アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑥ #トウジンカグラ #小咄開く「――氷雨」 笑い声が、止まった。 顔を上げる。息を止める。 氷雨の前に、家に置いてきた筈の穂群が立っている。居並ぶ老人たちの真ん中を堂々と割り、手つかずの氷雨の膳を訝しそうに見下ろしながらしゃがみ込む。「遅ェンだよ。腹減った」「は? 穂――ッむ⁉︎」 きらきらとうつくしい穂波を見つめる間もなく影が差して、閉じ込められる。 頬骨が軋むほど強く掴まれて、がちりとちいさくも硬質な音が上がる。熱が奔った瞬間にもっと熱く、ぬるりと湿った熱に覆われる。流れる血を逆撫でるように舌が這って、そのままむにりと中に入り込む。何かを探すように氷雨の口の中を弄って撫で回して、じゅるじゅると啜られる。 一体どれ程の時間が経ったのか。ぷはっとどこか幼い吐息を入って氷雨の唇が離された。頬を掴んでいた指が雑に氷雨の頤を拭い、そのまま自身の唇をなぞって指を吸う。「足ンね。帰ろォぜ、氷雨」 湿った指で氷雨の羽織を掴み、穂群は何事もなかったかのように立ち上がった。されるがまま、つられて氷雨も立ち上がる。「じゃあな、親父さん」閉じる 2023.7.9(Sun) 21:40:19 ネタ
「――氷雨」
笑い声が、止まった。
顔を上げる。息を止める。
氷雨の前に、家に置いてきた筈の穂群が立っている。居並ぶ老人たちの真ん中を堂々と割り、手つかずの氷雨の膳を訝しそうに見下ろしながらしゃがみ込む。
「遅ェンだよ。腹減った」
「は? 穂――ッむ⁉︎」
きらきらとうつくしい穂波を見つめる間もなく影が差して、閉じ込められる。
頬骨が軋むほど強く掴まれて、がちりとちいさくも硬質な音が上がる。熱が奔った瞬間にもっと熱く、ぬるりと湿った熱に覆われる。流れる血を逆撫でるように舌が這って、そのままむにりと中に入り込む。何かを探すように氷雨の口の中を弄って撫で回して、じゅるじゅると啜られる。
一体どれ程の時間が経ったのか。ぷはっとどこか幼い吐息を入って氷雨の唇が離された。頬を掴んでいた指が雑に氷雨の頤を拭い、そのまま自身の唇をなぞって指を吸う。
「足ンね。帰ろォぜ、氷雨」
湿った指で氷雨の羽織を掴み、穂群は何事もなかったかのように立ち上がった。されるがまま、つられて氷雨も立ち上がる。
「じゃあな、親父さん」
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