最古の長男も後年の9月に設定を改めたのでじゃあ9月が誕生日ってことにするか~ってしたたぶん14日とかだった。問題は長男の作品には正式名称と略称がないのでタグをつけられないことです考えついたらつけよ
No.77, No.76, No.75, No.74, No.73, No.71, No.70[7件]
リボ=風紋記/ReVOLVERSはページを丸ごと閉じて幾久しく本当に記憶にないお誕生日SSが出てきても置いておくところがないのでとりあえずここに置いておくかという気持ち #リボ #小咄
なお誕生日は3月31日
酒の席で、そういやお前いくつになったんだっけか、などと話題にされたのはいつのことだったか。
この手の話題は面倒だし、相手も相当呑んで赤ら顔だった。ので、さあ、いくつでしたっけねえ、などと返して躱そうとした。お前若いのにそんなボケたこと言ってて大丈夫か? などと善意の追撃を食らったが、忘れたものは忘れましたから、で無理を通して酒を舐めた。
とはいえ相手も絡み酒である。この程度で解放されるとも思っていなかったのでそこは予想の範囲内だ。
「最初に会ったときいくつだっつってたっけなあ。お前、誕生日は?」
「……さあ?」
ただし、答えに窮する。
生まれた日、さて。これは本当に覚えがない。今生での年齢に関しては一応覚えていてとぼけているのだが、年の変わり目で数えているので生まれた日を気にしたことがなかった。
対する相手は赤い眉間に縦皺を刻み、ずいと顔を寄せてきた。
「それも覚えてないのか!」
「覚えてないというか、はあ、まあ」
「おいおい……大事なことだろ?」
こちらとしては生まれた日などより、間近で酒臭い溜め息を吐かれることの方が余程大ごとである。
すすすと身を引いても赤ら顔はにじり寄ってきた。そろそろ後頭部あたりに一発入れていいだろうか、記憶もきれいに飛ぶように、且つ殴打の痕跡を残さないように良い角度で。あるいはこれを顔面にぶっかけるのはどうだろう。いや酔いを申し訳程度に醒ますか更に絡まれるかの二択でしかない気がする。
そんなことを考えながら酒杯を覗き込みつつ、お返しではないが溜め息に乗せて答える。
「別に。ストラル様ぐらい立場のある方ならともかく、一年のうちのいつも通りの一日でしょう」
「……お前、」
「強いて言えば、死ぬために生まれた一生に一度きりの日ですか」
立場ある人間であればその日と祝いを口実に駆け引きだとか根回しだとか、そんなことをしなければならないのだろう。自分はそうではない。単なる一兵卒、今生はこの酔っ払いの食客である。更に言えば自分の場合、一生に一度きりを何度も何度も繰り返しているわけで、全く以てありがたくも何もない。むしろ忌むべき――
瞬間、目の前に影。
顔を上げれば吐息どころか唇すら触れそうな距離に、じっとりした目の主人がいる。
「暗い」
「はあ?」
「暗いぞお前、いや暗いなんてもんじゃない。夜闇だ。沼の底だ。墨汁の化身だ」
そろそろかちんときて酒杯を掴む手に力がこもった。いざ顔面、という思考を読んだのかぱっと顔が離れていく。それどころか席を立って仁王立ち。腰に手を当て、こちらを見下ろす表情はにやりと、あからさまにろくでもないことを考えている顔である。
主は酒杯を手にしたまま胸を叩く。天から零れる酒を避けながら耳にした言葉を、ここから先しばらくはすっかり忘れていた。
「見てろよカイ。俺が、お前に、誕生日のなんたるかを教えてやろう」
――そう言えばそんなこともあったなあ。
遠い目をする。開かれた扉、既に見慣れた室内はいつもより豪奢な花が飾り付けられ、卓上には少しばかり手の込んだ料理が並んでいる。満面の笑みを浮かべながら主、且つ仕掛け人たるストラルは手ずから椅子を引いた。
「さあどうだカイ! いや、まずは座れ!」
