは杯を握らせてきた。
「謝るのはこちらの方よ。この人の遊びに付き合ってくれて」
「おーい、ティアナ」
「それから何よりも感謝を。こんなにお料理を作ったのもひさしぶりで楽しかったし、あなたにはいつも夫が世話になっているのにお礼をする機会もなかったから」
注がれる酒に返す言葉もなく、どうにも据わりが悪く視線を彷徨わせる。すると向かいの席に座ったストラルがにやりと笑って、また言いようのない感情に視線を逸らした。腹が立つ、ではないが、してやられた、というか。悔しい、というのでもないが、少なくともこの主に対して謝意を述べられるほど素直な性格ではないという自覚ぐらいはある。
ティアナも黙り込んだカイに何を言うでもなく、微笑んだまま自分の席に戻っていく。入れ替わるように服の裾を引かれる。視線を落とせばこの家の最後の一人がじっとこちらを見上げていた。手を後ろに回し、もぞもぞと身体を揺すっている。
手にした酒杯を一度卓に置き、椅子を降りて跪く。折角目の高さが合ったのに、相手はちらちらと視線を逸らし、すぐにこちらへと戻し、かと思えば逸らしを繰り返していた。ああこれはつい先ほどの自分と同じだな、などと気づいてしまえば妙に生温い気持ちになる。
「……どうしました、カイル様」
「あ、あの、あのね、ねーね」
大姐を意味する呼び方を咎めたいところだが、ぽっと頬を染めて言葉を探す幼子を遮る気も起きない。脱力しそうになる思考をどうにか追いやって続きを待つ。
やがて意を決したのか、カイルはぱっと両手を前に突き出した。
「ねーね、これあげる!」
ちいさな手のひらに載せられているのは、ところどころ歪な編み目をした紐だった。何色かの糸を縒り合わせたそれは不格好な編み方も相まって手作りだと知れる。作り手はもちろん、この子どもだろう。
「あなたがね、いつでも身につけられるものを作りたいって」
大皿から料理を各人の更に装いながら、ティアナが苦笑している。その隣ではストラルがこちらを見つめながら目を細めている。
「装身具だと好みもあるし、戦の時に邪魔になるかも知れないでしょう? でも髪結い紐だったらいつも使うものだし、邪魔にもならないし、この子でも作れるから」
「……カイル様がお一人で作られたんですか?」
「うん!」
もじもじと俯いていた子どもがぱっと顔を上げた。得意げな、そのくせまだ不安げな表情でこちらを見つめている。
すっと手を伸ばす――伸ばそうとして、跪いたままくるりと背を向けた。背後からひえっと不明な声が聞こえるが、勘違いをして泣き出す前に後ろに手を伸ばした。今使っている結い紐を解き、ばらりと髪の散るままに目線だけで振り向いて口を開く。
「カイル様、よろしければ結ってくださいませんか」
「……うん!」
恐らくあの紐の不格好さから、きっと結われた髪もとてもきれいとは言い難い仕上がりになるのだろう。
それでも今日ぐらいはいいかと思いながら、ちいさな手に髪を委ねる。
「ねーね、誕生日おめでとう」
祝われる自分よりもずっと嬉しそうに子どもが囁く。時折首筋に触れる柔らかい手がぽかぽかと温かい。
その両親の視線も温かく、どうにも落ち着かない気持ちで、けれどたまには悪くないと目を閉じた。
* * *
随分と草臥れた結い紐ですねえ。
手慰みに、カイの髪に櫛を通していたウノカが呟いた。結い紐と言われて、今や遠いらしい春の日を思い出す。何がどうして死せずここにあるのかはわからないが、ずっと首筋にあったあの紐も健在らしい。
「新しいのに変えませんか? 私、いろいろ持ってますよ」
「……気持ちはありがたいけど、この紐で特に不便なこともないし」
ちらりと視線を動かす。馬車の荷台に腰掛けて矛の手入れを続けるティルがいる。初めはカイを女子扱いするかのように戯れるウノカに苦言を呈しいていたが、今はもう諦めたらしく特に反応を返すこともない。黙々と矛を見つめて手を動かしていた。
嘆息して、そっとウノカの手を払う。堅く結わえた紐は随分と長いこと自分の傍にあって、不格好だった最初の姿などもう残っていない。
あのとき、強引に祝いの席を構えた主がいなくなっても、奥方がどうしているのかわからなくても、あのちいさな手で紐を差し出してきた子どもが変わってしまっても。片割れが消えてしまっても自分が名前を偽っても。最初の姿をなくしたこの紐だけは、ずっと共に在る。
「それに、気に入ってるんだ。大事な贈り物だから」
ウノカのちいさな謝罪の声に手を振って返し、空を見上げる。いつか砕けて破片を散らした空は白けた青を晒していて、どこからか散った淡い花弁が一枚、横切るだけだった。
* * *
「ということが、僕の人生においてもあったわけだけど」
「そうか」
「……君、僕の本当の誕生日知ってるんだよね?」
「ああ。ついでに言うと、今まできちんと祝っていたぞ。目に見える形で」
「え?」
「お前の部屋に花を一輪置くなどしていた」
「…………そんなこともあったようななかったような気がするけどさあ。それって単純に気持ち悪」
「気持ちはわかる! 非常にわかるが今は黙っておいてやれカイ! 無言で泣くなセイ!」
「な、泣いてない、泣いてないぞシエル」
「……ごめん、僕が悪かったよ」
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なお誕生日は3月31日
酒の席で、そういやお前いくつになったんだっけか、などと話題にされたのはいつのことだったか。
この手の話題は面倒だし、相手も相当呑んで赤ら顔だった。ので、さあ、いくつでしたっけねえ、などと返して躱そうとした。お前若いのにそんなボケたこと言ってて大丈夫か? などと善意の追撃を食らったが、忘れたものは忘れましたから、で無理を通して酒を舐めた。
とはいえ相手も絡み酒である。この程度で解放されるとも思っていなかったのでそこは予想の範囲内だ。
「最初に会ったときいくつだっつってたっけなあ。お前、誕生日は?」
「……さあ?」
ただし、答えに窮する。
生まれた日、さて。これは本当に覚えがない。今生での年齢に関しては一応覚えていてとぼけているのだが、年の変わり目で数えているので生まれた日を気にしたことがなかった。
対する相手は赤い眉間に縦皺を刻み、ずいと顔を寄せてきた。
「それも覚えてないのか!」
「覚えてないというか、はあ、まあ」
「おいおい……大事なことだろ?」
こちらとしては生まれた日などより、間近で酒臭い溜め息を吐かれることの方が余程大ごとである。
すすすと身を引いても赤ら顔はにじり寄ってきた。そろそろ後頭部あたりに一発入れていいだろうか、記憶もきれいに飛ぶように、且つ殴打の痕跡を残さないように良い角度で。あるいはこれを顔面にぶっかけるのはどうだろう。いや酔いを申し訳程度に醒ますか更に絡まれるかの二択でしかない気がする。
そんなことを考えながら酒杯を覗き込みつつ、お返しではないが溜め息に乗せて答える。
「別に。ストラル様ぐらい立場のある方ならともかく、一年のうちのいつも通りの一日でしょう」
「……お前、」
「強いて言えば、死ぬために生まれた一生に一度きりの日ですか」
立場ある人間であればその日と祝いを口実に駆け引きだとか根回しだとか、そんなことをしなければならないのだろう。自分はそうではない。単なる一兵卒、今生はこの酔っ払いの食客である。更に言えば自分の場合、一生に一度きりを何度も何度も繰り返しているわけで、全く以てありがたくも何もない。むしろ忌むべき――
