No.16

アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑧ #トウジンカグラ #小咄

 成程、あいつがまた何か吹き込んで穂群を連れてきたな。そう思うものの、乳兄弟に腹を立てる余力もない。むしろ感謝するべきだろう、今は。
 開き直り、氷雨は足袋の足裏で白砂を踏み締める。羽織の裾を掴む穂群の指を捕まえて、自分の指に絡ませる。そろそろと握り返される温度にほっとする。
「……お前なあ、腹が減るには早いだろう」
「減ったもんは減ったンだよ。別にオレはこっちでもいいけど」
「こッ、こではやめろ! ……何が食いたい」
「米」
 他愛のない会話にゆるゆると力を抜く。その分、指先がきゅうと力を込めて絡まって氷雨はちいさく微笑んだ。
 いずれ老人たちとは、きちんと話をしなければならない。それが叶うのがいつなのかは見当もつかないが、父とも話はできたのだ。彼らが氷雨を侮り穂群を蔑み続ける以上、先は長いだろうが――絶対に、彼らを説き伏せる。そのためには今のままの自分たちでは足りない、その自覚もある。今は少しだけこの安寧に身を預けて、そして。
 握り返される温度を心地良く思いながら、氷雨は微かに唇を引き結んだ。
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