氷雨の誕生日は別に祝わんでいいけど誕生日がありましたな~みたいなノリで老人たちが氷雨と凍雨にネチネチする会を開いてるだけで祝う文化とかそもそもないかも知れない。とりあえず氷雨にそういう席が設けられるのでオレの方が先に生まれたんだからじゃあオレの誕生日もそろそろじゃんってたぶんなる野分 #トウジンカグラ
No.1062, No.1061, No.1060, No.1059, No.1058, No.1057, No.1056[7件]
ンワ~ッ野分!!!!非実在野分がいっぱい好かれているうれしい!!!!5話でしぐれが言及して14話で氷雨が思考する以上一応実在野分ではあるようなんですが本編に本人が登場していない以上シュレディンガーの野分イマジナリー野分なのでね、どんな男かはわかりません野分。でも「お前」と呼ぶほど近くはないけど懐には入れてやってる感がありますね「アンタ」呼び。氷雨が父母との関係を拗らせて消極的な分、野分は乳兄弟=氷雨の乳母はオレの母ちゃんでしかもオレの方が先に生まれた=(後の)当主の氷雨の兄貴分という自認が強すぎる幼少期を過ごしたと思うんですね~母のそよが当主の家を仕切ってるし里の老人にもある程度存在を認められてたり影薄々父もたぶんそれなりの地位にいると思われるのでオレが何とかコイツを真っ当に導いてやらねば!みたいな。母の血が濃い。たぶん博愛の男なので外から来た紫燕先生とか拾うし里人の閉鎖性は持ちつつ素直なので紫燕先生の一部を伏せた来歴や剣術は尊敬するし穂群のことも当初はええぇ…ってするけど自分が面倒見てやってきた氷雨が初めて俺のものだって愛してるからじゃあここもオレが面倒見てやんなきゃな~みたいな野分。あと氷雨にネチネチしてるから老人たち=里の閉鎖性も嫌ってるというか古いものより新しいものを求める新世代だぜウェ~イみたいな陽キャのノリも持ってる野分。
まあ本編で見たことないので全然知らないんですけどね野分。 #トウジンカグラ
まあ本編で見たことないので全然知らないんですけどね野分。 #トウジンカグラ
よく見たら出来がイマイチなチロル詐取ルフの小話がどこにもない何故かぷらいべったーにしかない。ここに置いておこうそのうちサイトに乗せるんですよ #歴史創作 #小咄
「一三六三年、一月二十六日。」
滲むインクで綴られる今日という日を、この場にいた全ての人間が黙して見つめている。
「――それでは、これで」
その視線の中、まだ年若い男の指がペンを置く。清々しいまでに穏やかな表情で、にこりと微笑まで湛えて。
この男は自らの発した書面の全てに署名を残しているらしいと聞いたことがある。そのさぞかし書き慣れているだろう流麗な筆跡は――ルドルフ四世、と、確かに刻んでいた。
「ええ、ええ。確かに」
ルドルフに対する女は、あからさまに胸をなで下ろした様子で頷いた。他国にも大口と聞こえる唇を引き結ぶ女の名はマルガレーテ。ルドルフの署名に名を添えた、このチロルの女主人である。
彼女の頷きを確かに見届け、ルドルフは朗らかに、しかしながら朗々と眼前の書面の全てを謳い上げた。
「これでチロルは、我がハプスブルク家が譲り受けました」
その声は冬の空気に、雪のアルプスに抱かれたチロルに――ゆくゆくの果てには神聖ローマ帝国の隅々に鋭く刻みつけられた。
先だって亡くなったマルガレーテの息子マインハルト、それ以前には亡き夫ルートヴィヒから引き継がれたチロルは、今この瞬間にルドルフの手に委ねられた。
ルドルフは穏やかに笑んでいるが、この場に浮かぶ表情は複雑な、あるいは全く逆のものが圧倒的に多かった。憔悴と安堵を滲ませるマルガレーテと共に並ぶ男たちの顔は苦渋を隠し切れていない。