瞬間、目の前に影。
顔を上げれば吐息どころか唇すら触れそうな距離に、じっとりした目の主人がいる。
「暗い」
「はあ?」
「暗いぞお前、いや暗いなんてもんじゃない。夜闇だ。沼の底だ。墨汁の化身だ」
そろそろかちんときて酒杯を掴む手に力がこもった。いざ顔面、という思考を読んだのかぱっと顔が離れていく。それどころか席を立って仁王立ち。腰に手を当て、こちらを見下ろす表情はにやりと、あからさまにろくでもないことを考えている顔である。
主は酒杯を手にしたまま胸を叩く。天から零れる酒を避けながら耳にした言葉を、ここから先しばらくはすっかり忘れていた。
「見てろよカイ。俺が、お前に、誕生日のなんたるかを教えてやろう」
――そう言えばそんなこともあったなあ。
遠い目をする。開かれた扉、既に見慣れた室内はいつもより豪奢な花が飾り付けられ、卓上には少しばかり手の込んだ料理が並んでいる。満面の笑みを浮かべながら主、且つ仕掛け人たるストラルは手ずから椅子を引いた。
「さあどうだカイ! いや、まずは座れ!」
一度家に帰るからお前もついてこい、などと言われたときは別段いつも通りだと思った。軍の宿舎にいても特にすることもなく、一応自分はストラル個人の食客であるからして雇い主に従うべきである。特にストラルは人と関わりたい、面倒を見たい性分だということもわかっていたので、まあいつぞやのようなとんでもない子守をさせられるのでなければ、と同行した次第である。
まさかこんな思惑があったとは。例え酒の席であっても、この人が有言実行と誠実と驚かせたがりを忘れるはずがなかったのである。
「どうだ、と言われましても、僕の誕生日は、」
「覚えてないなら今日が誕生日だ! そういうことでいいだろう!」
「いやいやいや……」
堂々と胸を張りながら粗雑極まりない発言をする主に、然りとて抗うことも上手く言い返すこともできない。何より席は用意されており、用意したのは恐らくこの大雑把な主ではないのだから。
諦めて大人しく席に収まれば、酒を手にしたストラルの奥方――ティアナがにこにこと傍に寄ってきた。
「香の龍砂だけれど、よかったかしら」
「……わざわざすみません、ティアナ様」
生まれた日と同じく思い入れのない故郷の酒を取り寄せてくれたことと、こんな席を用意してくれたことに関して頭を下げる。全く気にした様子もなく、むしろ嬉しそうにティアナは杯を握らせてきた。
「謝るのはこちらの方よ。この人の遊びに付き合ってくれて」
「おーい、ティアナ」
「それから何よりも感謝を。こんなにお料理を作ったのもひさしぶりで楽しかったし、あなたにはいつも夫が世話になっているのにお礼をする機会もなかったから」
注がれる酒に返す言葉もなく、どうにも据わりが悪く視線を彷徨わせる。すると向かいの席に座ったストラルがにやりと笑って、また言いようのない感情に視線を逸らした。腹が立つ、ではないが、してやられた、というか。悔しい、というのでもないが、少なくともこの主に対して謝意を述べられるほど素直な性格ではないという自覚ぐらいはある。
ティアナも黙り込んだカイに何を言うでもなく、微笑んだまま自分の席に戻っていく。入れ替わるように服の裾を引かれる。視線を落とせばこの家の最後の一人がじっとこちらを見上げていた。手を後ろに回し、もぞもぞと身体を揺すっている。
手にした酒杯を一度卓に置き、椅子を降りて跪く。折角目の高さが合ったのに、相手はちらちらと視線を逸らし、すぐにこちらへと戻し、かと思えば逸らしを繰り返していた。ああこれはつい先ほどの自分と同じだな、などと気づいてしまえば妙に生温い気持ちになる。
「……どうしました、カイル様」
「あ、あの、あのね、ねーね」
大姐を意味する呼び方を咎めたいところだが、ぽっと頬を染めて言葉を探す幼子を遮る気も起きない。脱力しそうになる思考をどうにか追いやって続きを待つ。
やがて意を決したのか、カイルはぱっと両手を前に突き出した。
「ねーね、これあげる!」
ちいさな手のひらに載せられているのは、ところどころ歪な編み目をした紐だった。何色かの糸を縒り合わせたそれは不格好な編み方も相まって手作りだと知れる。作り手はもちろん、この子どもだろう。
「あなたがね、いつでも身につけられるものを作りたいって」
大皿から料理を各人の更に装いながら、ティアナが苦笑している。その隣ではストラルがこちらを見つめながら目を細めている。
「装身具だと好みもあるし、戦の時に邪魔になるかも知れないでしょう? でも髪結い紐だったらいつも使うものだし、邪魔にもならないし、この子でも作れるから」
「……カイル様がお一人で作られたんですか?」
「うん!」
もじもじと俯いていた子どもがぱっと顔を上げた。得意げな、そのくせまだ不安げな表情でこちらを見つめている。
すっと手を伸ばす――伸ばそうとして、跪いたままくるりと背を向けた。背後からひえっと不明な声が聞こえるが、勘違いをして泣き出す前に後ろに手を伸ばした。今使っている結い紐を解き、ばらりと髪の散るままに目線だけで振り向いて口を開く。
「カイル様、よろしければ結ってくださいませんか」
「……うん!」
恐らくあの紐の不格好さから、きっと結われた髪もとてもきれいとは言い難い仕上がりになるのだろう。
それでも今日ぐらいはいいかと思いながら、ちいさな手に髪を委ねる。
「ねーね、誕生日おめでとう」
祝われる自分よりもずっと嬉しそうに子どもが囁く。時折首筋に触れる柔らかい手がぽかぽかと温かい。
その両親の視線も温かく、どうにも落ち着かない気持ちで、けれどたまには悪くないと目を閉じた。
* * *
随分と草臥れた結い紐ですねえ。
手慰みに、カイの髪に櫛を通していたウノカが呟いた。結い紐と言われて、今や遠いらしい春の日を思い出す。何がどうして死せずここにあるのかはわからないが、ずっと首筋にあったあの紐も健在らしい。
「新しいのに変えませんか? 私、いろいろ持ってますよ」
「……気持ちはありがたいけど、この紐で特に不便なこともないし」
ちらりと視線を動かす。馬車の荷台に腰掛けて矛の手入れを続けるティルがいる。初めはカイを女子扱いするかのように戯れるウノカに苦言を呈しいていたが、今はもう諦めたらしく特に反応を返すこともない。黙々と矛を見つめて手を動かしていた。
嘆息して、そっとウノカの手を払う。堅く結わえた紐は随分と長いこと自分の傍にあって、不格好だった最初の姿などもう残っていない。
あのとき、強引に祝いの席を構えた主がいなくなっても、奥方がどうしているのかわからなくても、あのちいさな手で紐を差し出してきた子どもが変わってしまっても。片割れが消えてしまっても自分が名前を偽っても。最初の姿をなくしたこの紐だけは、ずっと共に在る。
「それに、気に入ってるんだ。大事な贈り物だから」
ウノカのちいさな謝罪の声に手を振って返し、空を見上げる。いつか砕けて破片を散らした空は白けた青を晒していて、どこからか散った淡い花弁が一枚、横切るだけだった。
* * *
「ということが、僕の人生においてもあったわけだけど」
「そうか」
「……君、僕の本当の誕生日知ってるんだよね?」
「ああ。ついでに言うと、今まできちんと祝っていたぞ。目に見える形で」
「え?」
