No.769

自分用にまとめておくやつ #王女と騎士

初期キャラクター基本設定 #設定

シーレ・ルーズベルト…銀髪のツンツン頭
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18歳。
孤児院出身。才を見出され若干7歳で王国軍に異例の入隊。当時3歳だった王女殿下の近衛騎士となるもその5年後に王女は失踪。「近衛騎士は王家の一員」という習わしと、当時12歳の若年者に責任を負わせる体裁の悪さから不在の王女殿下の近衛騎士を続けていた。成人を機に解任され片田舎の監督官に任命されることとなる。
性格は真面目。人付き合いは下手で友人と呼ぶ存在はいない。世情に疎い面がある。

ルーク…金髪の男(あまりに描かない)
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年齢不詳。
片田舎で気ままに村医を称する男。訳ありが行き着いただけ、住まわせてもらうだけで御の字と自称し利益のない医療行為を厭わない。田舎住まいではあるが流れ者らしく王都や諸都市の事情にも通じている。
常識的だがいい加減な性格。反して達観し冷めた面を見せることもある。
本来秘匿されているはずの魔術の心得があり、医療行為に用いている。戦闘補助の術も多少使うことができる。

ちょうちょ結びのおさげやろう…赤毛のちょうちょ結び
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年齢不詳。
ちょうちょ結びのおさげやろう。正体不明の不法滞在者。
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飛び飛びの小話 #小咄

靴を履かせる…領主からディナーに誘われた話

 領主から監督官へディナーのお誘い、という時点でルークからすればあからさまに顔を顰めるのもやむない案件ではあるのだが、なお輪をかけて頭が痛いのは招待状を受け取った若き監督官殿の反応である。
「……軍服以外持っていないんだけど」
 それで大丈夫かな、というのは肯定を期待してのものであると手に取るようにわかる。ルークはこめかみを押さえながら唸った。
「お前、それ以外持ってきてないのか? 私服も?」
「監督官は任地にいる間の四六時中が仕事みたいなものだろ?」
「いや……だからって軍服以外持ってない意味がわからん……」
 確かに外で見るときのシーレは常に重たい黒の軍服を纏っている。所用で不意に家を訪ねてもせいぜいジャケットを脱いでいるぐらいで、他の服を着ているところを確かに見たことがない。こいつまさか寝るときまでそれじゃないだろうな、という疑惑すら湧いてくる。
 疑惑の視線の先、シーレの手には、こんな片田舎の雑貨屋では到底並ぶはずもない上質な真っ白い紙封筒がある。見覚えのある領主の印璽で封蝋がなされており、既に顔馴染みとなった領主のメッセンジャーが言伝も含めて届けたためまだ開封すらしていないようだ。
 とりあえず読んでから悩めよ、と思いながら、ペン立てのペーパーナイフを取り上げて渡す。そもそもいくら監督官邸の隣とはいえ、なぜこの青年は怪我でも病気でもないのに手紙が届いたからと診療所にやってくるのか。暇だとでも思っているのだろうか。真実、暇ではあるのだが。
 疑問には思うもののこの青年に懐かれているとも、お互いに少なからず友情めいたものを抱いているとも自覚はあるので口には出さない。
 また痛み始めたこめかみを揉むルークには気づかず、シーレはナイフで蝋を砕き手紙を取り出した。瞬間、手紙に焚かれていたのだろう控えめながらも甘い香の匂いが広がりルークは露骨に表情を歪めた。相変わらずルークの変化に気づかないシーレは書面に目を通す。
「……領主と監督官ではなく、個人と個人として話がしたいって」
「うげ。じゃなかった、じゃあ軍服はどうかってことになるな」
「うっ……いや、でも、ディナーにあたって入り用なものがあれば用意するってあるけど」
「……うへぇ」