彼らはルドルフ、マルガレーテと共にチロル譲渡に同意したと書面に名を連ねた十四人、チロル各地を治める貴族たちだった。チロルを纏め上げる伯爵の地位を持つのはマルガレーテだが、実権を握っているのは彼ら十四人である。
そのうちの一人が軽く咳払いをする。まるで合図だったかのように貴族たちが場所を譲った。一人の男が一枚の書状を手に、いかにも申し訳なさそうにルドルフとマルガレーテに向かって一歩踏み出した。
「ルドルフ様、マルガレーテ様。お確かめいただきたいことが」
「……申してみよ」
ルドルフが薄く口の端を持ち上げる。
ものも言えぬまま疑問の目を向けるマルガレーテに対して、チロルの新たな主となった男は微笑を浮かべたまま答える。それは上機嫌でこそあるが、決して穏やかなものではない。
前に進んだ貴族は神妙に畏まりながら、冬の冷気に浮く汗は押し隠してつむりを下げる。
その内心は、この場の貴族たち皆とおおよそ同じ心情だった。彼らはルドルフに潜む剣呑に気づいてはいた。それでも引き下がらなかったのは長くチロルを治めてきた矜持や、たかだか二十と少しの若僧相手にいいようにされるなどあってなるものかという意地、あるいは純粋に、今ここまでの事の運びで言い出せなかった己を恥じてのものだった。
この場の十四人の貴族たちは三、否、おおよそ二つの派閥に分けられる。チロルがハプスブルクの手に渡ることを歓迎する者と、拒否する者だ。
拒否する者は内心で、あるいは隠し切れず優越の笑みを浮かべている。チロル譲渡の証書をルドルフが手にしている現状を前にしても尚。このいけ好かない若僧の余裕の顔も今この時までだ、チロルを手にした一瞬をせいぜい喜んでいればいい、と。
対してルドルフの前に歩み出た男は、悔恨すら抱いている。彼はチロルがルドルフに渡ることを良しとする――正しくは前々から金子や公職を受け取り、ルドルフに与している者だった。反目する貴族たちを封じきれなかったこと、ルドルフがチロルを得たと喜ぶ今になってこの証文の存在を明かさなければならないことを。受けた利益程度には恥じていた。
歯噛みしながら手にした書状を恭しく差し出す。ルドルフは目を細め、無造作にそれを受け取った――相変わらず微笑を湛えながら。
その獣の瞳が紙面を滑ると同時に、貴族は短く息を吸う。呑まれそうになる心を丹田に力を込めて堪え、書状の大意を告げた。
「誠に申し訳ないのですが……一三六一年、ルートヴィヒ伯爵が亡くなられた際の証文です。異国人に所領を遺贈する場合、我ら貴族の拒否権を認める、と。マルガレーテ様が自らお認めになりました」
「あっ……」
途端、ルドルフの傍らのマルガレーテの顔が青ざめた。ルドルフはマルガレーテを横目に、手にした紙面を検める。
成程、文面は告げられた内容に相違ない。確かに一三六一年、二年前の日付とマルガレーテの署名もある。今し方自分とマルガレーテの交わした譲渡の書面と相違ない筆跡であった。つまり捏造されたものではない。
その署名の主は二の句も告げず、恥じ入った様子で震えている。周囲の貴族たちはそんなマルガレーテに、あるいはルドルフに嘲りの目を向け、あるいは申し訳なさそうに俯きがちに立っている。彼らの表情をつぶさに認めながら、ルドルフは朗らかに声を上げた。
「こちらの証文に間違いはありませんか、マルガレーテ? 貴女によるものだと」
「は、はい……確かに、私が……夫が亡くなったときに、でも、それは」
貴族たちの中から露骨な咳払いが聞こえた。するとマルガレーテは口を噤み、身を縮こまらせる。
つまりルドルフは謀られた格好である。このタイミングで二年前の証文を明らかにするということは、貴族たちはマルガレーテによるチロルの譲渡は認めるがこれを拒否すると、そういうことだ。