「お前の部屋に花を一輪置くなどしていた」
「…………そんなこともあったようななかったような気がするけどさあ。それって単純に気持ち悪」
「気持ちはわかる! 非常にわかるが今は黙っておいてやれカイ! 無言で泣くなセイ!」
「な、泣いてない、泣いてないぞシエル」
「……ごめん、僕が悪かったよ」
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0801の日と0802の日のヒサホム二次創作
※ほんのりすけべ
#トウジンカグラ #小咄
ただいまァ、と蕩けた声が聞こえて、氷雨は蒼天を振る手を止めた。
滲んで滴る汗を拭えば、盥を傍らに抱えた穂群が庭に回り込む姿が見えた。裾をちょろりと結った髪がふわふわ揺れ、氷雨ほどではないが生え際に薄らと汗を滲ませている。盥の中では濡れた布がちいさな山を作っていた。
「おかえり。一人で大丈夫だったか?」
「別に。洗濯だけだろ」
視線すら返すことなく、穂群は答えて盥を足下に置いた。濡れた着物を取り上げパンと叩いて伸ばしている。
こういった物言いが穂群にとって照れ隠しのようなものだと、氷雨は薄々理解している。鞘に納めたままだった蒼天を濡れ縁に横たえ、代わりに庭の隅に寄せていた竿竹を手にしながらせっせと着物の皺を伸ばす伴侶の背中を眺める。当初の当初にはヒノモトを統べる今上帝に知らず甘やかされ、汚れ破れた着物の代わりは何を言わずとも用意されているものと思い込んでいたせいで洗濯という行為を理解していなかった穂群が、フジに移って以降も所在なく暮らしのおおよそを氷雨か、女中のそよに世話されるばかりだったこれが、自ら家の事を一つ一つ覚えて不器用ながらもこなす様が実にいじらしい。別に、洗濯だけ、この台詞を吐くまでにどれほどの――主に氷雨に隠れて家事の教えを請われていたそよの――苦労があったことだろう。大丈夫だったか、という氷雨の危惧には洗濯という行為そのもののみならず、里の洗濯場になっている川縁で他の里人と何某かがあったのではないかという危惧も含まれているのだが、気づいているのかいないのか穂群が答えない以上は今は触れずにおく。
「ありがとうな」
「ん」
竹を持って支えてやれば、ちいさく頭を傾けて穂群が着物の袖を通す。綺麗に皺の伸びた襦袢は氷雨のものだ。続けて穂群が叩いて通したものは穂群自身の着流しで、こちらは皺の伸びが甘い。穂群が手を入れた二着の違いを静かに噛み締めながら、氷雨はいっぱいになった竿を庭の隅に立てられた支柱に渡した。着流しの方は穂群が干し終わって庭から去った後、叩いて皺を伸ばしておいてやろうと密かに考えながら次の竿を取りに戻る。
二人の道着や袴を続けて干し、最後には長く伸びる褌を竿に引っかけてやっと盥が空になる。物置場にしている日陰に盥を干し、穂群ははたはたと襟元をはためかせた。しっとりと汗の滲んだ肌が陽光に晒され、時折開き過ぎた襟から赤い頂がちらりと覗く。思わず凝視しそうになるそこから目を逸らし、氷雨は意味もなく咳払いを零した。ついでにごくりと喉が鳴り、額の汗がつるりと滑っていく。
「疲れただろう、中に戻って涼むといい」
「オマエは?」
「俺……は、もう少し、素振りをしてから戻る、から」
「ふぅん」
穂群の肩を押せばすんなりと進む。かと思えば濡れ縁に腰かけて、そのまま庭を向いて足をぶらつかせ始めた。戻らないのかと視線で問えば、穂群は少しだけ顎を上げる。微かに弓なりに反る喉に薄く汗が滑るのが見えた。
「じゃあ見てる」
「……そうか」
薄らと撓る唇に居心地の悪さを覚えるが、見るな奥にいろと言うのも不自然だろう。穂群が何を思っているのかは知らないが、道場でやっと真っ当な剣を学び始めたからには氷雨の体捌きに興味があるのかも知れない。穂群の隣の蒼天を掴めば、どこからか含んだ笑い声が聞こえてきたが無視を決める。
穂群が洗い、二人で干した洗濯物がゆっくりと風に揺れている。濡れ縁に腰かけて履物を落とした穂群が、素足を遊ばせながら氷雨を眺めている。
先よりも賑やかしい庭で蒼天を上段に構える。一歩踏み出しながら振り下ろす。足を引いて刃先を持ち上げる。少しも揺るがぬように、ざわめく心を律して只管に振る。穂群が戻る前よりも意識を研ぎ澄ませる必要がある。じいっと、氷雨だけを見つめる穂波の瞳の強さときたら。
ちらりと目端に捉えれば、穂群はまたはたりはたりと、ゆるやかに襟を開いていた。氷雨よりも白い肌が晒されて、ふっくりとなだらかな胸が覗いている。時折覗く頂は赤く、氷雨の視線はつい、周囲に残された自身の歯形を捉えてしまう。動揺にぶれればにんまりと、口の端を持ち上げる様が見えた。
「……~~~~穂群ッ」
「あっは。ンだよ、続けねェの?」
遂には曝け出すように片襟を開き、穂群は笑いを多分に含んだ声を返した。これはもう、どう考えても煽っている。だからといって蒼天を下ろし、ずかずかと穂群に歩み寄る自身が一番駄目なのも理解はしているのだがこればかりは仕方がないだろう。
隣に蒼天を転がしながら濡れ縁に片膝から乗り上げる。ちょうど穂群の膝を割るような格好で、そのまま腕がにゅうっと伸びてきた。諸肌脱ぎにしていたせいで素肌同士が触れてかっと熱くなる。穂群の首筋を汗が流れて鎖骨に溜まる様が嫌に眩しく、氷雨は衝動のままにそこに甘く齧り付いた。んッと上がる声は艶めいて、そのくせやはり笑いを含んでいる。やられたと思いながら止まる術などなく、ならばせめてやり返したい。囓った鎖骨を舌でなぞり、氷雨はそのままなだらかな胸へと舌先を這わせた。ふにゅりと沈む感覚に手が伸びるのは最早仕方のないことで、まるで女の乳房のような、けれど丸みを欠いてなだらかなそこを手の腹で撫で摩り、寄せるようにやわく揉んだ。
「んっ……ぁ、は……なァ、ほら……」
「ッ……は……」
ちいさく喉を詰まらせて喘ぎながら、それでも穂群は氷雨の頭を掻き抱く。結い上げた髪に指を絡ませながら撫でられて、氷雨は誘われるまま穂群の肌を吸った。張りのあるなだらかなところ、ふっくりと色づいて膨らむ乳輪、そしてつんと尖りを増す乳首を舌先で弾き、口に含む。
誘っておきながらぴくりと身体全体が跳ねる様が愛おしく、氷雨は片手で穂群の胸をやわやわと揉みながら乳首を吸った。氷雨のものよりもぷっくりとして大きなそれは瑞々しい果実のようで、いつまでも口に含んでいたくなる。母乳が出る訳でもないのに、まるで氷雨をもてなすかのように舌に触れる肌はどこまでも甘い。
二人で暮らすこの天ノ端の別邸は、かつて氷雨の母、しずりが里から隠されるように住んでいた場所だ。実の子である氷雨すらここに来ることは禁じられ遠い記憶は朧になっているが、それでも父の目を盗んで訪れたこの庭の、この縁側に、ちいさな母はいつも楽しそうに座っていた。氷雨を見つけては傍に呼びやさしく頭を撫でてくれた。無論記憶にはなく、幼い精神と肉体の母は乳も出なかったためそよが乳母として赤子の氷雨を育ててくれたと聞いてはいるが、それでもかつて母の暮らしたこの庭で赤子のように穂群の胸をしゃぶる行為には幾許か思うところがないでもない。
胸中を過ぎる背徳感と、少しばかりの興奮。それらを誤魔化すように溢れる唾液を絡めて口内で揉みしだいて吸えば、ひうっと甘ったれた声が頭上から落ちてきた。
「あは……オマエ、ここ……すき、だなァ……? ぁンッ」
「ッハ……お前も、だろッ……!」