 聞き咎められない程度の小声でルークは毒づいた。
 つまり領主はシーレが着の身着のまま赴任していることを見越して、食事会に相応しい礼服まで用意するつもりなのだろう。どうせシーレは過分な親切に戸惑うだけだろうが、領主がどんな性癖嗜好をしていて何をしているのか、詳らかに知っているルークからすれば虫酸が走る申し出である。領主自らの好みで選び、贈り、着飾らせた服を脱がせたい、という下心が実によく、年末ぴかぴかに磨いた窓のごとく綺麗に透けて見える。
 とはいえシーレにそれを伝えてやる義務はない。義理ならあるかも知れないが、ルークは領主の、仮にも立場ある協力者である。領主のやることの大なり小なりに口を出し正義を振りかざす真似など今更しようもない。転じて、互いに結ばれた約定の範囲外であれば阻止したところで非難される謂われもないのだが、今はまだ様子見の段階である。
 尤も、シーレが自ら領主の好意――というにはあまりにも露骨な思惑を受け取ると、そう選ぶのならそれも致し方なし。そういう心境で口を開く。
「で、どうすんだ」
「うん、いや……いくら個人で、という話でも、そこまでご厚意に甘えるわけにはね。立場上」
 案外と、いや任地での行動全て仕事だと言い張る程度には、立場と線引きを弁えているらしい。
 手紙を封筒にしまい、慎ましやかな発言をため息で押し流しながら、それに、とシーレはもう一つの理由を口にした。
「僕はこれがあるから、ちょっと礼服は着られないかも。ああいうの細身のデザインが多いだろ」
「あー……」
 じゃっという細かな金属音と共にシーレの袖口から滑り落ちるものを見て、ルークも納得のため息で応えた。
 右の袖口から垂れ下がるのは細身のナイフである。柄尻には細い銀の鎖が通されていて、先は袖の奥へと消えていた。どういう理屈か、ルークの見立てではいくらか魔術的な仕掛けがあるようだが、とにかく袖の奥では腕に幾重にも鎖を巻いて常から武器を忍ばせているらしい。シーレの軍服の袖が左右で異なる意匠になっているのもこのためなのだろう。
 シーレがこの特殊な武器で立ち回ることは、赴任早々の害獣退治で承知している。随分と、監督官向きでも正規の軍人向きでもない得物だと思うが、王女殿下付きの近衛騎士だったという本人が語った過去を照らし合わせれば成程理解できた。
 と、いうところまで思い返して疑問が湧く。
「お前、王女殿下の騎士だったんなら夜会だか晩餐会だか、そういうのに出る機会あったんじゃないのか」
「それでも僕らの立場は軍人だから軍服で問題なかったんだよ。……どっちにしろ、僕のお姫様は公式に社交界デビューする前に失踪したから縁のない話だけど」
 後半の低い声には引きつった笑いを返すしかない。
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…領主に一服盛られた話。2,3年単位で啜る開幕からスケベ

 ひくひくと、青年の腰が不規則に揺れる。あまつさえ差し出すように跳ね上がり、だらしなく開かれた膝の奥では注がれた蜜をとろとろと溢し、今まさに暴かれようとほころぶ蕾がいやらしく濡れ光り誘っている。
 だがそれでも、精神は限界まで抗っているようだった。腕で覆い隠され表情は窺えないが、隙間から覗く口元はきつく唇が噛み締められ血が細く滴っている。
 若い、まだ青い肉体。神代の毒には空の魔術を以ってしても抗う術はないという。肉体のみを錬磨し、魔術などはからきしであろう青年を堕とすなど造作もない。ただ――これほどまでに陥落し、それでも折れない心だけは素直に賞賛しても良いだろう。齢二十を超えるか超えないか、性に貪欲な年頃だろうに理性を手放さず最後の一線を必死で張り詰めさせている。
 だからこそ、男は煽られる。
 震えて張り詰める糸をふつりと切る、その瞬間の甘美はどれほどだろう。
 汚れを知らないこの高潔な精神を、今から犯すのだ。それは堪らない悦びだった。