無論、マルガレーテにルドルフを謀る気はなかった。ルドルフとてこの女主人と貴族たちの様子を見るに察しがつく。そもそも政で他人と渡り合い駆け引きするほどの胆力も、知恵も、覚悟も、彼女にないことは百も承知だ。大方ルートヴィヒが亡くなった際、長年燻り続けたチロルの利権争いが再燃することを見越して――つまり今日、この日のために貴族たちがマルガレーテに迫って書かせたものだろう。
手にした書状を、先だって名をしたためた書状に並べ置く。
一枚は一三六三年、たった今ルドルフがマルガレーテと結んだ、チロルを譲り受ける証文。
もう一枚は一三六一年、マルガレーテが貴族たちに与えた、マルガレーテによる所領の譲渡に際して貴族たちの拒否を認める証文。
どちらも正しく、一三六一年の証文は一三六三年の証文を拒否している。このままではルドルフが、ハプスブルクがチロルを手にすることは叶わない。
「そうですか。ならば」
ルドルフは机上のペンを手に取った。
ペン先をインクに浸し、羊皮紙の上を滑らせる。相変わらず穏やかに、書を書くに慣れた流麗な筆跡で。あまりにも自然に。
ならばこそ、マルガレーテもルドルフを拒む貴族たちも、この場の誰も声を上げる間もなかった。
「――これで問題はありませんね」
己が確かにチロルを譲り受ける、そう署名した傍らに踊る一三六三年は、ルドルフの手によって無造作に、しかしながらはっきりと、一三五九年へと書き換えられていた。
「マルガレーテが貴方がたに拒否権を認めたのは六一年。対して私がチロルを譲り受けたのは五九年。私の証文の方が先ですから、そちらの書状は無効となりますね」
わざわざお持ちいただいて恐縮ですが。そんなことまで嘯きながら、ルドルフは一三六一年の証文をそっと押しやった。
成程、先取特権というものである。遡及して効力を発すると添えられでもしない限り、先に結ばれた約定が後から発生した権利によって掻き消されることはない。無論のこと、貴族たちが持ち出した証文にそんな一文は存在しなかった。
だがしかし、そんなことは些細な問題だ。あまりの事に絶句していた貴族たちの頭にも徐々に現実が染み入ってくる。
この男はたった今結ばれた証文を、目の前で、あまりにも堂々と書き換えた。偽造と呼ぶにもおこがましい。子どもの悪戯だってもっと慎重にやってのける。目の前で大上段から振りかぶって皿を割って、自分ではないと言い張る愚か者がどこにいるというのか!
――否、ここにいる。
既にチロルを我が手に収めたと疑わず、ともすれば皇帝然とした王の気配すら漂わせるこの男。齢は二十と少しばかりのほんの若僧。厳冬のアルプス山脈を誰よりも早く越え、餓えた狼さながらにこの地を獲りに来ながら、尚悠然と言葉を弄する。
艶然と笑みながら、ルドルフは席を立つ。勇気ある貴族の一人が口を開く。
「こ、こんな、こんなことが罷り通ると――」
「何か、」
若き鷹の城の主。その背に負った双頭に違わぬ鋭い双眸が向けられる。相も変わらず穏やかに口の端に弧を描きながら。
「問題が?」
「――ッ」
そのあからさまな剣呑を向けられて、二の句を継げるほど貴族も愚かではなかった。
冷えた空気を裂くように、ルドルフが外套の裾を靡かせる。最早彼の視界に貴族たちの姿などない。呆然と事の成り行きを見つめるばかりだったマルガレーテににこりと微笑んだ。
「無論、いきなり全てを譲り受ける訳には参りません。それでは諸侯も民衆も納得しないでしょうから。しばらくは名目上、共同統治となりますが、よろしいですね? マルガレーテ」
「は、はい……私は、もちろん。全てルドルフ様にお任せいたします」
「よろしい。であれば今はそのように。此度の譲渡に関してゆくゆくは我が義父上――皇帝陛下の承認も頂けましょう」
胸をなで下ろすマルガレーテに対し、貴族たちの胸中には何を言うのかと毒気が渦巻いていることは想像に難くない。