自身を棚に上げる穂群を諫めるように甘く尖りに歯を立てれば、跳ねた拍子に穂群の股が氷雨の膝に触れた。身体を重ねるうちに人並みに快楽を得るようになってきたそこは硬さを帯びている。
そもそも誘ったのは穂群からで、ならば欲しいのは氷雨ではなく穂群のはずだろう。なのに氷雨を幼気に扱って笑う穂群に俄に苛立ちを覚え、氷雨は穂群の着物の裾に手を入れた。しっとりと汗の滲んだそこに指を伸ばせば、ぬるんと熱い感触が触れる。
ぴくりと、思わず氷雨のこめかみが蠢いた。
穂群は熱い吐息と共に口の端を緩め、するりと膝を立てる。するすると、勿体ぶるように股を開いて着物の裾を割って――そこには何も身につけていない。しっとりと汗を滲ませ、ちいさく頭をもたげる雄の先、そして晒された奥の蕾が綻んで、とろりと蜜を零している。
「な、ひさめ」
氷雨が舐りしゃぶり、つんと尖らせた乳首をも見せつけるように晒して、穂群はうっとりと微笑んだ。
「しよォぜ」
伴侶の痴態を前にした氷雨の背後で、洗いたての二人の着物がそよそよと風に揺れいた。
閉じる
※ほんのりすけべ
#トウジンカグラ #小咄
ただいまァ、と蕩けた声が聞こえて、氷雨は蒼天を振る手を止めた。
滲んで滴る汗を拭えば、盥を傍らに抱えた穂群が庭に回り込む姿が見えた。裾をちょろりと結った髪がふわふわ揺れ、氷雨ほどではないが生え際に薄らと汗を滲ませている。盥の中では濡れた布がちいさな山を作っていた。
「おかえり。一人で大丈夫だったか?」
「別に。洗濯だけだろ」
視線すら返すことなく、穂群は答えて盥を足下に置いた。濡れた着物を取り上げパンと叩いて伸ばしている。
こういった物言いが穂群にとって照れ隠しのようなものだと、氷雨は薄々理解している。鞘に納めたままだった蒼天を濡れ縁に横たえ、代わりに庭の隅に寄せていた竿竹を手にしながらせっせと着物の皺を伸ばす伴侶の背中を眺める。当初の当初にはヒノモトを統べる今上帝に知らず甘やかされ、汚れ破れた着物の代わりは何を言わずとも用意されているものと思い込んでいたせいで洗濯という行為を理解していなかった穂群が、フジに移って以降も所在なく暮らしのおおよそを氷雨か、女中のそよに世話されるばかりだったこれが、自ら家の事を一つ一つ覚えて不器用ながらもこなす様が実にいじらしい。別に、洗濯だけ、この台詞を吐くまでにどれほどの――主に氷雨に隠れて家事の教えを請われていたそよの――苦労があったことだろう。大丈夫だったか、という氷雨の危惧には洗濯という行為そのもののみならず、里の洗濯場になっている川縁で他の里人と何某かがあったのではないかという危惧も含まれているのだが、気づいているのかいないのか穂群が答えない以上は今は触れずにおく。
「ありがとうな」
「ん」
竹を持って支えてやれば、ちいさく頭を傾けて穂群が着物の袖を通す。綺麗に皺の伸びた襦袢は氷雨のものだ。続けて穂群が叩いて通したものは穂群自身の着流しで、こちらは皺の伸びが甘い。穂群が手を入れた二着の違いを静かに噛み締めながら、氷雨はいっぱいになった竿を庭の隅に立てられた支柱に渡した。着流しの方は穂群が干し終わって庭から去った後、叩いて皺を伸ばしておいてやろうと密かに考えながら次の竿を取りに戻る。
二人の道着や袴を続けて干し、最後には長く伸びる褌を竿に引っかけてやっと盥が空になる。物置場にしている日陰に盥を干し、穂群ははたはたと襟元をはためかせた。しっとりと汗の滲んだ肌が陽光に晒され、時折開き過ぎた襟から赤い頂がちらりと覗く。思わず凝視しそうになるそこから目を逸らし、氷雨は意味もなく咳払いを零した。ついでにごくりと喉が鳴り、額の汗がつるりと滑っていく。
「疲れただろう、中に戻って涼むといい」
「オマエは?」
「俺……は、もう少し、素振りをしてから戻る、から」
「ふぅん」
穂群の肩を押せばすんなりと進む。かと思えば濡れ縁に腰かけて、そのまま庭を向いて足をぶらつかせ始めた。戻らないのかと視線で問えば、穂群は少しだけ顎を上げる。微かに弓なりに反る喉に薄く汗が滑るのが見えた。
「じゃあ見てる」
「……そうか」
薄らと撓る唇に居心地の悪さを覚えるが、見るな奥にいろと言うのも不自然だろう。穂群が何を思っているのかは知らないが、道場でやっと真っ当な剣を学び始めたからには氷雨の体捌きに興味があるのかも知れない。穂群の隣の蒼天を掴めば、どこからか含んだ笑い声が聞こえてきたが無視を決める。
穂群が洗い、二人で干した洗濯物がゆっくりと風に揺れている。濡れ縁に腰かけて履物を落とした穂群が、素足を遊ばせながら氷雨を眺めている。
先よりも賑やかしい庭で蒼天を上段に構える。一歩踏み出しながら振り下ろす。足を引いて刃先を持ち上げる。少しも揺るがぬように、ざわめく心を律して只管に振る。穂群が戻る前よりも意識を研ぎ澄ませる必要がある。じいっと、氷雨だけを見つめる穂波の瞳の強さときたら。
ちらりと目端に捉えれば、穂群はまたはたりはたりと、ゆるやかに襟を開いていた。氷雨よりも白い肌が晒されて、ふっくりとなだらかな胸が覗いている。時折覗く頂は赤く、氷雨の視線はつい、周囲に残された自身の歯形を捉えてしまう。動揺にぶれればにんまりと、口の端を持ち上げる様が見えた。
「……~~~~穂群ッ」
「あっは。ンだよ、続けねェの?」
遂には曝け出すように片襟を開き、穂群は笑いを多分に含んだ声を返した。これはもう、どう考えても煽っている。だからといって蒼天を下ろし、ずかずかと穂群に歩み寄る自身が一番駄目なのも理解はしているのだがこればかりは仕方がないだろう。
隣に蒼天を転がしながら濡れ縁に片膝から乗り上げる。ちょうど穂群の膝を割るような格好で、そのまま腕がにゅうっと伸びてきた。諸肌脱ぎにしていたせいで素肌同士が触れてかっと熱くなる。穂群の首筋を汗が流れて鎖骨に溜まる様が嫌に眩しく、氷雨は衝動のままにそこに甘く齧り付いた。んッと上がる声は艶めいて、そのくせやはり笑いを含んでいる。やられたと思いながら止まる術などなく、ならばせめてやり返したい。囓った鎖骨を舌でなぞり、氷雨はそのままなだらかな胸へと舌先を這わせた。ふにゅりと沈む感覚に手が伸びるのは最早仕方のないことで、まるで女の乳房のような、けれど丸みを欠いてなだらかなそこを手の腹で撫で摩り、寄せるようにやわく揉んだ。
「んっ……ぁ、は……なァ、ほら……」
「ッ……は……」
ちいさく喉を詰まらせて喘ぎながら、それでも穂群は氷雨の頭を掻き抱く。結い上げた髪に指を絡ませながら撫でられて、氷雨は誘われるまま穂群の肌を吸った。張りのあるなだらかなところ、ふっくりと色づいて膨らむ乳輪、そしてつんと尖りを増す乳首を舌先で弾き、口に含む。
誘っておきながらぴくりと身体全体が跳ねる様が愛おしく、氷雨は片手で穂群の胸をやわやわと揉みながら乳首を吸った。氷雨のものよりもぷっくりとして大きなそれは瑞々しい果実のようで、いつまでも口に含んでいたくなる。母乳が出る訳でもないのに、まるで氷雨をもてなすかのように舌に触れる肌はどこまでも甘い。
二人で暮らすこの天ノ端の別邸は、かつて氷雨の母、しずりが里から隠されるように住んでいた場所だ。実の子である氷雨すらここに来ることは禁じられ遠い記憶は朧になっているが、それでも父の目を盗んで訪れたこの庭の、この縁側に、ちいさな母はいつも楽しそうに座っていた。氷雨を見つけては傍に呼びやさしく頭を撫でてくれた。無論記憶にはなく、幼い精神と肉体の母は乳も出なかったためそよが乳母として赤子の氷雨を育ててくれたと聞いてはいるが、それでもかつて母の暮らしたこの庭で赤子のように穂群の胸をしゃぶる行為には幾許か思うところがないでもない。