一度家に帰るからお前もついてこい、などと言われたときは別段いつも通りだと思った。軍の宿舎にいても特にすることもなく、一応自分はストラル個人の食客であるからして雇い主に従うべきである。特にストラルは人と関わりたい、面倒を見たい性分だということもわかっていたので、まあいつぞやのようなとんでもない子守をさせられるのでなければ、と同行した次第である。
まさかこんな思惑があったとは。例え酒の席であっても、この人が有言実行と誠実と驚かせたがりを忘れるはずがなかったのである。
「どうだ、と言われましても、僕の誕生日は、」
「覚えてないなら今日が誕生日だ! そういうことでいいだろう!」
「いやいやいや……」
堂々と胸を張りながら粗雑極まりない発言をする主に、然りとて抗うことも上手く言い返すこともできない。何より席は用意されており、用意したのは恐らくこの大雑把な主ではないのだから。
諦めて大人しく席に収まれば、酒を手にしたストラルの奥方――ティアナがにこにこと傍に寄ってきた。
「香の龍砂だけれど、よかったかしら」
「……わざわざすみません、ティアナ様」
生まれた日と同じく思い入れのない故郷の酒を取り寄せてくれたことと、こんな席を用意してくれたことに関して頭を下げる。全く気にした様子もなく、むしろ嬉しそうにティアナは杯を握らせてきた。
「謝るのはこちらの方よ。この人の遊びに付き合ってくれて」
「おーい、ティアナ」
「それから何よりも感謝を。こんなにお料理を作ったのもひさしぶりで楽しかったし、あなたにはいつも夫が世話になっているのにお礼をする機会もなかったから」
注がれる酒に返す言葉もなく、どうにも据わりが悪く視線を彷徨わせる。すると向かいの席に座ったストラルがにやりと笑って、また言いようのない感情に視線を逸らした。腹が立つ、ではないが、してやられた、というか。悔しい、というのでもないが、少なくともこの主に対して謝意を述べられるほど素直な性格ではないという自覚ぐらいはある。
ティアナも黙り込んだカイに何を言うでもなく、微笑んだまま自分の席に戻っていく。入れ替わるように服の裾を引かれる。視線を落とせばこの家の最後の一人がじっとこちらを見上げていた。手を後ろに回し、もぞもぞと身体を揺すっている。
手にした酒杯を一度卓に置き、椅子を降りて跪く。折角目の高さが合ったのに、相手はちらちらと視線を逸らし、すぐにこちらへと戻し、かと思えば逸らしを繰り返していた。ああこれはつい先ほどの自分と同じだな、などと気づいてしまえば妙に生温い気持ちになる。
「……どうしました、カイル様」
「あ、あの、あのね、ねーね」
大姐を意味する呼び方を咎めたいところだが、ぽっと頬を染めて言葉を探す幼子を遮る気も起きない。脱力しそうになる思考をどうにか追いやって続きを待つ。
やがて意を決したのか、カイルはぱっと両手を前に突き出した。
「ねーね、これあげる!」
ちいさな手のひらに載せられているのは、ところどころ歪な編み目をした紐だった。何色かの糸を縒り合わせたそれは不格好な編み方も相まって手作りだと知れる。作り手はもちろん、この子どもだろう。
「あなたがね、いつでも身につけられるものを作りたいって」
大皿から料理を各人の更に装いながら、ティアナが苦笑している。その隣ではストラルがこちらを見つめながら目を細めている。
「装身具だと好みもあるし、戦の時に邪魔になるかも知れないでしょう? でも髪結い紐だったらいつも使うものだし、邪魔にもならないし、この子でも作れるから」
「……カイル様がお一人で作られたんですか?」
「うん!」
もじもじと俯いていた子どもがぱっと顔を上げた。得意げな、そのくせまだ不安げな表情でこちらを見つめている。
すっと手を伸ばす――伸ばそうとして、跪いたままくるりと背を向けた。背後からひえっと不明な声が聞こえるが、勘違いをして泣き出す前に後ろに手を伸ばした。今使っている結い紐を解き、ばらりと髪の散るままに目線だけで振り向いて口を開く。
「カイル様、よろしければ結ってくださいませんか」
「……うん!」
恐らくあの紐の不格好さから、きっと結われた髪もとてもきれいとは言い難い仕上がりになるのだろう。