神聖ローマ皇帝たるカール四世、ひいてはルクセンブルク家とて、このチロルの獲得を狙っている一人だ。何せマルガレーテがルートヴィヒと結婚する以前、チロル貴族たちによって追い出されたマルガレーテの先夫ヨハン・ハインリヒはカールの弟である。一度は掌中に収めかけたチロルを逃したカールこそ、喉から手が出るほどこの地が欲しいに決まっている。
己の岳父の苦渋を承知しながらまんまと出し抜き、あまつさえ譲渡の裁定を頼もうと言ってのける。帝国内の領土の切り取りに関し皇帝の承認は当然必要だが、今この時に口にする腹の底にこそ凍りつくものがある。
この場にいる貴族たちはルドルフを受け入れる者と受け入れない者に分かれているが、更に細分すれば三派閥となる。即ちルドルフのハプスブルク派、故ルートヴィヒの家であるヴィッテルスバッハ派、そして少ないながらも存在する、カールに通じたルクセンブルク派だ。つまりルドルフは明らかにルクセンブルク派を、そしてヴィッテルスバッハ派をも牽制している。
そんな若僧に歯噛みしながら、今は納得のいかない貴族たちも新たなチロルの主人に従うほかない。緩慢に臣下の礼を取るチロル貴族たちの前を通り抜け、ルドルフは背後に従う供回りに振り返ることもなく命を与える。彼らはルドルフと共に十三日でアルプスの山々を越えた兵士たちであり、続いて挙げられる名は彼らを纏め上げて同行していたルドルフの腹心だった。
「ヨハンが戻り次第、チロル伯爵として全土に触れ回る。いつでも発てるよう調えておけ」
思えばルドルフがこの地に足を踏み入れて以降、彼の宰相、切れ者と名高いヨハン・リビの姿が見えない。まだこれ以上、何かを企んでいるのか? 気づいた貴族もこの場にはいたが、無論口を挟めるはずもなかった。
は、と短く一礼して追い越す兵士たちの背を見送り、ルドルフは足を止めマルガレーテと貴族たちを振り返る。
「これよりこのチロルは――ルドルフ・フォン・ハプスブルクの、我がハプスブルク家のものとなる!」
空を覆う鷹の翼のように、その背で外套がひらめいた。閉じる
「一三六三年、一月二十六日。」
滲むインクで綴られる今日という日を、この場にいた全ての人間が黙して見つめている。
「――それでは、これで」
その視線の中、まだ年若い男の指がペンを置く。清々しいまでに穏やかな表情で、にこりと微笑まで湛えて。
この男は自らの発した書面の全てに署名を残しているらしいと聞いたことがある。そのさぞかし書き慣れているだろう流麗な筆跡は――ルドルフ四世、と、確かに刻んでいた。
「ええ、ええ。確かに」
ルドルフに対する女は、あからさまに胸をなで下ろした様子で頷いた。他国にも大口と聞こえる唇を引き結ぶ女の名はマルガレーテ。ルドルフの署名に名を添えた、このチロルの女主人である。
彼女の頷きを確かに見届け、ルドルフは朗らかに、しかしながら朗々と眼前の書面の全てを謳い上げた。
「これでチロルは、我がハプスブルク家が譲り受けました」
その声は冬の空気に、雪のアルプスに抱かれたチロルに――ゆくゆくの果てには神聖ローマ帝国の隅々に鋭く刻みつけられた。
先だって亡くなったマルガレーテの息子マインハルト、それ以前には亡き夫ルートヴィヒから引き継がれたチロルは、今この瞬間にルドルフの手に委ねられた。
ルドルフは穏やかに笑んでいるが、この場に浮かぶ表情は複雑な、あるいは全く逆のものが圧倒的に多かった。憔悴と安堵を滲ませるマルガレーテと共に並ぶ男たちの顔は苦渋を隠し切れていない。
彼らはルドルフ、マルガレーテと共にチロル譲渡に同意したと書面に名を連ねた十四人、チロル各地を治める貴族たちだった。チロルを纏め上げる伯爵の地位を持つのはマルガレーテだが、実権を握っているのは彼ら十四人である。