胸中を過ぎる背徳感と、少しばかりの興奮。それらを誤魔化すように溢れる唾液を絡めて口内で揉みしだいて吸えば、ひうっと甘ったれた声が頭上から落ちてきた。
「あは……オマエ、ここ……すき、だなァ……? ぁンッ」
「ッハ……お前も、だろッ……!」
自身を棚に上げる穂群を諫めるように甘く尖りに歯を立てれば、跳ねた拍子に穂群の股が氷雨の膝に触れた。身体を重ねるうちに人並みに快楽を得るようになってきたそこは硬さを帯びている。
そもそも誘ったのは穂群からで、ならば欲しいのは氷雨ではなく穂群のはずだろう。なのに氷雨を幼気に扱って笑う穂群に俄に苛立ちを覚え、氷雨は穂群の着物の裾に手を入れた。しっとりと汗の滲んだそこに指を伸ばせば、ぬるんと熱い感触が触れる。
ぴくりと、思わず氷雨のこめかみが蠢いた。
穂群は熱い吐息と共に口の端を緩め、するりと膝を立てる。するすると、勿体ぶるように股を開いて着物の裾を割って――そこには何も身につけていない。しっとりと汗を滲ませ、ちいさく頭をもたげる雄の先、そして晒された奥の蕾が綻んで、とろりと蜜を零している。
「な、ひさめ」
氷雨が舐りしゃぶり、つんと尖らせた乳首をも見せつけるように晒して、穂群はうっとりと微笑んだ。
「しよォぜ」
伴侶の痴態を前にした氷雨の背後で、洗いたての二人の着物がそよそよと風に揺れいた。
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11話以降、頭に羽を挿した怪しい男に金平糖で懐柔される七宝キッズ。死んだ妹にも食べさせてやりたいと思う小六太 #トウジンカグラ
海の日ネタなんてないと~じんかぐらには、七宝もフジも内陸地なので…って思いながら働いて一日終わったけど露の国(露下)には…海が…ある…ッ!!サーフパンツの波佩熊野とシンプルビキニの七郎がサーフボードパラソル浮き輪持って砂浜に駆け出すのが容易に想像できてクソッまた露の国か!!ってなった #トウジンカグラ
火群は穂群になっても地の文は火群なんだけど氷雨視点だと地の文から穂群になる知見を得た
#トウジンカグラ
#トウジンカグラ
アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑪ #トウジンカグラ #小咄
我を持つことに其方らが価値を見出すならば、奪い合うのもまた一興。血の縁よりも血を流す、我はそれでも大いに構わんぞ。なあ?」
蒼天が小首を傾げる。陽光の煌めきにさらさらと結い髪が滑るが、その眩しさを見つめる者などこの場にはいない。里を取り仕切る老人たちは皆伏せて震えるだけである。
ひたすらの沈黙に、蒼天は笑んだまま瞬きを繰り返す。腹の底まで浚うような息を吐き、そのまま吐き捨てるように凍雨が口を開いた。
「神剣様を奪い合い血を流すなど不敬と言いたいようだが」
「そうか。我が良いと言うのだから良いのになあ。残念残念」
ひょいと肩を竦めた蒼天は、ふと思いついたように手を打ち鳴らした。凍雨は相変わらず嫌そうに目を背け、そして老人たちはびくりと背を跳ねさせる。
「ならば世継ぎの件はどうだ? 爺共が拘るならせめて穂群が孕めるように我の方で」
「それは向こうと話せ、失せろ」
風鳴りに陽光が散る。凍雨が耐えかねて振るう刃に蒼天は唇を尖らせた。ふわりと浮きながら瞬きの間に神剣は姿を消す。
「あーあ、つまらんなあ」
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我を持つことに其方らが価値を見出すならば、奪い合うのもまた一興。血の縁よりも血を流す、我はそれでも大いに構わんぞ。なあ?」
蒼天が小首を傾げる。陽光の煌めきにさらさらと結い髪が滑るが、その眩しさを見つめる者などこの場にはいない。里を取り仕切る老人たちは皆伏せて震えるだけである。
ひたすらの沈黙に、蒼天は笑んだまま瞬きを繰り返す。腹の底まで浚うような息を吐き、そのまま吐き捨てるように凍雨が口を開いた。
「神剣様を奪い合い血を流すなど不敬と言いたいようだが」
「そうか。我が良いと言うのだから良いのになあ。残念残念」
ひょいと肩を竦めた蒼天は、ふと思いついたように手を打ち鳴らした。凍雨は相変わらず嫌そうに目を背け、そして老人たちはびくりと背を跳ねさせる。
「ならば世継ぎの件はどうだ? 爺共が拘るならせめて穂群が孕めるように我の方で」
「それは向こうと話せ、失せろ」
風鳴りに陽光が散る。凍雨が耐えかねて振るう刃に蒼天は唇を尖らせた。ふわりと浮きながら瞬きの間に神剣は姿を消す。
「あーあ、つまらんなあ」
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑩ #トウジンカグラ #小咄
刃を握る凍雨は平然として目を剥く銀竹を見下ろしている。
「――盛り上がってきたなあ」
更に高みから、長閑な声が陽光の如くやんわりと降り注いだ。
その場にいた老人たちが皆、天を仰ぐ。銀竹も喉元の刃先を厭わず皆に倣い、凍雨だけが視線を揺らすことなく舌を打って納刀した。舌打ちと刃が鞘を滑る音にころころと笑いが重なり、老人たちが一斉に平伏す。
「ああよいよい。そのままでよかろうに、爺共は相変わらず大仰なことだなあ」
空の色を映す羽織が揺れる。天井近くの宙に座していた神剣は笑みながら、仕い手たる当主の席にふわりと座してみせた。
大広間でただ一人、凍雨だけが眉間に深々と縦皺を刻んで立ち尽くしている。蒼天はにこやかにかつての仕い手を見上げた。
「皆凍雨のように堂々としておればよかろうに。なあ?」
「喋るな」
「はっはっは、其方は相変わらず達者でよい。爺共も言など弄せず、これぐらいの勢いを持つがよかろうに」
平伏す肩が動揺に揺れる。蒼天は大広間に居並び伏す老人たちを、一人一人眺めて笑う。
「我は血になど拘っておらん。
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刃を握る凍雨は平然として目を剥く銀竹を見下ろしている。
「――盛り上がってきたなあ」
更に高みから、長閑な声が陽光の如くやんわりと降り注いだ。
その場にいた老人たちが皆、天を仰ぐ。銀竹も喉元の刃先を厭わず皆に倣い、凍雨だけが視線を揺らすことなく舌を打って納刀した。舌打ちと刃が鞘を滑る音にころころと笑いが重なり、老人たちが一斉に平伏す。
「ああよいよい。そのままでよかろうに、爺共は相変わらず大仰なことだなあ」
空の色を映す羽織が揺れる。天井近くの宙に座していた神剣は笑みながら、仕い手たる当主の席にふわりと座してみせた。
大広間でただ一人、凍雨だけが眉間に深々と縦皺を刻んで立ち尽くしている。蒼天はにこやかにかつての仕い手を見上げた。
「皆凍雨のように堂々としておればよかろうに。なあ?」
「喋るな」
「はっはっは、其方は相変わらず達者でよい。爺共も言など弄せず、これぐらいの勢いを持つがよかろうに」
平伏す肩が動揺に揺れる。蒼天は大広間に居並び伏す老人たちを、一人一人眺めて笑う。