それでも今日ぐらいはいいかと思いながら、ちいさな手に髪を委ねる。
「ねーね、誕生日おめでとう」
祝われる自分よりもずっと嬉しそうに子どもが囁く。時折首筋に触れる柔らかい手がぽかぽかと温かい。
その両親の視線も温かく、どうにも落ち着かない気持ちで、けれどたまには悪くないと目を閉じた。
* * *
随分と草臥れた結い紐ですねえ。
手慰みに、カイの髪に櫛を通していたウノカが呟いた。結い紐と言われて、今や遠いらしい春の日を思い出す。何がどうして死せずここにあるのかはわからないが、ずっと首筋にあったあの紐も健在らしい。
「新しいのに変えませんか? 私、いろいろ持ってますよ」
「……気持ちはありがたいけど、この紐で特に不便なこともないし」
ちらりと視線を動かす。馬車の荷台に腰掛けて矛の手入れを続けるティルがいる。初めはカイを女子扱いするかのように戯れるウノカに苦言を呈しいていたが、今はもう諦めたらしく特に反応を返すこともない。黙々と矛を見つめて手を動かしていた。
嘆息して、そっとウノカの手を払う。堅く結わえた紐は随分と長いこと自分の傍にあって、不格好だった最初の姿などもう残っていない。
あのとき、強引に祝いの席を構えた主がいなくなっても、奥方がどうしているのかわからなくても、あのちいさな手で紐を差し出してきた子どもが変わってしまっても。片割れが消えてしまっても自分が名前を偽っても。最初の姿をなくしたこの紐だけは、ずっと共に在る。
「それに、気に入ってるんだ。大事な贈り物だから」
ウノカのちいさな謝罪の声に手を振って返し、空を見上げる。いつか砕けて破片を散らした空は白けた青を晒していて、どこからか散った淡い花弁が一枚、横切るだけだった。
* * *
「ということが、僕の人生においてもあったわけだけど」
「そうか」
「……君、僕の本当の誕生日知ってるんだよね?」
「ああ。ついでに言うと、今まできちんと祝っていたぞ。目に見える形で」
「え?」
「お前の部屋に花を一輪置くなどしていた」
「…………そんなこともあったようななかったような気がするけどさあ。それって単純に気持ち悪」
「気持ちはわかる! 非常にわかるが今は黙っておいてやれカイ! 無言で泣くなセイ!」
「な、泣いてない、泣いてないぞシエル」
「……ごめん、僕が悪かったよ」
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なお誕生日は3月31日
酒の席で、そういやお前いくつになったんだっけか、などと話題にされたのはいつのことだったか。
この手の話題は面倒だし、相手も相当呑んで赤ら顔だった。ので、さあ、いくつでしたっけねえ、などと返して躱そうとした。お前若いのにそんなボケたこと言ってて大丈夫か? などと善意の追撃を食らったが、忘れたものは忘れましたから、で無理を通して酒を舐めた。
とはいえ相手も絡み酒である。この程度で解放されるとも思っていなかったのでそこは予想の範囲内だ。
「最初に会ったときいくつだっつってたっけなあ。お前、誕生日は?」
「……さあ?」
ただし、答えに窮する。
生まれた日、さて。これは本当に覚えがない。今生での年齢に関しては一応覚えていてとぼけているのだが、年の変わり目で数えているので生まれた日を気にしたことがなかった。
対する相手は赤い眉間に縦皺を刻み、ずいと顔を寄せてきた。
「それも覚えてないのか!」
「覚えてないというか、はあ、まあ」
「おいおい……大事なことだろ?」
こちらとしては生まれた日などより、間近で酒臭い溜め息を吐かれることの方が余程大ごとである。
すすすと身を引いても赤ら顔はにじり寄ってきた。そろそろ後頭部あたりに一発入れていいだろうか、記憶もきれいに飛ぶように、且つ殴打の痕跡を残さないように良い角度で。あるいはこれを顔面にぶっかけるのはどうだろう。いや酔いを申し訳程度に醒ますか更に絡まれるかの二択でしかない気がする。
そんなことを考えながら酒杯を覗き込みつつ、お返しではないが溜め息に乗せて答える。