そのうちの一人が軽く咳払いをする。まるで合図だったかのように貴族たちが場所を譲った。一人の男が一枚の書状を手に、いかにも申し訳なさそうにルドルフとマルガレーテに向かって一歩踏み出した。
「ルドルフ様、マルガレーテ様。お確かめいただきたいことが」
「……申してみよ」
ルドルフが薄く口の端を持ち上げる。
ものも言えぬまま疑問の目を向けるマルガレーテに対して、チロルの新たな主となった男は微笑を浮かべたまま答える。それは上機嫌でこそあるが、決して穏やかなものではない。
前に進んだ貴族は神妙に畏まりながら、冬の冷気に浮く汗は押し隠してつむりを下げる。
その内心は、この場の貴族たち皆とおおよそ同じ心情だった。彼らはルドルフに潜む剣呑に気づいてはいた。それでも引き下がらなかったのは長くチロルを治めてきた矜持や、たかだか二十と少しの若僧相手にいいようにされるなどあってなるものかという意地、あるいは純粋に、今ここまでの事の運びで言い出せなかった己を恥じてのものだった。
この場の十四人の貴族たちは三、否、おおよそ二つの派閥に分けられる。チロルがハプスブルクの手に渡ることを歓迎する者と、拒否する者だ。
拒否する者は内心で、あるいは隠し切れず優越の笑みを浮かべている。チロル譲渡の証書をルドルフが手にしている現状を前にしても尚。このいけ好かない若僧の余裕の顔も今この時までだ、チロルを手にした一瞬をせいぜい喜んでいればいい、と。
対してルドルフの前に歩み出た男は、悔恨すら抱いている。彼はチロルがルドルフに渡ることを良しとする――正しくは前々から金子や公職を受け取り、ルドルフに与している者だった。反目する貴族たちを封じきれなかったこと、ルドルフがチロルを得たと喜ぶ今になってこの証文の存在を明かさなければならないことを。受けた利益程度には恥じていた。
歯噛みしながら手にした書状を恭しく差し出す。ルドルフは目を細め、無造作にそれを受け取った――相変わらず微笑を湛えながら。
その獣の瞳が紙面を滑ると同時に、貴族は短く息を吸う。呑まれそうになる心を丹田に力を込めて堪え、書状の大意を告げた。
「誠に申し訳ないのですが……一三六一年、ルートヴィヒ伯爵が亡くなられた際の証文です。異国人に所領を遺贈する場合、我ら貴族の拒否権を認める、と。マルガレーテ様が自らお認めになりました」
「あっ……」
途端、ルドルフの傍らのマルガレーテの顔が青ざめた。ルドルフはマルガレーテを横目に、手にした紙面を検める。
成程、文面は告げられた内容に相違ない。確かに一三六一年、二年前の日付とマルガレーテの署名もある。今し方自分とマルガレーテの交わした譲渡の書面と相違ない筆跡であった。つまり捏造されたものではない。
その署名の主は二の句も告げず、恥じ入った様子で震えている。周囲の貴族たちはそんなマルガレーテに、あるいはルドルフに嘲りの目を向け、あるいは申し訳なさそうに俯きがちに立っている。彼らの表情をつぶさに認めながら、ルドルフは朗らかに声を上げた。
「こちらの証文に間違いはありませんか、マルガレーテ? 貴女によるものだと」
「は、はい……確かに、私が……夫が亡くなったときに、でも、それは」
貴族たちの中から露骨な咳払いが聞こえた。するとマルガレーテは口を噤み、身を縮こまらせる。
つまりルドルフは謀られた格好である。このタイミングで二年前の証文を明らかにするということは、貴族たちはマルガレーテによるチロルの譲渡は認めるがこれを拒否すると、そういうことだ。
無論、マルガレーテにルドルフを謀る気はなかった。ルドルフとてこの女主人と貴族たちの様子を見るに察しがつく。そもそも政で他人と渡り合い駆け引きするほどの胆力も、知恵も、覚悟も、彼女にないことは百も承知だ。大方ルートヴィヒが亡くなった際、長年燻り続けたチロルの利権争いが再燃することを見越して――つまり今日、この日のために貴族たちがマルガレーテに迫って書かせたものだろう。
