No.2513

バックアップを残しておくよ #翼角 #小咄

760満足度の高い書きかけの翼角の縮図(無道不在)

>満足度の高い本編正史後のナナ月

確か月影に作らせたチャーハン食ってフェラもさせるナナキが見たかったやつ


『ナナキ』
 午睡から呼び戻したのは、水面に輪を描くような密やかな声だった。
 半分、瞼を開く。灰色の景色がぼやけている。記号としての人と人と人、それから人。そういうものを肉を持ち血を流す生き物だと認識するまで暫しかかる。唯一黒板の前で低い声で喋り続ける無道だけは異質として映るが、それも足元にまろび出た路傍の石程度に過ぎない。響く声の主の姿など、六限目の教室の中にはなかった。
 呼ばれたナナキは当然弁えている。唯、声にも思考にも言葉を乗せず何かと問い返す。ここにはいない影が答える。
『夕飯は何が食べたい』
『ムツキの奴いないのか?』
 ここでようやく、形として声なき言葉で返した。表面上はくあ、と欠伸をこぼす。一瞬、無道の視線を感じたが無視する。もしかするとナナキの脳内の会話も拾っているのかも知れない。
 窓の外を見る。会話の相手の姿が見えるわけではないが、近くにいる気配はない。ここから見える屋上か、そこらに見える樹木の影か。いずれにせよ呼べば須臾の間もなく現れるだろう存在の居場所を確かめる必要もなかった。
 頷くような気配がある。目に見えるわけでも音で聞こえるわけでもないが理解できる。相手は薄紙一枚向こうの世界にいてナナキは物質ありきの世界にいるがそれでも繋がっている。それだけの話である。
『今晩は帰らないから夕飯は好きにしてくれと』
『ふーん』
 ゼミで缶詰か、サークルかバイト仲間との飲み会か合コンか。はたまた彼女か、もしくは――彼氏か。実に興味がない。全く興味がない。
 ムツキは従兄弟にして現在のナナキの住居の家主であるが――と言うと御影ムツキは憤慨するだろう、実態は承諾なく勝手にナナキが居着いているだけなのだから――いる、もしくはいない、稀に今日は帰ってくるな、の三択程度の存在である。帰ってくるな、の場合はムツキが彼女だか彼氏だかを家に連れ込む腹積もりだと知っているため、ナナキは大人しく本家に帰るなりして寝床を変えるようにしている。何せムツキが精いっぱい張り切っている様は滑稽で面白いので。
 とりあえず今日は三択の内『いない』の日らしい。朝も顔を合わせたはずだが、ナナキの知らないムツキの予定を声なき会話相手は知っている、というのもどうだろう。戯れに人間らしく案じるにそう思う。人間であるナナキより、人外の存在に日常を言付ける従兄弟殿は恐らく自覚なく深刻にバグっている。しかも台所を任せると。鬼に。
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すごく本編中のななやま


 上機嫌に鼻歌など歌う少年は微笑ましく見えるだろう――自分を見下ろして、あまつさえシャツに手をかけていなければ。‬
‪ 大和は前を開こうとする相手の手を押さえて喚いた。‬
‪「待て待て、なんでこうなるんだよ!」‬
‪「なんでって、人生は短いから?」‬
‪ 早く楽になりたいならこれが手っ取り早いって。相変わらず歌うようにナナキは手を動かす。小柄に見えるナナキだが存外に力は強く、大和の抵抗などそよ風ほどにも感じていないようだった。終いにはバサリとシャツの前を全て開かれて、大和は寒々しさと無常な衣擦れの音にヒッと悲鳴を上げた。‬
‪ 救いなどないのか。コンクリートの触れる背中は冷たいしナナキは笑っているし彼の向こうに広がる空は青いしじっと直立している月影は相変わらず表情がないし――ないし?‬
‪「ちょっ、なんであんたいるんだよ!」‬
‪「……ナナキが下がれと言わないから」‬
‪ 答える月影の声に感情らしい感情はない。彼はいつもそうだ。名の通り、月のようにひっそりと、常にナナキの傍らに控えている。‬
‪ だがしかし、こんな時までそれは変わらないのか? いや見られたくないとかこの行為を認めている訳ではなく、ナナキを止めろと思っている訳でもなく――だって月影はナナキの行動を否定しないと大和だってとうに知っているし――ただいつもと変わらない月影の声が少しだけ低く聞こえたのは大和の希望による錯覚だろうか。‬
‪ 月影はかつて何と言ったか。『俺はナナキを愛しているし憎んでいる、殺したいほど』?‬
‪ 月影とナナキの関係も愛憎の種類も大和の知るところではない。だが何だろう、この寒々しさは。
 ナナキに押し倒されているから。コンクリートと空気が冷たいから。そうではない。
 空を背に佇む月影と、月影など意にも介さず大和を見下ろして笑うナナキの姿に途方もない違和感がある。その正体はわからない――恐らく今の大和には。‬
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なぜか140字SSしかないおみやま

 いつの間にかいつも隣にいるようになっていた。
 最初に指摘したのは鬼道で、あいつはそれが役目だから、なんて答えていたと思うけど。
 なあ真宮、お前がちょっとおかしいってことぐらい、俺にだってわかるんだぞ。無事で良かった、なんて爪を立てるほど抱き竦められて、俺の気持ちは全然無事じゃない。
おみやま『見えないサイン』
https://shindanmaker.com/375517


 担いだ体の軽さにぞっとした。肉体ではなく、魂、霊的に見て本郷大和という人間は存在しない。そこまで稀薄になっている。元々色のない特異な存在ではあったが今は存在自体が危うい。
 奥歯を噛む。玄和に任せている赤い目の七匹目。或いは――それでも、あの神気取りの鬼だけは己の手で縊ってやりたい。
真宮くんと本郷くん『神様なんていない』
https://shindanmaker.com/375517
https://yomygod.blog.shinobi.jp/Entry/59...  後


 痛、という声にハッとした。
 本郷が茶色の髪をシーツに散らし眉を顰めて俺を見上げていた。俺の手は本郷の手首をそれぞれ掴んでシーツに縫い留め、下肢は膝を抑え込んでいる。薄影に見える本郷の、襟元から覗く首筋に赤い噛み跡がある。――誰の。
 理解した瞬間、体が、血が、氷のように冷えていく。
貴方はおみやまで『美味しそうに見えた、なんて末期だ』をお題にして140文字SSを書いてください。
https://shindanmaker.com/587150
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なんでやねんひせげつ

 セックスしないと出られない部屋。
 掲げられた看板を読み上げ、一匹の鬼は呵々と笑った。陽光のようにぎらぎらとした鬼である。成程真白く凹凸のない空間に窓はなく、看板下に扉が一つ据えられるのみである。真に出られないのか否か、確かめる必要はないだろう。
 対してもう一匹の鬼は無言。月のようにひそりとした鬼はただ隣の鬼を窺う。笑う鬼が視線だけで応えてやれば、するりとそちらへ身を寄せた。陽の鬼は笑うばかりで何もせず、月の鬼は少しだけ焦れを含んだ指先で陽の鬼の着物を引いた。引かれるがまま陽の鬼は胡座をかいて座り込み、月の鬼は膝の上に腰を下ろす。
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