 男は下衣を寛げ、猛り切った雄を取り出す。しなやかな筋肉と薄く汗を纏う青年の膝裏を掴み、持ち上げる。ぴくりと跳ねるような感覚はあったがただの反応でしかなく、反抗はおろか到底拒絶にも届かない。
 薄く笑みを浮かべながらゆっくりと膝を開いていけば、赤く色づいた秘奥が魔術照明の下、男の眼前に晒される。
 毒を吸った蕾は濃密な蜜を垂らしている。ぐっと膝を押し上げるだけでくぱりと開き、雄を求めて喘ぐように収縮する。蕾んでは震え、ほころんでは蜜を溢し。ぷくりと音を立てながら泡立つ様さえあった。
 男は腰を上げ、雄の先端で蕾にそっと口づけた。ぬるりと滑り、啜るように蠢き――しかし堕ち切る寸前の青年の、細く、それでいて切り裂くように鋭いさやかな声を男は確かに聞いた。
「……ろして、やる」
 腕に覆い隠されたままの表情は見えない。しかし唯一覗く口元ははっきりと感情を刻んでいた。
 細く赤い、艶やかな血を纏う唇は――確かに、笑っていた。
「よりにも、よって、この毒で。あの時の毒で――再びわたしを、貶めようと。ああ、ああ、やはり、おれには、にんげんを殺すだけの理由がある。なあ――」
 青年は相変わらず寝台に仰臥し、男に膝を押し広げられ雄を押しつけられ、操を散らす寸前である。
 なのに青年は笑っていた。饒舌だった。そしてゆっくりと下ろされた腕、露わになった青年の顔は、子どものようにあどけなく笑う瞳の奥には、凍りつくほどに純粋な、殺意が――
『お休み中のところ申し訳ない、領主殿。ルークだが』
 奇妙に空気の捻れ始めた寝室を、ノックの音と声が留めた。
 男は咄嗟に寝台の上からドアを振り返る。だから気がつかなかった。笑みを浮かべる青年のシーツに散らばった銀の髪が、深く濃ゆい赤から鮮やかな緋色に揺らぎ、そして洗い流されるようにして銀に戻ったことに。
 扉の前の気配は変わらず動かない。舌を打ちながら男は声を上げた。
「何の用だ、村医。今はプライベートな時間だ、誰も近づけるなと執事に伝えているはずなのだが?」
『ええ、その執事殿からですね。病人がいるようだとお聞きしまして』
 多分に含みのある言い方だった。
 男は寝台の上の青年を振り返る。既に捻れた気配はなく、声を上げる前までと同じように青年は唇を噛み締めて性感に耐えていた。
 執事は男にとって信頼の置ける側近の一人だ。男の趣味も熟知しており、もちろんそれに物申すことや鼻白むようなことは一切しない。閨に関するあらゆる用意は、表では決して言えないようなことまで含めて全て執事の仕事であり、他言するなどあり得ないことである。
 その執事から聞いたと扉の向こうの男は言う。病人というのは間違いなく、男が今まさに組み敷いている青年を指すのだろう。
 執事は聡く、主人たる男の不利になるようなことはしない。扉の向こうの男は領地でも特に鄙びた村に住まう医者だが、ただそれだけの人間ではないと男も、そして執事も知っている。
 男の中で損得、利益無益の天秤が大きく揺れる。言葉を重ねることはせず、しかし扉の向こうは次の句があるまではいつまでも動くまいという気配を隙間から滲ませている。
 やがて片方に天秤が落ち、男は苛立たしげに息を吐いた。着衣を正して寝台を下り、執事の整えたテーブルセットへと場所を移した。
「……入りたまえ」
『ありがとうございます』
 微塵のためらいもなく、飴色の扉が開かれる。取って付けたような配慮で細く開いた隙間から滑り込む男は、扉を後ろ手に閉めながら無造作な礼節見せた。
「失礼します、領主殿」
 軽々しく下がる頭は金。ジャケットにパンツ姿とおよそ医者らしからぬ格好で全体に軽薄な感が漂う男だが、表情だけは無駄を削ぎ落としたように静かだった。
 男への言葉もそこそこに、即座に医者は寝台へと視線を向ける。ほんの一刹那、眉間にシワを寄せる様を男は見逃さなかった。
「病人はあそこだよ。……食事の後、体が熱いと仰られたので寝所に案内した。連れて行きたまえ」
 自分以外の男にみすみすくれてやるのは惜しいが、趣味のために裏の繋がりを失っても良いと思うほど男は愚かではなかった。テーブルからワインを取り上げ、グラスに注ぎながら医者を促す。