「我は血になど拘っておらん。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑨ #トウジンカグラ #小咄
「……後は若い二人に任せるということで、ね! 長老方でどうぞご歓談の程!」
縁台の影からそれだけを叫び、ヒュッと走り去る影がある。おいあれは養鶏の、そよのところの倅が、囁く老人もいたが、里長たる凍雨が立ち上がったことで皆一様に押し黙った。
凍雨は冷えた視線を先刻まで息子が座していた席に落とす。耐えかねて砕けた杯だけが転がっている。
続けて大広間を一瞥し、凍雨は静かに口を開いた。
「当主も辞した以上、この席は終いだ。残りたい者は好きにせよ」
「ま……待て凍雨!」
一方的に言い捨てる凍雨に、思わずといった様子で山籟が立ち上がった。こめかみに青筋が浮き、その眦は吊り上がっている。
「ふざけるのも大概にしろ!」
「私はふざけてなどおらん。そう思うそちらに問題があろう」
「問題は貴様らだろう! お前が真っ当に育てんから氷雨があんなうつけになるのだ!」
「そもそも育ててすらおらんだろう。やはり貴様があの娘を娶ったばかりに――」
濃藍が冷える。刺す。
山籟に乗って罵る銀竹が悲鳴を上げた。喉元には鋼が突きつけられ、
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「……後は若い二人に任せるということで、ね! 長老方でどうぞご歓談の程!」
縁台の影からそれだけを叫び、ヒュッと走り去る影がある。おいあれは養鶏の、そよのところの倅が、囁く老人もいたが、里長たる凍雨が立ち上がったことで皆一様に押し黙った。
凍雨は冷えた視線を先刻まで息子が座していた席に落とす。耐えかねて砕けた杯だけが転がっている。
続けて大広間を一瞥し、凍雨は静かに口を開いた。
「当主も辞した以上、この席は終いだ。残りたい者は好きにせよ」
「ま……待て凍雨!」
一方的に言い捨てる凍雨に、思わずといった様子で山籟が立ち上がった。こめかみに青筋が浮き、その眦は吊り上がっている。
「ふざけるのも大概にしろ!」
「私はふざけてなどおらん。そう思うそちらに問題があろう」
「問題は貴様らだろう! お前が真っ当に育てんから氷雨があんなうつけになるのだ!」
「そもそも育ててすらおらんだろう。やはり貴様があの娘を娶ったばかりに――」
濃藍が冷える。刺す。
山籟に乗って罵る銀竹が悲鳴を上げた。喉元には鋼が突きつけられ、
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑧ #トウジンカグラ #小咄
成程、あいつがまた何か吹き込んで穂群を連れてきたな。そう思うものの、乳兄弟に腹を立てる余力もない。むしろ感謝するべきだろう、今は。
開き直り、氷雨は足袋の足裏で白砂を踏み締める。羽織の裾を掴む穂群の指を捕まえて、自分の指に絡ませる。そろそろと握り返される温度にほっとする。
「……お前なあ、腹が減るには早いだろう」
「減ったもんは減ったンだよ。別にオレはこっちでもいいけど」
「こッ、こではやめろ! ……何が食いたい」
「米」
他愛のない会話にゆるゆると力を抜く。その分、指先がきゅうと力を込めて絡まって氷雨はちいさく微笑んだ。
いずれ老人たちとは、きちんと話をしなければならない。それが叶うのがいつなのかは見当もつかないが、父とも話はできたのだ。彼らが氷雨を侮り穂群を蔑み続ける以上、先は長いだろうが――絶対に、彼らを説き伏せる。そのためには今のままの自分たちでは足りない、その自覚もある。今は少しだけこの安寧に身を預けて、そして。
握り返される温度を心地良く思いながら、氷雨は微かに唇を引き結んだ。
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成程、あいつがまた何か吹き込んで穂群を連れてきたな。そう思うものの、乳兄弟に腹を立てる余力もない。むしろ感謝するべきだろう、今は。
開き直り、氷雨は足袋の足裏で白砂を踏み締める。羽織の裾を掴む穂群の指を捕まえて、自分の指に絡ませる。そろそろと握り返される温度にほっとする。
「……お前なあ、腹が減るには早いだろう」
「減ったもんは減ったンだよ。別にオレはこっちでもいいけど」
「こッ、こではやめろ! ……何が食いたい」
「米」
他愛のない会話にゆるゆると力を抜く。その分、指先がきゅうと力を込めて絡まって氷雨はちいさく微笑んだ。
いずれ老人たちとは、きちんと話をしなければならない。それが叶うのがいつなのかは見当もつかないが、父とも話はできたのだ。彼らが氷雨を侮り穂群を蔑み続ける以上、先は長いだろうが――絶対に、彼らを説き伏せる。そのためには今のままの自分たちでは足りない、その自覚もある。今は少しだけこの安寧に身を預けて、そして。
握り返される温度を心地良く思いながら、氷雨は微かに唇を引き結んだ。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑦ #トウジンカグラ #小咄
そうだ隣に父がいたのだとはっとする。穂群に引っ張られるがままたたらを踏んで、氷雨は揺れる視界に恐る恐る凍雨を捉えた。
あれほど無関心に瞑目して座していた凍雨は、こちらを――正しくは穂群を見ていた。視線が絡んだのは刹那のことで、すぐに父の濃藍の視線は伏せられる。まるで頷くかのように。
穂群はそれ以上何を言うこともなく、ずかずかと老人たちの列を割った。かと思えばよりによって山籟と銀竹の間を跨ぎ、玄関ではなく縁側から外へ出ていく。
「おい、穂群」
「あ? 履き物ぐらい我慢しろ、家まですぐだろォが」
「違う、いや違わないが、」
「ンだよ、俯いて黙ってンだから用事なんかねェだろ」
自分だけはちゃっかり草履を履き、庭園の白砂をざくざく踏み荒らして穂群が氷雨を振り返る。その言葉にぐっと言葉を呑み――結局、氷雨は肩を落とした。
下がった肩のまにまに、置き去りにした大広間を振り返る。老人たちは気色ばんで、あるいは薄気味悪そうにこちらを見送っていた。縁台の影には野分の姿があり、引き攣った愛想笑いでこちらに手を振っている。
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そうだ隣に父がいたのだとはっとする。穂群に引っ張られるがままたたらを踏んで、氷雨は揺れる視界に恐る恐る凍雨を捉えた。
あれほど無関心に瞑目して座していた凍雨は、こちらを――正しくは穂群を見ていた。視線が絡んだのは刹那のことで、すぐに父の濃藍の視線は伏せられる。まるで頷くかのように。
穂群はそれ以上何を言うこともなく、ずかずかと老人たちの列を割った。かと思えばよりによって山籟と銀竹の間を跨ぎ、玄関ではなく縁側から外へ出ていく。
「おい、穂群」
「あ? 履き物ぐらい我慢しろ、家まですぐだろォが」
「違う、いや違わないが、」
「ンだよ、俯いて黙ってンだから用事なんかねェだろ」
自分だけはちゃっかり草履を履き、庭園の白砂をざくざく踏み荒らして穂群が氷雨を振り返る。その言葉にぐっと言葉を呑み――結局、氷雨は肩を落とした。
