No.2303

Day2「風鈴」 #文披31題  #小咄 #トウジンカグラ

 りぃん、りぃー……んと。
 澄んだ音色が、天上に細波を打つ。風を孕んで、りぃん、横髪を浚って、りりぃん。御簾をやわくそよがせて、りりぃー……ん。消えてゆく。ここは高く、蝉の声すら届かない。噎せ返るような地の熱も遠く、湿りを帯びた空が白を混ぜた水の色で、ただただ澄んだ音に寄せて返している。
 少女は白く細い指で、靡く髪を押さえる。視線を膝へと落とす。
 そこにはこの時候とは真逆の、冬の枯れ野が広がっている。
 睫毛を伏せて、少女の膝で昏々と眠る子ども。否、否。子どもなどではない、と誰もが嗤うだろう。少女よりも長い手足に背丈で、細身なくせに一部に肉のつき始めた体躯は立派な青年と呼べた。そしてこの瞼を下ろし、旨を静かに上下させて呼吸をするだけの肉体は、眠りなど生温いところに墜ちている。
 りぃん、澄んだ音が呼ぶ。眠る子どもには届かない。蝉の声も暑気も遠い天上とは真逆の底に、細波を抱く水色とは真逆の泥濘たる赤い場所に、この子どもは還っている。りぃん、りぃんと。やさしげな硝子の奏でる音だけが、ひとりきりの少女を慰めている。
(瑠璃と火群/トウジンカグラ)

7月の火群は本編開始2ヶ月ほど前の、七宝の民に認識され始めだいたい今の火群になりつつある状態
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