アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日② #トウジンカグラ #小咄開く 祝いの席など建前で吊し上げの場である。 つまり老人たちは凍雨から続く、アメの一族へ鬱憤をぶつける場が欲しい訳だ。凍雨が眉一つ動かさず嫌味を聞き流してしまうので余計に、幼い頃からこの歳まで未熟で不出来と蔑んできた氷雨に。乳兄弟は折につけて老人は娯楽が少ないんだよと慰めを口にするが、氷雨にとっては何の気休めにもならない。 その上、老人たちは去年より舌鋒を増している。理由は明らかで、だからこそ腹に溜まるものがある。「――如何ですかな、当主殿もいい歳ですが、御世継ぎの方は」「……山籟(さんらい)殿。私が先日伴侶を迎えたことは里人皆に周知した筈ですが、そちらの耳には遠うございましたか」「いえいえ、この老いぼれたちの耳にもしかと届いております。当主殿もようよう冗談を解するようになったかと笑(わろ)うておるところで」「銀竹(ぎんちく)殿……」 これである。 氷雨は密かに奥歯を噛むが、老人たちは下座から歪んだ笑みを浮かべ上座の氷雨を見つめていた。今日の彼らは、穂群の件を糾弾したいのだ。閉じる 2023.7.9(Sun) 20:09:59 ネタ
祝いの席など建前で吊し上げの場である。
つまり老人たちは凍雨から続く、アメの一族へ鬱憤をぶつける場が欲しい訳だ。凍雨が眉一つ動かさず嫌味を聞き流してしまうので余計に、幼い頃からこの歳まで未熟で不出来と蔑んできた氷雨に。乳兄弟は折につけて老人は娯楽が少ないんだよと慰めを口にするが、氷雨にとっては何の気休めにもならない。
その上、老人たちは去年より舌鋒を増している。理由は明らかで、だからこそ腹に溜まるものがある。
「――如何ですかな、当主殿もいい歳ですが、御世継ぎの方は」
「……山籟殿。私が先日伴侶を迎えたことは里人皆に周知した筈ですが、そちらの耳には遠うございましたか」
「いえいえ、この老いぼれたちの耳にもしかと届いております。当主殿もようよう冗談を解するようになったかと笑うておるところで」
「銀竹殿……」
これである。
氷雨は密かに奥歯を噛むが、老人たちは下座から歪んだ笑みを浮かべ上座の氷雨を見つめていた。今日の彼らは、穂群の件を糾弾したいのだ。
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