アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑦ #トウジンカグラ #小咄開く そうだ隣に父がいたのだとはっとする。穂群に引っ張られるがままたたらを踏んで、氷雨は揺れる視界に恐る恐る凍雨を捉えた。 あれほど無関心に瞑目して座していた凍雨は、こちらを――正しくは穂群を見ていた。視線が絡んだのは刹那のことで、すぐに父の濃藍の視線は伏せられる。まるで頷くかのように。 穂群はそれ以上何を言うこともなく、ずかずかと老人たちの列を割った。かと思えばよりによって山籟と銀竹の間を跨ぎ、玄関ではなく縁側から外へ出ていく。「おい、穂群」「あ? 履き物ぐらい我慢しろ、家まですぐだろォが」「違う、いや違わないが、」「ンだよ、俯いて黙ってンだから用事なんかねェだろ」 自分だけはちゃっかり草履を履き、庭園の白砂をざくざく踏み荒らして穂群が氷雨を振り返る。その言葉にぐっと言葉を呑み――結局、氷雨は肩を落とした。 下がった肩のまにまに、置き去りにした大広間を振り返る。老人たちは気色ばんで、あるいは薄気味悪そうにこちらを見送っていた。縁台の影には野分の姿があり、引き攣った愛想笑いでこちらに手を振っている。閉じる 2023.7.9(Sun) 22:23:38 ネタ
そうだ隣に父がいたのだとはっとする。穂群に引っ張られるがままたたらを踏んで、氷雨は揺れる視界に恐る恐る凍雨を捉えた。
あれほど無関心に瞑目して座していた凍雨は、こちらを――正しくは穂群を見ていた。視線が絡んだのは刹那のことで、すぐに父の濃藍の視線は伏せられる。まるで頷くかのように。
穂群はそれ以上何を言うこともなく、ずかずかと老人たちの列を割った。かと思えばよりによって山籟と銀竹の間を跨ぎ、玄関ではなく縁側から外へ出ていく。
「おい、穂群」
「あ? 履き物ぐらい我慢しろ、家まですぐだろォが」
「違う、いや違わないが、」
「ンだよ、俯いて黙ってンだから用事なんかねェだろ」
自分だけはちゃっかり草履を履き、庭園の白砂をざくざく踏み荒らして穂群が氷雨を振り返る。その言葉にぐっと言葉を呑み――結局、氷雨は肩を落とした。
下がった肩のまにまに、置き去りにした大広間を振り返る。老人たちは気色ばんで、あるいは薄気味悪そうにこちらを見送っていた。縁台の影には野分の姿があり、引き攣った愛想笑いでこちらに手を振っている。
閉じる