下がった肩のまにまに、置き去りにした大広間を振り返る。老人たちは気色ばんで、あるいは薄気味悪そうにこちらを見送っていた。縁台の影には野分の姿があり、引き攣った愛想笑いでこちらに手を振っている。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑥ #トウジンカグラ #小咄
「――氷雨」
笑い声が、止まった。
顔を上げる。息を止める。
氷雨の前に、家に置いてきた筈の穂群が立っている。居並ぶ老人たちの真ん中を堂々と割り、手つかずの氷雨の膳を訝しそうに見下ろしながらしゃがみ込む。
「遅ェンだよ。腹減った」
「は? 穂――ッむ⁉︎」
きらきらとうつくしい穂波を見つめる間もなく影が差して、閉じ込められる。
頬骨が軋むほど強く掴まれて、がちりとちいさくも硬質な音が上がる。熱が奔った瞬間にもっと熱く、ぬるりと湿った熱に覆われる。流れる血を逆撫でるように舌が這って、そのままむにりと中に入り込む。何かを探すように氷雨の口の中を弄って撫で回して、じゅるじゅると啜られる。
一体どれ程の時間が経ったのか。ぷはっとどこか幼い吐息を入って氷雨の唇が離された。頬を掴んでいた指が雑に氷雨の頤を拭い、そのまま自身の唇をなぞって指を吸う。
「足ンね。帰ろォぜ、氷雨」
湿った指で氷雨の羽織を掴み、穂群は何事もなかったかのように立ち上がった。されるがまま、つられて氷雨も立ち上がる。
「じゃあな、親父さん」
閉じる
「――氷雨」
笑い声が、止まった。
顔を上げる。息を止める。
氷雨の前に、家に置いてきた筈の穂群が立っている。居並ぶ老人たちの真ん中を堂々と割り、手つかずの氷雨の膳を訝しそうに見下ろしながらしゃがみ込む。
「遅ェンだよ。腹減った」
「は? 穂――ッむ⁉︎」
きらきらとうつくしい穂波を見つめる間もなく影が差して、閉じ込められる。
頬骨が軋むほど強く掴まれて、がちりとちいさくも硬質な音が上がる。熱が奔った瞬間にもっと熱く、ぬるりと湿った熱に覆われる。流れる血を逆撫でるように舌が這って、そのままむにりと中に入り込む。何かを探すように氷雨の口の中を弄って撫で回して、じゅるじゅると啜られる。
一体どれ程の時間が経ったのか。ぷはっとどこか幼い吐息を入って氷雨の唇が離された。頬を掴んでいた指が雑に氷雨の頤を拭い、そのまま自身の唇をなぞって指を吸う。
「足ンね。帰ろォぜ、氷雨」
湿った指で氷雨の羽織を掴み、穂群は何事もなかったかのように立ち上がった。されるがまま、つられて氷雨も立ち上がる。
「じゃあな、親父さん」
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑤ #トウジンカグラ #小咄
老人たちの頭にはそれしかない。氷雨の意思など、話など、最初から聞く気がない。フジの里において絶対のアメの一族、老人たちに益を産むにはままならぬ氷雨たちに非難を浴びせかと思えば擦り寄り、空虚でありながら里に対しては我々が守り営んでいるのだと大きな顔をして。
――帰りたい。腹が煮える。疲れた。時間の無駄だ。
どうしてこんな口ばかりの年寄りに蔑まれ良いように悪様に扱われなければならないのか。
自分はいい。己が取るに足らない、未熟で半端な人間だと、それぐらいの理解はある。けれどもしぐれや、何より――穂群のことを認めるどころか存在すらしないように、冗談だとか戯れだとか、そんな風に笑われることが耐えられない。
俺と、あれが、ここまで何を思って何を選んで何を許し許されたのか、そんなことも知らない連中に。ただただ二人で同じ屋根の下、ひとつの衾を分け合って眠って、目を覚まして、食事をして言葉を交わす、それだけの暮らしを続けたいだけなのに。
俯く氷雨の言葉など要らぬとばかりに、老人たちの空っぽな笑い声が行き交っている。
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老人たちの頭にはそれしかない。氷雨の意思など、話など、最初から聞く気がない。フジの里において絶対のアメの一族、老人たちに益を産むにはままならぬ氷雨たちに非難を浴びせかと思えば擦り寄り、空虚でありながら里に対しては我々が守り営んでいるのだと大きな顔をして。
――帰りたい。腹が煮える。疲れた。時間の無駄だ。
どうしてこんな口ばかりの年寄りに蔑まれ良いように悪様に扱われなければならないのか。
自分はいい。己が取るに足らない、未熟で半端な人間だと、それぐらいの理解はある。けれどもしぐれや、何より――穂群のことを認めるどころか存在すらしないように、冗談だとか戯れだとか、そんな風に笑われることが耐えられない。
俺と、あれが、ここまで何を思って何を選んで何を許し許されたのか、そんなことも知らない連中に。ただただ二人で同じ屋根の下、ひとつの衾を分け合って眠って、目を覚まして、食事をして言葉を交わす、それだけの暮らしを続けたいだけなのに。
俯く氷雨の言葉など要らぬとばかりに、老人たちの空っぽな笑い声が行き交っている。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日④ #トウジンカグラ #小咄
「当主殿の七宝での御役目は終わったというのに妹御は未だにフジに戻らず、当主殿も里長も呼び戻す気がない様子」
しかしながら神剣が妄言を吐くより先に、銀竹が弛まぬ舌鋒を繰り出してくる。最早感謝すればいいのか気を揉めばいいのか腹を立てればいいのかもわからない。
「しぐれは関係ありません。私は既に伴侶を――」
「であればどうです、当家の孫など。気立ても良いし歳も近い。習わしには添えませんが、天ノ端の過去には外の血が入ったこともございます。今更構いますまい」
「山籟殿がよいならば当家の姪は如何です。当主殿より少しばかり年嵩ではありますが、当家は先々代と縁がございます。他家よりも血は濃いかと」
「妾はいくらおってもようございますよ、当主」
少なくともこの場に氷雨の味方がいないことはよくわかる。
空の杯に罅が入る。氷雨は力の入り過ぎたそれを見つめながら、貼り付けた笑みが曖昧に溶けていくように感じた。
アメの一族は神剣を継ぐ。その血を濃く絶やさぬよう。
反面、付け入る隙のない大いなる一族に縁を、利権を繋ごう。
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「当主殿の七宝での御役目は終わったというのに妹御は未だにフジに戻らず、当主殿も里長も呼び戻す気がない様子」
しかしながら神剣が妄言を吐くより先に、銀竹が弛まぬ舌鋒を繰り出してくる。最早感謝すればいいのか気を揉めばいいのか腹を立てればいいのかもわからない。
「しぐれは関係ありません。私は既に伴侶を――」
「であればどうです、当家の孫など。気立ても良いし歳も近い。習わしには添えませんが、天ノ端の過去には外の血が入ったこともございます。今更構いますまい」
「山籟殿がよいならば当家の姪は如何です。当主殿より少しばかり年嵩ではありますが、当家は先々代と縁がございます。他家よりも血は濃いかと」
「妾はいくらおってもようございますよ、当主」
少なくともこの場に氷雨の味方がいないことはよくわかる。
空の杯に罅が入る。氷雨は力の入り過ぎたそれを見つめながら、貼り付けた笑みが曖昧に溶けていくように感じた。
アメの一族は神剣を継ぐ。その血を濃く絶やさぬよう。