手にした書状を、先だって名をしたためた書状に並べ置く。
一枚は一三六三年、たった今ルドルフがマルガレーテと結んだ、チロルを譲り受ける証文。
もう一枚は一三六一年、マルガレーテが貴族たちに与えた、マルガレーテによる所領の譲渡に際して貴族たちの拒否を認める証文。
どちらも正しく、一三六一年の証文は一三六三年の証文を拒否している。このままではルドルフが、ハプスブルクがチロルを手にすることは叶わない。
「そうですか。ならば」
ルドルフは机上のペンを手に取った。
ペン先をインクに浸し、羊皮紙の上を滑らせる。相変わらず穏やかに、書を書くに慣れた流麗な筆跡で。あまりにも自然に。
ならばこそ、マルガレーテもルドルフを拒む貴族たちも、この場の誰も声を上げる間もなかった。
「――これで問題はありませんね」
己が確かにチロルを譲り受ける、そう署名した傍らに踊る一三六三年は、ルドルフの手によって無造作に、しかしながらはっきりと、一三五九年へと書き換えられていた。
「マルガレーテが貴方がたに拒否権を認めたのは六一年。対して私がチロルを譲り受けたのは五九年。私の証文の方が先ですから、そちらの書状は無効となりますね」
わざわざお持ちいただいて恐縮ですが。そんなことまで嘯きながら、ルドルフは一三六一年の証文をそっと押しやった。
成程、先取特権というものである。遡及して効力を発すると添えられでもしない限り、先に結ばれた約定が後から発生した権利によって掻き消されることはない。無論のこと、貴族たちが持ち出した証文にそんな一文は存在しなかった。
だがしかし、そんなことは些細な問題だ。あまりの事に絶句していた貴族たちの頭にも徐々に現実が染み入ってくる。
この男はたった今結ばれた証文を、目の前で、あまりにも堂々と書き換えた。偽造と呼ぶにもおこがましい。子どもの悪戯だってもっと慎重にやってのける。目の前で大上段から振りかぶって皿を割って、自分ではないと言い張る愚か者がどこにいるというのか!
――否、ここにいる。
既にチロルを我が手に収めたと疑わず、ともすれば皇帝然とした王の気配すら漂わせるこの男。齢は二十と少しばかりのほんの若僧。厳冬のアルプス山脈を誰よりも早く越え、餓えた狼さながらにこの地を獲りに来ながら、尚悠然と言葉を弄する。
艶然と笑みながら、ルドルフは席を立つ。勇気ある貴族の一人が口を開く。
「こ、こんな、こんなことが罷り通ると――」
「何か、」
若き鷹の城の主。その背に負った双頭に違わぬ鋭い双眸が向けられる。相も変わらず穏やかに口の端に弧を描きながら。
「問題が?」
「――ッ」
そのあからさまな剣呑を向けられて、二の句を継げるほど貴族も愚かではなかった。
冷えた空気を裂くように、ルドルフが外套の裾を靡かせる。最早彼の視界に貴族たちの姿などない。呆然と事の成り行きを見つめるばかりだったマルガレーテににこりと微笑んだ。
「無論、いきなり全てを譲り受ける訳には参りません。それでは諸侯も民衆も納得しないでしょうから。しばらくは名目上、共同統治となりますが、よろしいですね? マルガレーテ」
「は、はい……私は、もちろん。全てルドルフ様にお任せいたします」
「よろしい。であれば今はそのように。此度の譲渡に関してゆくゆくは我が義父上――皇帝陛下の承認も頂けましょう」
胸をなで下ろすマルガレーテに対し、貴族たちの胸中には何を言うのかと毒気が渦巻いていることは想像に難くない。
神聖ローマ皇帝たるカール四世、ひいてはルクセンブルク家とて、このチロルの獲得を狙っている一人だ。何せマルガレーテがルートヴィヒと結婚する以前、チロル貴族たちによって追い出されたマルガレーテの先夫ヨハン・ハインリヒはカールの弟である。一度は掌中に収めかけたチロルを逃したカールこそ、喉から手が出るほどこの地が欲しいに決まっている。
