No.2464

ティル(カイル・ゼアライル)+ストラル・ゼアライル #リボ #創作HBD
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ティル
華安暦三七七二年夏盛月六の日生まれ。
反政府組織「黎明軍」義勇兵。本編時16歳。
少年ながら前線部隊に加わる矛使い。性格は明るく、黎明軍の盛り上げ役。実際は現実主義者であり、内心では冷めた目で物事を見ている。カイを黎明軍に引き入れた張本人であり、彼に対して既視感を覚える。
正体は連合政府の間諜であり、統一戦争時の政府軍軍主ストラル・ゼアライルの一人息子カイル・ゼアライル。幼少時に英雄として没した父には複雑な感情を抱えている。朧気な記憶だが父の食客であったカイとは既知の仲。

080105 あけはとおくいまだむらさき #小咄

 窓を開ける。途端、冷たい空気が部屋の中へと流れ込み、蝋燭の炎を揺らめかせた。
 試しに吐いた息は夜明け前の薄闇に白く消える。その白を認め、もう明かりは必要ないかと室内を振り返った。まず目に入るのは筆やら料紙やらで散らかった卓、その上で忙しなく小首を傾げる一羽の鳩。
 腕を伸ばせば鳩はばさりと羽ばたいて飛び移ってきた。そのまま目の高さまで腕を持ち上げると、安定を求めるかのように鳩は腕の上を危うげに行き来する。爪が着物の袖に食い込むが、寒さをしのぐための厚着していたため痛くはない。やがて手の甲に落ち着いた鳩に苦笑しながら腕を窓の外へとやる。
「ほら――」
 短く促す。やはり何度も首を傾げながら鳩は外の世界を見つめ、次の瞬間に綿羽を散らしながら羽ばたいた。追って薄紫の空へと視線を向ければ、黒い影として浮き立つ木々の間へと姿を消す。塒か何かだろうか。いずれにしろこれで自分の用事は済んだ。
 長く息を吐いて肩の力を抜けば、視線の先はまた一瞬、白く染まる。朝未だき。日の出を待つには少々早い。そうでなくても夜を徹して用事を終わらせたのだ、睡眠を欲しているのか身体が重い。ぐるりと肩を回せばばきばきと音がした。やはり少し眠ったほうがいいだろう。今度は首を回しながら床へと向かう。そう、少しでもいいから眠らなければ。今日は確か、朝から――
「……あ」
 ぴたり。零れた声と同時、止まる足。ぐるりと通り過ぎたばかりの卓を振り向いた。
 散らかった筆にくしゃくしゃの料紙、乾きかけた硯、の、隣りに。用事を始める前、つまり昨晩、わざわざ中身を温めておいた徳利と、杯。自然と溜め息が落ちる。結局用事に没頭してすっかり忘れてしまっていた。長くかかりそうだったから、温かい酒でも飲みながらと思ったのに。
 徳利を手に取ればすっかり冷たくなっていた。仕方なく冷たい酒を杯に注ぐ。普段は茶で済ますところを、わざわざ酒を選んだのだ。飲み忘れていたからといって再び仕舞い込むのも馬鹿らしい。何よりわざわざ用意しただけあって、今日飲まなければ意味がない。ちゃぷんとちいさく、澄んだ液体が杯で撥ねる。香りに定評のある特急品“吟清華”、冷でやるのが一般的だからかえってよかったのかも知れないが。
 窓へと目を向ける。空は未だ、薄い紫。恐らく今この時間に日の出を待っている連中、宴もたけなわといった体で酒に溺れている連中も多いだろう。
 なんせ今日は。年初月初日、いわゆる元日なのだから。
 未だ昇らぬ朝日へと杯を掲げる。唇はちいさく、故郷の言葉を。
「……我らが道に、至高の光のあらんことを」
 日が昇れば年始の集まりへと赴かなければならない。その場では故郷の礼を捨てることになる。大半の連中が夜中のうちに出来上がりきっていて礼もしきたりも関係ないのだが、幾人かは聞きとがめるだろう。出身を悟られるのは極力避けたい。ごろつき紛い、故郷もばらばらで、更には本名を隠しているような連中の集まりとはいえ。
 かったるいな、内心で呟きながら杯に口をつける。すっきりとした味わい、けれどもざらりとした不快なものが残った。……当然だ。空になった杯を卓に置いて自嘲する。
 何が“至高の光のあらんことを”、だ。年明けからこんなことに勤しんでいるというのに。
 先ほどの鳩が飛び込んだ木の影を見つめる。やはり薄い紫に浮き立つ影は、どこか禍々しい。
 じっと睨みつけていると、じわり、視界の端が滲んだ。目が乾燥してきたらしい。
 ふわあと気の抜けた欠伸でごまかす。考えても仕方ない。とりあえず、一眠りしよう。朝になればどうせ誰かが起こしに来て、そのままずるずると軍主どのの家まで連れて行かれるのだから。それまでに、“いつもどおりの自分”に戻らなければ。
 窓に背を向け、今度こそ床へと向かう。
 背後、窓の外の空は未だ薄い闇。夜明けは少しばかり、遠い。
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ストラル・ゼアライル
華安暦三七四九年夏盛月八の日生まれ。
前華安統一政府連合軍軍主、当時の白軍白将。本編時は故人であり享年29歳。
華安統一戦争において、戦場を駆け名を馳せた英雄。政府連合軍軍主だったが、その真摯な姿勢は敵味方を問わず多くの人間に影響を与えた。風土病である風紋病に侵されており、統一戦争終結直前に病死。
カイの虚無感を見抜き、個人の食客として迎え入れていた。家族同然に接する仲で最も信を置き、カイからも信頼を寄せられていた。

2007以前 主従の会話 #小咄

「大人にはなりたくねぇんだ」
 床に胡座を掻き、背中合わせに武器の手入れをしていた二人、のうち、赤毛の方が呟いて。
「いい大人が何言ってんですか」
 小柄な金髪の方がバッサリと返す。碧の瞳は掌中の鉄扇だけを捕らえて小揺るぎもしない。
 赤毛の方は剣を置き、唇を尖らせながら振り向く。
「カイちゃん、冷たい」
「次そんな呼び方したら戦場出た時どさくさに紛れて背後から斬りつけますからね」
(できないくせに)
(できたとしても決して殺せないくせに)
 この小柄な金髪が赤毛を傷付けることは不可能だった。物理的に、なら一瞬で遂げられるのだが。精神的にの話。
 金髪が振り向かないのをいいことに赤毛はひっそりと笑みを浮かべた。ちいさな背中を滑る金髪、その一房を手に掬い睦言を囁くように、けれども赤毛は脳内で喉元に突き付ける刃を描く。
「お前は“大人になる”ってどういうことだと思う?」
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