 空々しい男の言を問い質すこともなく、促された医者は大股にベッドに近寄り、横たわる青年を覗き込んだ。過ぎた快感に震える身体も雄を求めて蜜を垂れ流す蕾も、耐えるために血を流して噛み締められる唇もそのままだ。医者は少しだけ奥歯を噛んだが、目を逸らすことはしなかった。
 医者らしく、目に見える怪我がないことをまず確かめる。次いで青年の近くを見回し本来着ていたはずの服がないことを悟り、羽織っていたジャケットを脱いだ。
「触るぞ、監督官殿」
「ん……っ!!」
 ジャケットで包むようにして医者は青年を抱き上げる。剥き出しの肩に、膝裏に手が触れた瞬間、びくんと激しく青年の身体が跳ねた。ぱたぱたとシーツに水の落ちる音と青い匂いが跳ね、医者は苦々しい表情を浮かべる。
 青年の額に口付けるようにして医者は小さく何事かを呟く。多少なりとも魔術の心得のある男には医者が感覚を鈍麻させる術を用いたのだと知れた。同時にそれは表面の感覚を鈍らせるに過ぎず、内側から苛む衝動には何ら効果がないことにも気づく。男が用いた神代の毒薬は、その程度で解けるものではない。
「馬車を一台お借りしても?」
「診療所まで帰るつもりかね? 屋敷で一泊してもらっても構わんが」
「……ここでは、治療ができませんので」
 ワイングラスを傾ける男の側を通り抜ける。そんな医者の横顔に、男は少しばかりの揶揄を込めて問う。
「若き監督官殿は、もしや村医のお気に入りだったかな?」
「……ま、想像していたよりは好漢でしたがね。これは王宮付きの騎士だったと聞いています。下手に手を出して王都に睨まれる訳にもいかないでしょう――領主殿?」
 見返す目端はこの医者にしては冷たく、睥睨と嘲りすら含んでいた。
 男は、領主はわずかに鼻白む。しかし言葉を返すでもなく、ワイングラスを光に透かしながら静かに口を開いた。
「……馬車が入り用なら下男に声をかけたまえ」
「ありがとうございます。それでは」
 失礼します、とぞんざいに続けて、医者の男は青年を抱き上げたまま器用に扉を開き部屋を辞した。また器用に閉じられた扉の音に、ガラスの砕ける音が重なる。
 濃い蜜の匂いだけが残された部屋で、男はワイングラスを叩き割った姿勢のまま荒く息を吐いた。毛足の長い絨毯に広がっていく赤い色に、男が散らすはずだった青年の破瓜を幻視する。
 初物を医者にくれてやるのは業腹だが、機会はまだある。青年が正義の心を持つ監督官である以上、領主たる男にはまだ切れるカードが残っている。無論、綱渡りが必要なゲームではあるが焦ることはない。いずれまた機会も巡ってくるだろう。
 赤い染みとガラス片を踏みつける男の頭にはもう、青年の赤く彩られた笑みと呪いの言葉は残っていなかった。


 ホールにいた下男に声をかければ、既に用意されていたのだろう、すぐに馬車を出してくれた。領主自慢の駿馬が曳く馬車は小一時間ほどで村に着き、深く語ることもなく御者は屋敷へと帰っていった。
 問題はここからだ。今や瘧の如く震えるシーレを抱き抱え、ルークは診療所に入る。ただし診察室のベッドではない。診療所の出入り口にはしっかりと鍵をかけ、照明をつけることもなく消毒液の匂う部屋を素通りする。そのまま奥の自宅、更に奥の寝室へと足を向ける。
 毎日自分が寝起きするベッドへシーレを横たえ、ルークは最低限の光量で魔術照明を浮かび上がらせる。
「……シーレ、もう、俺しかいないから。腕、やめろ」
 声は聞こえているのだろう、激しく震えながら、それでも青年は硬く目を閉じて首を横に振った。
 御門違いだとわかっている。それでも苛立たしげな息を吐いてしまう。ルークの感情にか、あるいはこれから何をされるのか気づいてか、シーレはますますきつく己の腕を引き寄せ、震える身体を縮こまらせた。構わずルークはその腕へ手を伸ばし、強引に引き寄せた。
「ぁ、あ、ア! ヒ、やだ、や゛ぁ、ぁアアああああ!」
