No.13

アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑤ #トウジンカグラ #小咄

 老人たちの頭にはそれしかない。氷雨の意思など、話など、最初から聞く気がない。フジの里において絶対のアメの一族、老人たちに益を産むにはままならぬ氷雨たちに非難を浴びせかと思えば擦り寄り、空虚でありながら里に対しては我々が守り営んでいるのだと大きな顔をして。
 ――帰りたい。腹が煮える。疲れた。時間の無駄だ。
 どうしてこんな口ばかりの年寄りに蔑まれ良いように悪様に扱われなければならないのか。
 自分はいい。己が取るに足らない、未熟で半端な人間だと、それぐらいの理解はある。けれどもしぐれや、何より――穂群のことを認めるどころか存在すらしないように、冗談だとか戯れだとか、そんな風に笑われることが耐えられない。
 俺と、あれが、ここまで何を思って何を選んで何を許し許されたのか、そんなことも知らない連中に。ただただ二人で同じ屋根の下、ひとつの衾を分け合って眠って、目を覚まして、食事をして言葉を交わす、それだけの暮らしを続けたいだけなのに。
 俯く氷雨の言葉など要らぬとばかりに、老人たちの空っぽな笑い声が行き交っている。
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