No.185

一年に数多存在するとされるいいおっぱいの日※R-18
#トウジンカグラ #小咄

 陰影が艶かしく蠢く。白い肌は燈火の橙に、のみならず闇にも薄く血潮を透かして色づいている。囲炉裏に火を入れる時期であるのに瑞々しい皮膚は薄らと汗を滲ませていて、このままでは風邪を引いてしまうだろう。
 氷雨はそっと汗を拭う。舌に塩の味が乗る。視界が肌でいっぱいになる。触れる身体が震えて、熱い吐息が旋毛を擽る。膝に張りのある内腿がぶつかって、じんわりと熱が宿っていく。
「は、ぁ」
「ん」
 身悶えて捩ろうとする身体を腕に捉える。べろりと平らにした舌でなだらかな丘をなぞり、汗を拭っていく。時折吸って、やんわりと歯を立てる。ひゃ、とか細い声が上がって殊更に身体が跳ねた。その拍子にぶっくりと、やわく硬いものが氷雨の唇をつんと押す。
 ここも触れて欲しいのかと、そんな気持ちになりながらやわく唇で挟む。んっと呑み込むような音が降ってくる。気にせず唇で食み続けるそれは、柔いのに芯がある。どうにも己の唇に収まりがよく、つい舌を伸ばしてしまった。舌先で弾けばこりこりと感触が返ってくるようで心地良い。弾いて、食んで、するとふるふると身体が震える。寒いのだろうかと掌を伸ばせば、すりりと肌が擦りつけられる。背中、腰、脇腹と撫でて、唇を寄せるのとは反対の胸にも触れる。しっとりとした肌の中、そこにもぷくりと主張するものがある。指の腹で擦っても心地良く、片や舐め摩り、片や擦っては摘む格好になる。
「ひっ……さ、ん゙っ」
「ん……ろうした」
 尖りに残した舌のせいで呂律が歪んだが、見上げた先の穂群はそれどころではない様子だった。手の甲を口元に当て、目を細めて氷雨を見下ろしている。視線が絡めばもぞりと、触れ合う下肢がいじらしく揺れる。
 名残惜しく、舌先に残る尖りを舐めてやわく吸って離す。びくんと跳ねる身体を宥めるように背筋を伸ばし、口元を覆う掌に口づける。きゅうと尖りを捻り上げた手でじわりと汗の滲む穂群の前髪を掻き上げて、露わになった額にも唇で触れる。ふっと鼻から抜ける音と共に力が抜けて、くたりとやわらかくなった伴侶の肢体を改めて見下ろした。
「な……ひさ、め」
 暗がりで燈火を孕む穂波の瞳が揺れている。懐かしく、誘うように優しく。舌足らずな声は幼い記憶を呼び起こす。けれど氷雨が組み敷いて、愛撫を施した身体は熟した大人のものだ。
 氷雨が唇で、指で触れた胸はゆったりと上下して命の脈動を孕んでいる。薄く肉を乗せた胸はやわく弧を描いていて、その頂でぶっくりと尖り膨らむ乳首は熟した果実のようだ。氷雨が、氷雨だけが食んで吸って味わうそこは、これまで身体を重ねた数だけ育っている。なだらかな膨らみと氷雨のそれよりも大きな尖りは女の乳房を彷彿とさせる。
 思わずごくりと唾を飲んだ。その音が聞こえたのか、穂群はまたもぞりと身体を揺らす。目に毒だと胸元から下へと視線を辿れば、薄い腹が呼吸に合わせて上下していた。影が艶かしく揺れて、それからぬっと隠される。両の膝が持ち上げられて、そろりそろりと氷雨に向かって開かれていく。
「こっち、も、触れよ……」
「……っ」
 開かれた先で、穂群のものがゆるく勃ち上がって濡れている。穂群の指が己の太腿に触れ、する、すると下がる。内腿に食い込んだ指は更に先、氷雨に向かって差し出された双丘をそれぞれの手でやわく掴み、ゆっくりと開いていく。
 じんわりと濡れたそこは乳首よりももっと赤く、まるで石榴のように熟れて割れ目を晒している。氷雨の視線を受け取ったように、はく、はくと息づいて、中に欲しいと訴えていた。
 濡れた瞳、薄い腹、自ら持ち上げ氷雨に向かって開かれ誘う秘裂。まるで期待するように上下する胸はふっくらとして、ぷくんと赤く乳首が膨らんでいる。氷雨が育てた身体は氷雨のために、氷雨だけを求めているのだと思うと腹の底が熱くなる。
 衝動のまま、けれど暴いて壊してしまわないよう殊更にゆっくりと。求められるがままに氷雨は穂群の中に己を埋めていった。
 その視線は穂波に吸い寄せられながら、目端にふっくらとした胸と、熟した乳首を捉えている。