 腕には抉るようなシーレ自身の歯型が刻まれており、触れれば滑るほどの血を纏っている。馬車の中で抱えていた時からずっと、声を漏らすまいと唇では間に合わず噛み締めていたものだ。痛々しさにやめさせようとも思ったが、馬車が揺れる度に放埓するように仰け反る姿を見るに耐えず、本人とて到底聞かれたくないだろうと目を瞑っていた。
 決定打を求めて跳ねうねる腰と、シーツをがむしゃらに蹴る足と、薄紙のような理性のために取り返そうと暴れる腕と、何もかも受け入れられず振りたくられる頭と。そのうち噛み締めた腕の肉を抉るばかりでなく、発狂の余り舌でも噛んで自死するのではないという考えが突飛でもないと感じ、ルークはシーレの上に乗り上げた。膝で下肢を押さえ、左右の手でそれぞれの腕を押さえる。医療用の抑制帯があれば、と思うが、ここが寝室ではなく診察室であれ小さな田舎の診療所にはそんなものは置いていない。
「やだ、やだ、やだぁ……」
「シーレ、ごめんな。何もしないから、少し大人しくしてくれ」
 最早シーレは子どものように嫌々と首を振るしかできない。ぱたぱたと散る涙が無垢で、なのに下肢に感じる動きは娼婦のように淫猥だった。張り詰めて泣き濡れるシーレの芯がルークの膝や内腿に触れるが、意識から追い出して目を閉じる。
 左右の手はシーレを押さえるために塞がっている。動かせるのは頭ぐらいだ。屋敷で麻痺の術を使った時と同じようにシーレの額に己のそれを合わせ、口早に呪文を紡ぐ。全身の魔素の流れを走査する魔術で、歌うようなリズムに合わせシーレの身体はしゃくり上げていた。
 ルークが編んだ術は魔術的な異常を探るだけのもので薬物的なものは検知できない。しかし薬物によるものであれば対処のしようはいくらでもある。問題は、あの領主がそんな簡単な手に及んだだろうかという点だ。
 領主が個人の性的嗜好で、あるいは魔術的な必要に応じて老若男女を手中に収めていることは前々から知っている。それを領主の屋敷の連中やルーク以外の誰にも知られないようにやってのけていることも。単に肉体を陥落させる、あるいは相手が子どもや生娘ならば、媚薬や麻薬の類いでも簡単に堕ちるだろう。しかし彼は時に洗脳めいて、また別の時には完膚なきまでに相手の精神を磨耗させ従属させる手管を使う。ルークは不可侵であり糾弾もしないという立ち位置の元、仔細な手段まで聞き及んではいないが――あれだけやってのけるのだ、何かしら強力な精神系の魔術を用いているのだろうとは予測している。
 案の定、シーレの肉体を流れる魔素の中に奇妙な流れが絡みついている。ルークは解呪のための呪文に切り替えるが、不意に不明な流れがずるりと蠢いた。
「何……?」
 そのままシーレの中を流れる魔素に溶け込み、一体となってどくり、どくりと脈動する。
「や、ぁヒっ⁉︎」
「っシーレ⁉︎」
 溢れんばかりに目を見開き、シーレは雷に打たれでもしたかのように大きく一度体を跳ねさせた。そのままぶるぶると震え、犬のように舌を突き出す。弓なりに背を反らせ、かくかくと腰が動いている。口からは意味をなさない母音だけを吐き出し、叫ぶ。
 人体を流れる魔素に干渉する術はあっても、溶け込んで同化するものなど聞いたことがない。それは既に魔術の範疇を超えている。再び式を編んで走査すればシーレのものでない魔素は全身を巡り、彼の下腹部に蟠ってありえない内臓を象っている。シーレの心臓の鼓動と同期して脈打つ架空の臓器は、子宮にしか見えない。
「……んだコレ、呪い、か……?」
 呟きに応えたように、シーレの汗に濡れた腹、臍よりも更に下に子宮の輪郭を簡素化したような紋様が浮かび上がった。薄い銀の下生えを透かし恥骨の上に刻まれたそれは脈動し、その度にシーレは悲鳴を上げる。
 魔術の体系に呪術が含まれるが、これはもっと根深く原初のものだ。魔術とはあくまで魔素を操作するものであり、絶対値たる魔素そのものが形を変えることはあれど別の何かや他者のものへと変化することはない。あるとすれば人類にはまだ未踏の根源の業、神話の時代の遺物だ。
 知識と記憶を手繰る。神代から現存しうる、人の性を、精を、生を犯すもの。お伽話と笑い飛ばしてもいいような御都合主義の、けれど魔術世界ではそのお伽話こそが力足り得るのだという証左。
