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Day31「ノスタルジア」 #文披31題 #小咄

 光が昇り、大地を照らす、焦がす、家路を辿るように沈みゆく。長い光が影を曳く。
 直に夜が来る。風が吹き抜ける。頬を撫でて、前髪を掻き上げる。
 空を見る。長い光の向こうが霞んで、淡い藍の裾が差し込まれる。
 息を吸って、吐いて。想いを込めて、君の名前を紡ぐ。
 君の声を聞く。この名前を呼ぶ声を。虫の声が溢れて流れていく、草葉が歌う。天に星が囁きを乗せていく。
 夜に紛れる、灼けた匂い、噎せ返るほどの命の匂いを吸い込んで。
 この足が進む。この手が掴む。戻りも迷いも忘れて、ただ一心に、君へと帰る。
 君と私という、家路になる。
(/all)

ありがとうございました。
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Day30「花束」 #文披31題 #小咄 #リボ

 抜けるような青空を背負って、石塔が聳え立つ。見上げる程に高いそれをどう思っているのか、自分でもわからない。悲しい、とはもちろん違う気がするし、昔のような腹立たしさも、今はもうない気がする。畏れというには近すぎて、懐かしいと呼ぶには遠かった。
 視線を天から前へと転じる。己が寝転がってもまだ余裕があるような供物台には、色とりどりの花がいくつも並んで埋め尽くされていた。一体華安のどこで育てられているのかわからないような豪奢な花々もあれば、ここまでの道中、山野の中でひそりと息づいているような楚々とした花も並んでいる。大なり小なり不揃いな花々は、それだけ様々な立場の人たちに偲ばれている証左だと思う。
 そして己の供えるものといえば、何もない。使い込んだ革の手袋に覆われた手は空っぽだった。少年はあまりに大きな石塔の前にしゃがみ込んで、それから空っぽの両手を合わせた。
 目を閉じて思う。何を、ということもない。だってわからない。だから少年は、日記でも記すように今の日々のことを心に綴る。今朝食べたもののこと、友人や仲間たちのこと、母がそちらにいるかどうか、これから自分はどこへ向かうのか。師にも兄にも似た青年から譲られた、古ぼけた肩布のこと。未だ頼りない背中に、背負おうと思うもののこと。
 目を開く。やわらかな風が、ゆるりと渦巻く。色とりどり、大小様々の花が揺れて、ざわめいて、ちいさな花弁を零していく。
「――故人の偲び方は知ってるんだな」
 少年が口を開いた。風と共に現れたのか、少年とも少女ともつかないちいさな人影が傍らにしゃがみ込んでいた。少年と同じように空っぽの両手を合わせて、じっと石塔を見上げている。
「知識としては知っているが、違う」見た目に反して、どこか古めかしい声が応えた。ちいさな翼を耳元で揺らし、ゆるりと少年へ視線を転じた。何よりも鮮やかで瑞々しいみどりいろが、命のざわめきを湛えていた。「お前の真似をしている」
 は、と息を吐いた。じいと少年を見つめる瞳はきらきらと美しく、何か雄弁な笑みを口元に湛えている。みどりの現し身がこんな風に笑うのを、少年は初めて見た気がした。空っぽの背中はそのまま飛んで行けそうなのに、少年と同じように故人を前に丸まっている。
 それだけで、ぎゅっと何かが込み上げてくる。腹の底を、心の臓を、喉元を。零れないように天を見上げる。石塔の天辺が青い空を背に佇んでいる。その姿が眩しくて、じわりと目元が熱くなる。空っぽの手のひらの代わりに、はらはらと透明な花びらが散っていく。みどりいろは何も言わずに、そっと少年に寄り添って目を閉じていた。まるでこの世にもうない声を聞くように、あるいは今初めて、この世に生まれた少年の産声を記憶するように。
(ティルとミドリ/風紋記)