  ◇ ◇ ◇

「……ということなんだが、聞いているのか野分」
「聞いてない」
 こここここここ、こけと。
 鶏たちが気ままに彷徨く様を眺める縁側、両手で両耳を塞ぎながら野分は首を大きく左右に振った。隣に腰かける氷雨はふっと長く息を吐き――そしてがしりと野分の手を掴んで耳から引き剥がした。
「聞いてないのに返事する訳がないだろ!」
「あーあーあーあーやめろやめろやめろ! 何度も言ってるが俺はお前らの閨事なんて聞きたくないんだよ!」
「いいから聞けって! お前しか話せる相手がいないんだから!」
「聞いてどうしろってんだよ俺に!」
 観念の末、野分は氷雨の両手を振り払う。お互いにぜえぜえと肩で息をしながら見つめ合い、呼吸を整える間は胡乱な目で青年二人を眺める鶏たちが埋めていった。
 ふうと、氷雨は再度息を吐く。長く余韻を引っ張って、うろ、うろと視線が彷徨う。庭の土を、鶏を囲う竹垣を、目つきの悪い雌鳥を見つめて、最後に目端で野分を見つめた。妙に頬を染めて、顔に似合わぬ気恥ずかしさを湛えながら。
「だから、その、胸に吸いつきたいと思うのは普通だろうかと」
「気持ち悪っ」
 皆まで聞く前に野分の口が言葉を吐く。氷雨の指が野分の耳を掴んで捻り上げる。
「あっだだだだやめろ馬鹿!」
「ちゃんと聞かないからだろ!」
「今の話のどこにちゃんと聞くところがあるんだよ馬鹿!」
 腕をバンバン叩かれ、氷雨は渋々野分の耳を解放する。
 再び耳を庇いながら野分はじりじりと氷雨から距離を取る。その視線は恨みがましく氷雨を見つめていた。
「乳兄弟が悩んでるんだから真剣に聞け!」
「真剣に聞くような内容じゃないって言っ……あーあーわかったわかった聞くよ聞く!」
 じとりと見つめる氷雨に雑に手を振り、野分は捨て鉢に叫んだ。こめかみを押さえながら頭を捻り、右へ左へと身体を揺らす。
「気持ち悪いがまあ、好いた相手に触りたいってのは普通だろ」
「そ、そうか」
「そうだよ。相手は……あれだが、女の乳に触りたい吸いたいってのは男としては普通だろ」
 氷雨の眉間に薄く皺が寄る。それは野分を責めるものではなく、あちこちに散らばった何かを思い返して掻き集めるものだった。
「……男の乳でもか」
「知るか。好いた相手ならそうなんじゃねぇの。男はいつまでも乳求める生き物らしいし」
 野分の表情に渋みが混じる。気づいた様子もなく、氷雨は思案するように野分の顔を見る。どういうことだと先を促すものだと知る野分は思い浮かぶ何かから視線を逸らすように表情を歪めた。
「男は最後まで母ちゃん離れできないんだってよ。お前の母ちゃんは……あれだけど、うちの母ちゃんの乳吸って育った訳だし」
「ぐっ」
 野分の渋みにようやく気づいたらしい。呻く氷雨の脳裏には野分の母、そよの姿が浮かんでいるはずである。
 乳の出ない氷雨の母の代わりに母乳を与え育て、のみならず複雑に歪んだ家の中で真っ当に彼を育て上げた野分の実母。氷雨に名家の当主らしからぬ家事まで教え込み、一人でも生きていくための術を身につけさせたのはそよである。彼女の教えがいなければ氷雨は先だっての七宝への一人旅などできなかっただろう。
 壮健ではあるがすっかり年老いた乳母と閨事が結びついてしまうのはあまりに居心地の悪いものである。氷雨にとっても野分にとっても。
「あー……だから、お前はほら、母ちゃんといられる時間が少なかったから……余計にそうなんじゃねぇの、たぶん」
「……幼少期に足りなかったものを、いい歳になっても求めると」
「知らねぇけど、たぶん」
 渋い氷雨の表情が苦いものに変わる。膝に肘を突いて指を組み、口元を埋めた。
「じゃあ、あいつは」
 野分は横目で先を促す。あいつ、が誰を差すかなど言うまでもない。
「あいつは……母親も父親もいなくて、俺が見つけたときだけが子どもの頃で、そこからはもう今のあいつだったらしい」
「何だそりゃ」
 首を傾けるが、乳兄弟が冗談や嘘を言える人間ではないことぐらい野分はよくよく承知している。ならばつまり、野分には理解できないだけで真実なのだろう。
 遠くを見つめ、考え込む氷雨を横目に野分も思案する。特殊な環境で生まれ育ち、氷雨を受け入れることを良しとしているとしても、穂群も自分たちと同じく男のはずである。
「じゃあ、尚更なんじゃねえの?」
「……尚更?」
「ああ。だからあいつも、」