 ――女神を手に入れるため、人間の男は毒を用いた。それは雄の精を受け入れない限り決して治ることのない熱をもたらす毒薬。女神は体の疼きに泣き叫び、人間を呪いながら、それでも気が狂う寸前に男の精を受け入れ人との子を為したという。
「……っ『エリニスの毒』か」
 堕とされた女神の名を冠する毒。神代のものか偽物かは不明だが蒐集家の魔術師が所有しているという噂は聞いたことがある。存在の真偽はともかく、この効能は本物にも劣るまい。
 人としての瀬戸際でシーレは泣き叫んでいる。体を押さえつけるのも限界だった。神代の毒に対して魔術の素養もなしによく持ち堪えたものだと感服するが、もう限界だろう。これ以上は、狂ってしまう。
 ルークは唇を噛み締める。解毒の方法は神話の通り、一つしかない。
「シーレ、」
「あ゛、ぁあ、る、ゃヒ、ルークっ、るぅくううぅぅ!」
 押さえつけ留める身体がもがき、強張る。身も世もなく喘いで縋ろうとする腕が跳ねる。最後の最後、ぐずぐずに壊れながらも辛うじて残ったシーレの理性が、ルークに身を委ねて安楽と快楽に堕そうとする肉体を抑えているのだと知れた。
 シーレはまだ若い。肉体的にも精神的にも、まだ成熟には至っていない。こと精神など、どうして自分のような胡散臭い男に心を開いてしまえるのかとルークからすれば心配なほどで、時折ひどくあどけない表情を見せる。軍歴だけは長いようだが錬鉄の域には程遠いだろう。そんな青年がここまで、心を放り投げずに耐えるのはどれほどのものだろうか。
 医者などと名乗ったところで、自分は酷く無力だ。魔術師としても中途半端で、そして何より人間としてはどうしようもなく屑だった。
「何もしないっつったけど、ごめんな。俺は今からお前に、酷いことする」
 シーレの額に唇を落とす。せめて痛みはないように重ねて鈍麻の術を編む。ここまで感覚を狂わされている以上、意味などないかも知れない。それでも医者らしく魔術師らしく、ルークが誇りを以って唯一シーレに施せるものはそれだけだった。
 浅い呼吸と喘ぎを繰り返しながら、シーレは茫洋とルークを見上げていた。これが例えあの領主でも、きっとシーレは同じ顔をしていただろう。施す術も告げる言葉も、傲慢な自己満足でしかない。
「あの男と同じだ。何も違わない。助けるフリしてる分、もっとタチが悪い。正気に戻ったら気が済むまで殴れ。一生恨んでくれていい。だから、……今から、俺は、」
 ――お前を抱く。
 どこまでも、狡い。
 シーレの肩口に顔を埋めながら、呻くように告げるのが精一杯だった。
 シーレは答えない。答えられる状況でもない。しかし沈黙していた。垂れ流していた喘ぎも呑み込んで、ぜいぜいと息をしながら考えている様子だった。
「……ぉ、まえ、なら、」
 ひくりとしゃくり上げる喉の音が、耳のすぐ横で聞こえる。
 掴んだ腕がそろりと動く。戒めを少し緩めてやれば震えながら、けれど確かな意思を持ってルークの手のひらのかたちを辿った。
「ルー、ク、なら、いいっ。ルークがいいぃ……!」
 最後にぎゅうと、ほとんど気のせいかというほどに弱い、けれど確かにシーレの感情に従った力で、指と指を絡められる。声が落ちる。
「ルーク、」
 狂うほどの快楽に突き動かされながら、全く以っていつもの彼と同じ声。あるいはもっとよっぽど。静かな声。
 思わず肩口から顔を上げたルークの目に映ったのは、覆い被さる自分の影の下、ただの子どものように頼りないシーレの表情だった。
「たすけて」
 それは常から自己を主張せず、年齢にしては酷く落ち着いて冷静ぶったシーレが取り払われた、きっと剥き出しの彼そのものだった。
 震える。喘ぎ続けて涎に濡れた唇が、涙の乗った睫毛が。そして目尻から落ちた雫が。震えて――弾けた。
 ルークにはもう見えない。シーレの顔に落ちた影をも埋め尽くして、濡れた唇にかぶりつく。
「んっ、ん、んぅ、ぷぁっ……んんっ」
「んっ……」
