No.2306

Day5「三日月」 #文披31題 #小咄 #トウジンカグラ

 星が瞬いて、靄がかかっている。月は爪を立てたような細さで、夜を照らすほどもない。
 すっかり夜闇に慣れた目に、紅蓮の輝きが眩しい。細々とした頼りない夜明かりを集めて、赫灼を封じた刀刃が聳え立っている。
 その光に縋るように、ゆるりと影が蠢く。緩慢に身を起こし、するとぱたり、ぱたり、地面に重たく水の落ちる音が響く。ただ追いかけて眺めれば、剥き出しの足を滑り落ちた粘いものがいくつかの染みを河原の石に作っていた。
 内腿に指を伸ばす。粘いものを掬って、口の中に運ぶ。舌を刺すような感覚がある。
 まっさらになった指で、刀刃の柄を掴んだ。すっかり流れ落ちた赤をひと振りで散らして、刃先を天へと向ける。細い細い月の光に、鋭い切っ先が重なった。濡れた唇がことばもなく、貫かれた月の形に撓った。
(火群/トウジンカグラ)

7月の火群は以下略で、氷雨の誕生日に望まれる天の川の下で行きずりの人間と行為に及んでるのが皮肉というはなし
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