No.21, No.20, No.19, No.18, No.17, No.16, No.157件]

山籟殿と銀竹殿に本編で会える気がしないしここまで来るとぜーんぶ二次創作です本編がどうなるのかみじんこほどもわからない。本編で氷雨の当主問題を論じる隙がないことは知ってる
#トウジンカグラ

メモ

アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑪ #トウジンカグラ #小咄

我を持つことに其方らが価値を見出すならば、奪い合うのもまた一興。血の縁よりも血を流す、我はそれでも大いに構わんぞ。なあ?」
 蒼天が小首を傾げる。陽光の煌めきにさらさらと結い髪が滑るが、その眩しさを見つめる者などこの場にはいない。里を取り仕切る老人たちは皆伏せて震えるだけである。
 ひたすらの沈黙に、蒼天は笑んだまま瞬きを繰り返す。腹の底まで浚うような息を吐き、そのまま吐き捨てるように凍雨が口を開いた。
「神剣様を奪い合い血を流すなど不敬と言いたいようだが」
「そうか。我が良いと言うのだから良いのになあ。残念残念」
 ひょいと肩を竦めた蒼天は、ふと思いついたように手を打ち鳴らした。凍雨は相変わらず嫌そうに目を背け、そして老人たちはびくりと背を跳ねさせる。
「ならば世継ぎの件はどうだ? 爺共が拘るならせめて穂群が孕めるように我の方で」
「それは向こうと話せ、失せろ」
 風鳴りに陽光が散る。凍雨が耐えかねて振るう刃に蒼天は唇を尖らせた。ふわりと浮きながら瞬きの間に神剣は姿を消す。
「あーあ、つまらんなあ」
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑩ #トウジンカグラ #小咄

刃を握る凍雨は平然として目を剥く銀竹を見下ろしている。
「――盛り上がってきたなあ」
 更に高みから、長閑な声が陽光の如くやんわりと降り注いだ。
 その場にいた老人たちが皆、天を仰ぐ。銀竹も喉元の刃先を厭わず皆に倣い、凍雨だけが視線を揺らすことなく舌を打って納刀した。舌打ちと刃が鞘を滑る音にころころと笑いが重なり、老人たちが一斉に平伏す。
「ああよいよい。そのままでよかろうに、爺共は相変わらず大仰なことだなあ」
 空の色を映す羽織が揺れる。天井近くの宙に座していた神剣は笑みながら、仕い手たる当主の席にふわりと座してみせた。
 大広間でただ一人、凍雨だけが眉間に深々と縦皺を刻んで立ち尽くしている。蒼天はにこやかにかつての仕い手を見上げた。
「皆凍雨のように堂々としておればよかろうに。なあ?」
「喋るな」
「はっはっは、其方は相変わらず達者でよい。爺共も言など弄せず、これぐらいの勢いを持つがよかろうに」
 平伏す肩が動揺に揺れる。蒼天は大広間に居並び伏す老人たちを、一人一人眺めて笑う。
「我は血になど拘っておらん。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑨ #トウジンカグラ #小咄

「……後は若い二人に任せるということで、ね! 長老方でどうぞご歓談の程!」
 縁台の影からそれだけを叫び、ヒュッと走り去る影がある。おいあれは養鶏の、そよのところの倅が、囁く老人もいたが、里長たる凍雨が立ち上がったことで皆一様に押し黙った。
 凍雨は冷えた視線を先刻まで息子が座していた席に落とす。耐えかねて砕けた杯だけが転がっている。
 続けて大広間を一瞥し、凍雨は静かに口を開いた。
「当主も辞した以上、この席は終いだ。残りたい者は好きにせよ」
「ま……待て凍雨!」
 一方的に言い捨てる凍雨に、思わずといった様子で山籟が立ち上がった。こめかみに青筋が浮き、その眦は吊り上がっている。
「ふざけるのも大概にしろ!」
「私はふざけてなどおらん。そう思うそちらに問題があろう」
「問題は貴様らだろう! お前が真っ当に育てんから氷雨があんなうつけになるのだ!」
「そもそも育ててすらおらんだろう。やはり貴様があの娘を娶ったばかりに――」
 濃藍が冷える。刺す。
 山籟に乗って罵る銀竹が悲鳴を上げた。喉元には鋼が突きつけられ、
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑧ #トウジンカグラ #小咄

 成程、あいつがまた何か吹き込んで穂群を連れてきたな。そう思うものの、乳兄弟に腹を立てる余力もない。むしろ感謝するべきだろう、今は。
 開き直り、氷雨は足袋の足裏で白砂を踏み締める。羽織の裾を掴む穂群の指を捕まえて、自分の指に絡ませる。そろそろと握り返される温度にほっとする。
「……お前なあ、腹が減るには早いだろう」
「減ったもんは減ったンだよ。別にオレはこっちでもいいけど」
「こッ、こではやめろ! ……何が食いたい」
「米」
 他愛のない会話にゆるゆると力を抜く。その分、指先がきゅうと力を込めて絡まって氷雨はちいさく微笑んだ。
 いずれ老人たちとは、きちんと話をしなければならない。それが叶うのがいつなのかは見当もつかないが、父とも話はできたのだ。彼らが氷雨を侮り穂群を蔑み続ける以上、先は長いだろうが――絶対に、彼らを説き伏せる。そのためには今のままの自分たちでは足りない、その自覚もある。今は少しだけこの安寧に身を預けて、そして。
 握り返される温度を心地良く思いながら、氷雨は微かに唇を引き結んだ。
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アメの一族当主・天ノ端氷雨の誕生日⑦ #トウジンカグラ #小咄

 そうだ隣に父がいたのだとはっとする。穂群に引っ張られるがままたたらを踏んで、氷雨は揺れる視界に恐る恐る凍雨を捉えた。
 あれほど無関心に瞑目して座していた凍雨は、こちらを――正しくは穂群を見ていた。視線が絡んだのは刹那のことで、すぐに父の濃藍の視線は伏せられる。まるで頷くかのように。
 穂群はそれ以上何を言うこともなく、ずかずかと老人たちの列を割った。かと思えばよりによって山籟と銀竹の間を跨ぎ、玄関ではなく縁側から外へ出ていく。
「おい、穂群」
「あ? 履き物ぐらい我慢しろ、家まですぐだろォが」
「違う、いや違わないが、」
「ンだよ、俯いて黙ってンだから用事なんかねェだろ」
 自分だけはちゃっかり草履を履き、庭園の白砂をざくざく踏み荒らして穂群が氷雨を振り返る。その言葉にぐっと言葉を呑み――結局、氷雨は肩を落とした。
 下がった肩のまにまに、置き去りにした大広間を振り返る。老人たちは気色ばんで、あるいは薄気味悪そうにこちらを見送っていた。縁台の影には野分の姿があり、引き攣った愛想笑いでこちらに手を振っている。
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