仲間と共に父を背負う。
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Day29「思い付き」 #文披31題 #小咄 #トウジンカグラ
 夜闇がそっと退いて、淡い光が里を満たす頃に目が覚める。
 それはうつくしい夜明けであり、野分のところの雌鳥が甲高い声を上げる、実に単純な朝の訪れでもあった。ついでに、普通、雌鳥は朝に鳴かないんだけどねえと、何かの折に不思議そうに呟いた紫燕の台詞を思い出す。
 衣擦れの音に、伏したまま目を開く。逞しい背中が起き上がっている。この季節だからと裸身に長襦袢を被って横になったことを思い出す。辛うじて、と付け足さざるを得ないのは、この背中の持ち主に抱き込まれながらほとんど気を遣ったからだ。
 二人で一枚を羽織ったので、背中が剥き出しな以上、襦袢は己にまだ被さっている。こちらがまだ眠っていると思っているのだ。伴侶が己より遅く目覚めたことは今までなかったことを思い出す。だから、朝の身支度をする背中は初めて見た。
 剥き出しの背中には、細かな赤い引っ掻き傷が奔っている。野放図に伸びた髪が揺れながら、傷を撫でたり隠したりしている。男の手がその髪をまとめて掴む。いつものように結い上げるのだろう。気づいた瞬間、のっそりと起き上がっていた。襦袢が滑る衣擦れの音に気づかれるより早く、背中の傷を己の胸で覆った。腕を相手の胸に巻きつけて、閉じ込めて、まだ結われていない髪へと鼻先を突っ込んだ。
「穂群」
 少しだけ驚いた響きを混ぜて、伴侶が名前を呼ぶ。染み入るような低い声が気持ちよくて目を閉じる。このままここで眠りたい。鼻先には硬い髪の感触が触れ、男の匂いが立ち込めている。深く息を吸って、肺いっぱいに吸い込む。
「……嗅ぐな」
「んー?」
 首を傾げる。擽ったいのか、男の身体が震える。ほんのりと汗の混ざった、深い森のような、静かに佇む木々のような匂い。心地良い。吸って、吐いて、伴侶の首筋で息をする。
 しばらくは諦めたように何も言わなかったが、やがて硬い膚の手のひらが己の腕を掴んだ。引き剥がされたくなくて、腕にはやんわりと力を込める。胸を背中に擦り寄せて、すると前の方から息を詰める音が聞こえる。己の胸の尖りがつんと膚を押しただけなのに。笑いそうになって、堪える。笑ったら怒られて、剥がされてしまうから。下肢を擦り寄せるのも堪える。怒られて押し倒されるのもいいけれど。
 持ち主の手が諦めた髪にそっと触れる。束ねて掴んで、名残惜しく鼻先を埋める。唇で触れる。戸惑うような気配があるので、口を開く。目覚めたばかりで掠れた声になっている。
「結ってやる」
 戸惑いが留まる。己は伴侶にいつも髪を結ってもらうが、己が伴侶の髪を結ったことはない。それを相手も知っている。こちらもわかっているので、見よう見まねで髪をまとめて、引っ張ってみる。
 やがて諦めを含んだ吐息が聞こえた。被せるように笑った。楽しくて仕方がなかった。ぐちゃぐちゃに仕上がって、笑って、やっぱり諦めた顔の伴侶が今度はこちらの髪を手にするのはもうすぐ後。櫛が要るなと最後に囁いた声の重さを知るのは、この季節が終わる頃に。
(氷雨と穂群/トウジンカグラ)

某誕生日に続く。
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夏の来儀さん完成してる!笑顔が眩しい~かわいい~それだけでもう尊い~😭😭🙏🙏✨✨✨✨

よそ様

藤仁さんと守信さんが和ロックにアー!!ワーッ!!!!ってなっちゃった!特に本編で明確に人となりが明かされていない守信さんの公式から小出しされる情報ありがたくズゾゾッて啜ってる

よそ様

2421「裏切りの夕焼け」ぐらい洒落たこと言えばよかったな…(♪ ズンズンチャチャズンズンチャチャズンズンチャチャズンズンチャーチャチャンッ)

日記

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