 舌を捩じ込んで唾液を啜れば酷く甘い。これも毒のせいだろうか。ぬるりと絡め取ればシーレは鼻から小さく声を漏らしながら必死で動きを合わせてくる。握ったままの手にも力を込め、かくかくと腰を揺らしている様子だった。
 薄眼を開ける。シーレの瞳はぼんやりと、半分ほど開いていた。珍しい銀色の虹彩は涙に潤み、ゆらゆらと艶やかに世界を映している。理性は見えない。ただルークだけを見て、ルークの与える感覚だけに溺れている。今更、この青年が童貞だったら不憫だな、などと思ったが、強姦する立場でそんなことを思う自分を内心鼻で笑った。
「ルー、……く、んっ、んーっ……」
「ん……」
 首の角度を変える。絡めていた手を片方解けば切なそうにシーレは啼くが、剥き出しの脇腹を撫でてやれば面白いように体を反らせた。ちらと窺えば薄くしなやかな筋肉を纏う腹に、毒によって浮かび出た紋様、薄い銀の下生え、そして震えながら反り返る芯、その全てが濡れ光っていた。中でも紋様は燐光を放ち、相変わらず脈動している。
 愛撫はたぶん、必要ない。シーレに施された毒を思えば彼の肚の中で射精することだけが唯一の救いだ。だがそれだけにはしたくない。少しでも楽にしてやりたい、気持ちよくしてやりたい、治療という名の強姦だけに留めたくない、と思う。そしてルークはこの自分の思考がどこかおかしいことに薄々気づいている。シーレに与えられた毒に当てられたか、もしくはシーレの痴態そのものにか。あるいは――もっとタチの悪い――
 ぞっと冷たい感覚が背筋を抜ける。逃げるようにルークはシーレの唇を吸った。噛み締め過ぎて傷になった箇所への刺激にシーレがかぶりを振る。同時に腹の紋様を指先で辿れば、ほとんど悲鳴のような嬌声が上がった。
「や゛ああああ‼︎ あ゛、あーっ!」
 ちりりと熱が指先を奔る。いかなる呪いか、時間があれば調べてみたいなどと魔術師としての思考が過ぎるが、冷静な部分とは裏腹にルークの体にまで快感をもたらしているようであった。
 ずんと重くなった腰を浮かせ、下衣を下ろし前を寛げる。あ、とシーレが浅ましく啼いた。目端を朱く染めた青年は期待し切った目でルークの取り出したものを見つめている。
 甘く粘ついたそれを裏切り、ルークはシーレの下肢に手を伸ばす。少し触れるだけでびくびくと震え仰け反り、促すまでもなく膝を立てて開いてみせた。ここに至るまでに幾度も射精したためか腿の間を白い糸が網のように粘りを引き、ぶちぶちと途切れる。粘りと引きずって落ちる真ん中の一番奥では、腹につくほど反り返り真っ赤になった陰茎と、そして女のように自ら濡れそぼる後孔が薄い照明の下に晒された。
 ぱくぱくと息づいて、その度にぷくんと泡立って蜜が零れる。上から流れてきた白と溶け合って混ざるそれは酷く淫猥だった。
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黎明近く…事後

 ルークが理性を取り戻したとき、既に月は山並みを行き過ぎ、空の端が白んでいる時分だった。
 うすぼんやりと浮かび上がる部屋の中、寝台の上に広がる惨状に思わず額を押さえる。シーツはどろどろのぐちゃぐちゃ。真ん中で今は安らかな寝息を立てている青年は下肢といわず腹といわずあちこち白濁まみれだ。特に内腿のあたりは悲惨で、散々責め抜いた後孔からは未だにルークの注いだ精液が溢れている。淫猥な紋様の消えた肚はわずかばかり膨らんで見えて、後々腹痛に苛まれ起き上がれなくなる様が目に見えるようである。
 それでも、まだマシだ。毒を注がれ理性を蹂躙され、雄の精液を求めて狂うよりは。発狂の挙句に死ぬ可能性すらあったことを思えば、あからさまに強姦の後にしか見えない状況でもずっとマシだろう。きっと。たぶん。あくまでこれは犯した側のルークの言い分な訳だが――いややはり、どう足掻いても自分は人間として屑だ。
 陰鬱な気分で、それでも体を起こす。一晩中腰を振っていたせいで下半身を中心に体中が軋んでいる気がする。こちらの疲労も大概だが、散々苛まれた青年の負担は言うまでもないだろう。
「……シーレ」
 囁くように呼ぶ。答えはない。深く静かな吐息だけが返ってくる。