  ◇ ◇ ◇

「――欲しいんじゃないかと思ったんだ」
「ハァ?」
 珍しく自ら上衣まではだける氷雨を前に、穂群は率直に声を上げた。
 己よりも厚い胸板である。上半身を晒す男は顔を背け気味に、ちらちらと穂群に視線を送っていた。その頬は燈火にもはっきりと朱を差している。率直に言って妙である。
 沈黙は刹那だったのか、長かったのか。不自然な咳払いと共に場を繋いだのは、頭のおかしなことを口走り始めた氷雨である。
「だから、お前に乳を吸わせて貰っている分、俺もお前を満たしてやりたいと」
「ハァ」
 穂群は「ハァ」しか口にしていないが、氷雨は気づいているのだろうか。謎の自説を語る男はずいと穂群に迫り、正確には胸を寄せてきた。
 別に氷雨の乳を吸いたいなどと穂群は一切思っていない。氷雨が己の乳を吸うのは……初めは何が楽しいのかと嗤い、赤子のする行為だと知ってからは揶揄いもした記憶があるが、今となってはそういうものだと思っている。奥を満たされる悦びや陽物を擦られるのとは違う、胸を弄られるとこそばゆいような狂おしいような気持ちになる。
 触れられたいとは思えど、氷雨のそこに触れたいとは別段思わないのだが。珍妙に照れている男は吸えと言う。何言ってんだと一蹴し氷雨を放って先に寝入ってもいいが、吸わないことにはどうにもならない気配すらあった。何より、穂群はこんな茶番はすっ飛ばして中を、奥を満たして欲しいと思っている。
「ハァ、じゃあ」
 適当に付き合って煽って中に挿入れてもらおう。己の伴侶は我慢弱い男だ。穂群は諦観と共に氷雨の胸に顔を寄せた。
 近くで見てもやはり、穂群の胸よりも厚みがある。乳首は穂群のものよりも小さくて、低くて、色も何となく茶色っぽい。穂群のものとはかなり違うが、氷雨はどうしてこんなところを触って吸って舐めたがるのだろう。
 しげしげと眺めていると、頭上から不自然な咳払いが落ちてきた。ちらりと上目遣いで見上げれば居心地が悪いような期待するような、氷雨は何とも言えない顔をしている。早く触れということか。違う気もするが触らないことには始まらないのだろう。
 ぺとりと、掌で無遠慮に胸に触れる。張りがあって硬い。試しに揉んでみようとしたが、指が滑るばかりで埋まる気配もない。仕方がないのでそのままくるくると撫で回せば、低い尖りが手の腹に掠める。
「んッ」
 途端、短い声が上がった。
「……ふーん?」
 ちらりと見上げた先で氷雨が眉を顰めている。決して快楽を湛えたものではないが、感じるものはあるらしい。
 そのまますりすりと撫で、指先でつんつんと乳首を押し込む。上目遣いで氷雨を窺いながら反対側の胸に顔を寄せてみる。
 氷雨は目を細め、やわく奥歯を噛んでいる。その表情を見ていると腹の底に微かな火が宿るようで、自然穂群の口の端は持ち上がっていた。それもゆるりと開かれることで掻き消える。
「ぁむ」
「ぐッ」
 小さいので唇の引っかかるところもない。仕方がないので唇を擦りつけてみる。
 氷雨の身体が小刻みに震え始める。ちらりちらりと見上げれば、噛み締めた唇が綻んでは、ふ、ふと短く息を零していた。穂群の鼻先が触れる胸が浅く上下する。追いかけて唇で触れて、けれど呼吸の度に逃げて、すると穂群の舌がつんと触れた。
「ぅあ!」
 それだけで、氷雨の唇から大きな声が漏れた。
「……ふっ、ふふ……ふぅん?」
 成程、これは。
 ふっと、尖りとも呼べないそこに息を吹きかける。また大仰に身体を揺らす氷雨を見下ろして、穂群はにんまりと口の端を吊り上げた。氷雨の足の間に膝を入れ、ぎゅっと身体ごと寄せてみる。氷雨の頬をぺっとりと両手で挟む。
「あっは……折角だから腹いっぱいになるまで吸わせてもらおうか? なァ?」
「ぐっ……望む、ところだ……」
 まるで手合わせ前のような返答である。神妙に頷く氷雨を笑いながら、穂群はひとまず先ほどまで食い縛られていた口元に己の唇を落とした。
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