己の岳父の苦渋を承知しながらまんまと出し抜き、あまつさえ譲渡の裁定を頼もうと言ってのける。帝国内の領土の切り取りに関し皇帝の承認は当然必要だが、今この時に口にする腹の底にこそ凍りつくものがある。
この場にいる貴族たちはルドルフを受け入れる者と受け入れない者に分かれているが、更に細分すれば三派閥となる。即ちルドルフのハプスブルク派、故ルートヴィヒの家であるヴィッテルスバッハ派、そして少ないながらも存在する、カールに通じたルクセンブルク派だ。つまりルドルフは明らかにルクセンブルク派を、そしてヴィッテルスバッハ派をも牽制している。
そんな若僧に歯噛みしながら、今は納得のいかない貴族たちも新たなチロルの主人に従うほかない。緩慢に臣下の礼を取るチロル貴族たちの前を通り抜け、ルドルフは背後に従う供回りに振り返ることもなく命を与える。彼らはルドルフと共に十三日でアルプスの山々を越えた兵士たちであり、続いて挙げられる名は彼らを纏め上げて同行していたルドルフの腹心だった。
「ヨハンが戻り次第、チロル伯爵として全土に触れ回る。いつでも発てるよう調えておけ」
思えばルドルフがこの地に足を踏み入れて以降、彼の宰相、切れ者と名高いヨハン・リビの姿が見えない。まだこれ以上、何かを企んでいるのか? 気づいた貴族もこの場にはいたが、無論口を挟めるはずもなかった。
は、と短く一礼して追い越す兵士たちの背を見送り、ルドルフは足を止めマルガレーテと貴族たちを振り返る。
「これよりこのチロルは――ルドルフ・フォン・ハプスブルクの、我がハプスブルク家のものとなる!」
空を覆う鷹の翼のように、その背で外套がひらめいた。閉じる
>1056もどして(もどさないで) #歴史創作 #小咄
この皇帝×青年(公爵)が義父×婿なんですね~ここテストに出ます。出ません
爽やかな風が吹き抜けている。閉じる
雄大な川の流れを見下ろす、なだらかに緑を纏う丘。
陽光輝く川面のさざ波で裾を眩く飾り、赤茶の屋根も映ゆる家々を宝石のようにきらびやかに散らす。その様は、貴婦人の御衣にも似た美しさだ。であれば、その頂点に戴くのは至尊の冠に相違はなかろう。丘の上に佇む、いくつかの尖塔を誇らしげに飾る城はまさしく王の居城であった。
その城の広間に今、朗々と声が響く。
「——それでは貴公には」
光を広く取り込む窓、高い天井、ひやりと静謐を描く石の壁。そういったものに跳ねてぶつかる音は、ひとえに声の主の感情を伝えている。
玉座に在って王冠を戴く者。美しき丘の城の主。この広く不確かな、神聖を冠しローマの名を継ぐ帝国においてそれはたった一人を指すに他ならない。
神聖ローマ皇帝カール四世――カール・フォン・ルクセンブルクは、常に理知的なかんばせに微かな憤りと、そして少しばかりの困惑を混ぜてじいと一人を見つめていた。
相対峙して臣下の礼で跪くのはまだ青年と呼んで差し支えない男である。彼の背後には幾人かの家臣が控えており、すぐ後ろの少年はカールの声にわずかばかり震えて動揺を見せたが、青年のつむりは小揺るぎもしない。
カールの腹の内などすべて承知しているだろうに――承知しているからこそこの泰然なのだろう。溜め息をつきたい心境を皇帝の顔の奥に押し込めてカールは言葉を続けた。
「根拠を示してもらいたい。貴公が、『大公』なる称号を自称する根拠を!」
喝破に等しい皇帝の声。さあどう出るとカールが見つめる中、もったいぶるようにゆっくりとつむりが持ち上がる。
「無論」
――小揺るぎもしない、どころか。
「皇帝陛下の御意のままに」
カールの怒りに、青年は艶然と微笑んで見せた。