 そっと顔を覗き込めばところどころ白濁を散らし、幾分血の気が引いて見える白皙があった。また、シーレ、と呼ぶ。青年は薄く唇を開いてこんこんと眠り続けている。その顔はいつもよりもずっと幼く見えた。たすけてと、拙い響きの声がルークの脳裏に蘇った。
 深く長く息を吐く。後ろ向きなため息ではなく、己の思考を切り替えるためのものだ。咽せる夜の澱を吐き出して、朝の冷静を吸い込む。ついでに自分の頬を叩いた後、改めてルークはシーレに向き直った。
 シーレの飲まされたエリニスの毒は、強力だが後遺症のあるものではないはずだ。神代の逸話どおりであるなら毒は女神を性に堕落させ、子を孕ませるためのものである。これが他の、例えば常習性のある麻薬や精神を阻害するものであれば厄介だがその点だけは不幸中の幸いだろう。領主の目的は恐らく一晩シーレを手に入れ、あわよくばその一晩を盾に肉体関係を継続させることだったのだろうから当然ともいえた。仮にもシーレは王都から派遣された監督官である以上廃人にする訳にもいかないと、その程度の理性はあの領主にも残っていたのだろう。シーレの立場と性格を考えれば肉体から陥落し思い詰める様を楽しむ目的もあったかもしれない。
 下衆だな、と思うが、彼の所業を知っていて看過する自分はもっとどうしようもない屑だ。内心で自嘲して、ルークはシーレの額に触れる。汗と他の液体で湿った肌に張り付く銀の髪を払い、露わになったそこに己の額を合わせた。念のため術を編んで魔素の流れを走査する。本来は掌を触れさせて行使するものだが、眼球や視覚野が物理的に近くなるせいか認識が早いような気がする、とは、今回シーレに行使して初めて知った。単にシーレに触れたいだけの建前かもしれない。
 まずい。本当にまずいと思う、心の底から。
 それでも走らせた術は正しくシーレの魔素の流れを汲み取る。予想どおり異常はなく、それに関してだけは安堵する。問題はここから先だ。正しく強姦の後の惨状である。
 怠い体に鞭打ってベッドから下り、箪笥の中から清潔な布をあるだけ取り出す。まずは一枚目を使い、拭えるだけの精液をざっと拭いながら、怪我をさせていないことを確かめる。乱暴に扱ったつもりはないが何分お互い理性を失っての行為だ、万が一は十二分にあり得る。
 顔、首筋、肩、手首、胸元、脇腹、腰。薄い歯型や濃い鬱血痕、掴んだ手のひらの痕などはあるが血が流れるほどではなく外傷もない。いずれも全て余すことなく己が与えたものである、という事実に頭が痛むが、今更第三者だか被害者だか面をするほどの屑に成り果てたつもりもなかった。丁寧に拭き清めていく。
 唯一、左腕に肉を抉るほど深い歯型がある。ルークによるものではなく、馬車の中で声を殺すためにシーレ自身が刻んだものだ。随分と前のことのように思うが実際はほんの数時間しか経っていないのだろう。時を忘れるほど没頭していたことを自嘲しつつ、こちらは後できちんと手当てをするべく傷口の周りの汚れだけ拭う。
 淫らな紋様が浮いていた下腹部も今は膜になるほどの精液に汚れているだけで、あとは生白い肌と薄い下生えを晒していた。ルークと、そしてシーレの吐精したものを拭いそのまま今はくたりと力なく垂れ下がる陰茎へ手を伸ばす。雌に堕とされ腹の中に注がれることばかりを望んでいたが、男としての快楽もなかった訳ではない。ルークほどではないにせよ何度も射精に導かれ、終いには色のない潮を噴きそれすらないままに絶頂を極めていたそこは、真っ赤になって縮こまっている。直視しないように意識しつつそっと布で包んだ。
「んッ……」
 頭上で色めいた声が漏れ、刹那手を止める。そっと窺うが少し眉根を寄せただけで、シーレが起きる気配はない。無駄な努力と知りつつ、極力刺激を与えないよう清めていった。終いにはドロドロに汚れてしまった布は後で捨てるべくそのへんに丸めて投げておく。

>>この後ちょうちょ結びのおさげやろう<<
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