No.2307

Day6「重ねる」 #文披31題 #小咄 #翼角

 あづい、あづいと呻けども、隣からは、そうだな、しか返ってこない。しかしながら相槌が返ってくるようになっただけ真宮鷹臣という少年も成長したのだと、本郷大和は知っている。去年の今時分は非効率だ、必要な人間が行けばいい、そうでなければクーラーボックスを持ってくるべきではなどと呟いて、大和の後ろをつかず離れず歩いていたはずだ。
 その後寮に辿り着く寸前に、彼の姉にバイクでドライブに誘わ(ほぼ誘拐さ)れたことも今や懐かしい。そう思いながら暑さに耐えかねて、大和は重いビニール袋に手を突っ込んだ。ひやりとした感覚を堪能しながら適当に掴んだそれは、スイカを模したアイスバーである。
「食べるのか」
「うん、もう暑い、無理」
 アスファルトの歩道は長く、落ちる影は濃く、そして前方の景色は熱によって揺らいでいる。ならば許されるだろう、命がかかっていると言っても過言ではない。溶ける前に食べられるのは、この酷暑に買い出しに出た英雄の特権である。パッケージの開かれるバリッという音が小気味よく、棒を掴んでアイスを取り出す様は聖剣を引き抜くに似ている、かも知れない。
 茹だった頭のまま真っ赤な先端に齧りつこうとすれば、暑さなどものともしない声が疑問を重ねてくる。
「なんだ、それは」
「……食べたことない?」
 汗の滲む目尻に視線を寄せれば、何の術を使っているのやら、汗ひとつない白皙がこくりと頷く。まじか、という気持ちと、だろうな、という納得が脳裏を駆け抜けた。その程度には大和少年は真宮鷹臣という存在を理解していた。
 ので、赤と緑の三角形を隣に向かって傾けた。あまりの熱気にスイカは早くも輪郭を揺らがせていて、棒に赤と緑の水気が指にまで伝い始めている。食べる? 誘う声を出したつもりだったが、ひゅっと喉が鳴っただけだった。それもまた蝉時雨に掻き消されていく。
 涼しげな顔と声に反して、大和の手首を掴む手は熱かった。アイスに触れないように――大和が本命で差し出したのはこちらだったというのに――器用に、指に絡まる甘い水を舐め掬う舌は、もっともっと熱かった。
 悲鳴も蝉たちの大音声に掻き消える。真夏の昼下がり、寮までの道に人影はなく、鷹臣の蛮行は重なった二人の影だけが知っている。
(鷹臣×大和/翼角高校奇譚)

本編おみやまED後軸高校2年生のふたり。いけっ真宮鷹臣!鷹臣のなめる!がんばれ本郷大和!大和のはたく!
全創作でやりたいので翼角にも出てきてもらおうと思いました。

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