反面、付け入る隙のない大いなる一族に縁を、利権を繋ごう。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日③ #トウジンカグラ #小咄
「冗談など、」
「ああいえ失礼。冗談ではございませんな、フジの外から男の妾を迎えたと、酔狂な話で」
「まだお若いのですから、当主殿には多少の遊びの目溢しもされましょう。里長も何も仰らないようですし」
山籟が視線を送れど、凍雨は何も聞こえていないかのように杯をただただ干している。
氷雨と凍雨の間では穂群の存在について決着がついている、筈だ。父は結局明確な言葉を持たなかったが、そうでなければかつて嫌悪のまま投げ落とした存在と真っ当に会話もしなくなった実子が、最愛の妻が暮らしていた別邸に二人で住まうことを黙認などするまい。
――しかしながら、凍雨が黙認しようと里の老人たちが納得する訳もない。逆に凍雨が黙認しているからこそ腹正しく認め難いのだろう。それは氷雨とて理解できる。だからといって、
「で、男が御世継ぎを生めると?」
「それは――……」
「アメの一族の当主がまさか世継ぎも持たぬなどとは申しますまい」
氷雨は言葉を呑んだ。老人たちの声を笑い話程度にしか捉えない神剣が頭上で何か言いたげにしている気配を察する。
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「冗談など、」
「ああいえ失礼。冗談ではございませんな、フジの外から男の妾を迎えたと、酔狂な話で」
「まだお若いのですから、当主殿には多少の遊びの目溢しもされましょう。里長も何も仰らないようですし」
山籟が視線を送れど、凍雨は何も聞こえていないかのように杯をただただ干している。
氷雨と凍雨の間では穂群の存在について決着がついている、筈だ。父は結局明確な言葉を持たなかったが、そうでなければかつて嫌悪のまま投げ落とした存在と真っ当に会話もしなくなった実子が、最愛の妻が暮らしていた別邸に二人で住まうことを黙認などするまい。
――しかしながら、凍雨が黙認しようと里の老人たちが納得する訳もない。逆に凍雨が黙認しているからこそ腹正しく認め難いのだろう。それは氷雨とて理解できる。だからといって、
「で、男が御世継ぎを生めると?」
「それは――……」
「アメの一族の当主がまさか世継ぎも持たぬなどとは申しますまい」
氷雨は言葉を呑んだ。老人たちの声を笑い話程度にしか捉えない神剣が頭上で何か言いたげにしている気配を察する。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日② #トウジンカグラ #小咄
祝いの席など建前で吊し上げの場である。
つまり老人たちは凍雨から続く、アメの一族へ鬱憤をぶつける場が欲しい訳だ。凍雨が眉一つ動かさず嫌味を聞き流してしまうので余計に、幼い頃からこの歳まで未熟で不出来と蔑んできた氷雨に。乳兄弟は折につけて老人は娯楽が少ないんだよと慰めを口にするが、氷雨にとっては何の気休めにもならない。
その上、老人たちは去年より舌鋒を増している。理由は明らかで、だからこそ腹に溜まるものがある。
「――如何ですかな、当主殿もいい歳ですが、御世継ぎの方は」
「……山籟殿。私が先日伴侶を迎えたことは里人皆に周知した筈ですが、そちらの耳には遠うございましたか」
「いえいえ、この老いぼれたちの耳にもしかと届いております。当主殿もようよう冗談を解するようになったかと笑うておるところで」
「銀竹殿……」
これである。
氷雨は密かに奥歯を噛むが、老人たちは下座から歪んだ笑みを浮かべ上座の氷雨を見つめていた。今日の彼らは、穂群の件を糾弾したいのだ。
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祝いの席など建前で吊し上げの場である。
つまり老人たちは凍雨から続く、アメの一族へ鬱憤をぶつける場が欲しい訳だ。凍雨が眉一つ動かさず嫌味を聞き流してしまうので余計に、幼い頃からこの歳まで未熟で不出来と蔑んできた氷雨に。乳兄弟は折につけて老人は娯楽が少ないんだよと慰めを口にするが、氷雨にとっては何の気休めにもならない。
その上、老人たちは去年より舌鋒を増している。理由は明らかで、だからこそ腹に溜まるものがある。
「――如何ですかな、当主殿もいい歳ですが、御世継ぎの方は」
「……山籟殿。私が先日伴侶を迎えたことは里人皆に周知した筈ですが、そちらの耳には遠うございましたか」
「いえいえ、この老いぼれたちの耳にもしかと届いております。当主殿もようよう冗談を解するようになったかと笑うておるところで」
「銀竹殿……」
これである。
氷雨は密かに奥歯を噛むが、老人たちは下座から歪んだ笑みを浮かべ上座の氷雨を見つめていた。今日の彼らは、穂群の件を糾弾したいのだ。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日① #トウジンカグラ #小咄
本編終了後二次創作
取ってつけたような祝いの席、話が舞い込んできた時点で嫌な予感しかせず、しかしながら頑として断る程の度胸も権威も氷雨にはなかった。鞘抜けぬ程幼い時分から神剣を継ぎ、当主の肩書きを背負ってからは長いものの、実権は依然として里長に就いた父に、そしてフジの里を治める老人たちにある。
――故に、未だに近寄り難い本邸の大広間、その上座に座らされた氷雨は杯を手に微笑を貼りつけて座るしかない。
「――しかし当主も大きくなられて」
「本当ですなあ。当主になられた御歳はお継ぎになられた御佩刀とお変わりのない背丈でしたのに」
『爺共は耄碌が早いなあ。我より頭一つぐらいは背が高かっただろうに。なあ氷雨よ』
――帰りたい。
黙して強張った微笑を浮かべたまま、心底から氷雨は嘆いた。老人たちは氷雨が蒼天を継いだ当初から今まで当主に能わぬと朗らかに責め立ててくる。その一因、あるいは原因たる父・凍雨は氷雨の傍らの下座で平然と、知らぬ顔で酒を舐め、そして蒼天は頭上でからから笑っている。
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本編終了後二次創作
取ってつけたような祝いの席、話が舞い込んできた時点で嫌な予感しかせず、しかしながら頑として断る程の度胸も権威も氷雨にはなかった。鞘抜けぬ程幼い時分から神剣を継ぎ、当主の肩書きを背負ってからは長いものの、実権は依然として里長に就いた父に、そしてフジの里を治める老人たちにある。
――故に、未だに近寄り難い本邸の大広間、その上座に座らされた氷雨は杯を手に微笑を貼りつけて座るしかない。
「――しかし当主も大きくなられて」
「本当ですなあ。当主になられた御歳はお継ぎになられた御佩刀とお変わりのない背丈でしたのに」
『爺共は耄碌が早いなあ。我より頭一つぐらいは背が高かっただろうに。なあ氷雨よ』
――帰りたい。
黙して強張った微笑を浮かべたまま、心底から氷雨は嘆いた。老人たちは氷雨が蒼天を継いだ当初から今まで当主に能わぬと朗らかに責め立ててくる。その一因、あるいは原因たる父・凍雨は氷雨の傍らの下座で平然と、知らぬ顔で酒を舐め、そして蒼天は頭上でからから笑っている。
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