息を呑んで見守っていた臣下から、抑えきれないざわめきが広がっていく。不敬な、というあからさまな声も聞こえたが、青年は黙して笑むだけだった。
臣従を捧げられるはずの皇帝は人知れず奥歯を噛んだ。この若僧は政界に現れてまだ一年にも満たない。皇帝を前にした公の場に出たのもほとんど初めてに近いだろう。背後に従う少年のように動揺の一つ二つを見せてもおかしくないのだ。
だというのに、この、どこか大仰にすら見える表情は、老獪な居住まいは何なのか。いいやそもそも、今カールが追及している荒唐無稽な名乗りこそ一体何のつもりなのか。
春先にも関わらず、張り詰めた空気が冷えて刺さる。一向に意に介した様子もない青年の瞳には、静かに、密やかに、けれど確かに燃える光があった。
この光はいつか見たことがある。
カールは青年の笑みの奥に、過去の光を見ている。それは宵闇を裂いて落ちる、始まりも終わりもないような刹那の輝きだった。
その輝きを宿して笑む、この青年の名は――
この皇帝×青年(公爵)が義父×婿なんですね~ここテストに出ます。出ません
ル4ことルドルフ4世のことを「歴史上実在したルドルフ・フォン・ハプスブルクが後世のイメージから人格を得た概念の二次創作の二次創作つまり概念ルドルフ4世の三次創作」みたいな拗らせた物言いしてるけどがんばって二次創作までに留めよう=歴史小説として興そうとして挫折したのがこれ #歴史創作 #小咄
ショタルフかわいいね~
芽吹いた葉が青々と、初夏の風に揺れる頃である。閉じる
ウィーン市街、そして都市の中心たるハプスブルク家の居城――ウィンナーブルクにも爽やかな風は通り抜ける。その城壁の上に、つやつやと陽光にきらめく髪を風に遊ばせる人影があった。
石壁に座っていることを差し引いてもちいさな影である。まだまだ未発達の華奢な足をぶらぶらと無造作に揺らし、じいと城下の町並みを見つめている。瞳にはちかちかと光を散らして、つぶさに家々を、その間を縫うようにして行き交う人びとを見つめているようであった。
熱心に、食い入るように視線を奪われている子どもの姿は微笑ましく見えるだろう。けれどそう高さはないとはいえ壁の上、万が一にでも落ちればただでは済むまい。まだ身体に比べて大きく見えるまあるい後ろ頭などいかにも不安定だ。ほとんどの者が見れば悲鳴を上げるか、急ぎ咎め立てる姿である。
しかしながら、この場に現れた人物はどちらでもなかった。
「ルドルフ」
まるい頭が振り向く。ついさっきまで町並みを見つめていた大きな瞳が捉えるのは、杖を突きながらゆっくりと、ぎこちなく歩み寄る壮年の男性だった。
この城で逍遥する不具の人物といえば一人しかいない。鷹の城の王、ハプスブルク家当主アルブレヒト賢公その人である。
彼は悲鳴を上げることも咎め立てることもせず、また、ルドルフ、と名前を呼ぶ。すると子どもは――ルドルフは弾かれたように壁を飛び降り、アルブレヒトの元へと駆け寄った。勢いのまま飛びつこうとして、けれどちいさな手足はその直前で留まり、きゅうと縮こまってしまう。
アルブレヒトは困ったように眉尻を下げる。ルドルフはその膝のあたりに視線を注いでいて気づかない。不器用な空白の時間は一瞬で、結局行き場を失った手は杖を持たない方のアルブレヒトの腕に伸びた。
「おとうさん」
支えるように軽く触れて、やっとまるい瞳がアルブレヒトを見上げる。喜びと不安が混じる表情だと、息子を見つめる父が気づかないわけがない。
「今日は、あるいても? いたくないんですか?」
「うん、今日は調子がいいんだ。でもルドルフが手を引いてくれるとうれしいな」
「……もちろんです!」
ルドルフの表情がぱっと明るくなる。同時に触れるだけだったちいさな指がしっかりと父親の指に絡んだ。
ショタルフかわいいね~