「別に。ストラル様ぐらい立場のある方ならともかく、一年のうちのいつも通りの一日でしょう」
「……お前、」
「強いて言えば、死ぬために生まれた一生に一度きりの日ですか」
立場ある人間であればその日と祝いを口実に駆け引きだとか根回しだとか、そんなことをしなければならないのだろう。自分はそうではない。単なる一兵卒、今生はこの酔っ払いの食客である。更に言えば自分の場合、一生に一度きりを何度も何度も繰り返しているわけで、全く以てありがたくも何もない。むしろ忌むべき――
瞬間、目の前に影。
顔を上げれば吐息どころか唇すら触れそうな距離に、じっとりした目の主人がいる。
「暗い」
「はあ?」
「暗いぞお前、いや暗いなんてもんじゃない。夜闇だ。沼の底だ。墨汁の化身だ」
そろそろかちんときて酒杯を掴む手に力がこもった。いざ顔面、という思考を読んだのかぱっと顔が離れていく。それどころか席を立って仁王立ち。腰に手を当て、こちらを見下ろす表情はにやりと、あからさまにろくでもないことを考えている顔である。
主は酒杯を手にしたまま胸を叩く。天から零れる酒を避けながら耳にした言葉を、ここから先しばらくはすっかり忘れていた。
「見てろよカイ。俺が、お前に、誕生日のなんたるかを教えてやろう」
――そう言えばそんなこともあったなあ。
遠い目をする。開かれた扉、既に見慣れた室内はいつもより豪奢な花が飾り付けられ、卓上には少しばかり手の込んだ料理が並んでいる。満面の笑みを浮かべながら主、且つ仕掛け人たるストラルは手ずから椅子を引いた。
「さあどうだカイ! いや、まずは座れ!」
一度家に帰るからお前もついてこい、などと言われたときは別段いつも通りだと思った。軍の宿舎にいても特にすることもなく、一応自分はストラル個人の食客であるからして雇い主に従うべきである。特にストラルは人と関わりたい、面倒を見たい性分だということもわかっていたので、まあいつぞやのようなとんでもない子守をさせられるのでなければ、と同行した次第である。
まさかこんな思惑があったとは。例え酒の席であっても、この人が有言実行と誠実と驚かせたがりを忘れるはずがなかったのである。
「どうだ、と言われましても、僕の誕生日は、」
「覚えてないなら今日が誕生日だ! そういうことでいいだろう!」
「いやいやいや……」
堂々と胸を張りながら粗雑極まりない発言をする主に、然りとて抗うことも上手く言い返すこともできない。何より席は用意されており、用意したのは恐らくこの大雑把な主ではないのだから。
諦めて大人しく席に収まれば、酒を手にしたストラルの奥方――ティアナがにこにこと傍に寄ってきた。
「香の龍砂だけれど、よかったかしら」
「……わざわざすみません、ティアナ様」
生まれた日と同じく思い入れのない故郷の酒を取り寄せてくれたことと、こんな席を用意してくれたことに関して頭を下げる。全く気にした様子もなく、むしろ嬉しそうにティアナは杯を握らせてきた。
「謝るのはこちらの方よ。この人の遊びに付き合ってくれて」
「おーい、ティアナ」
「それから何よりも感謝を。こんなにお料理を作ったのもひさしぶりで楽しかったし、あなたにはいつも夫が世話になっているのにお礼をする機会もなかったから」
注がれる酒に返す言葉もなく、どうにも据わりが悪く視線を彷徨わせる。すると向かいの席に座ったストラルがにやりと笑って、また言いようのない感情に視線を逸らした。腹が立つ、ではないが、してやられた、というか。悔しい、というのでもないが、少なくともこの主に対して謝意を述べられるほど素直な性格ではないという自覚ぐらいはある。
ティアナも黙り込んだカイに何を言うでもなく、微笑んだまま自分の席に戻っていく。入れ替わるように服の裾を引かれる。視線を落とせばこの家の最後の一人がじっとこちらを見上げていた。手を後ろに回し、もぞもぞと身体を揺すっている。
手にした酒杯を一度卓に置き、椅子を降りて跪く。折角目の高さが合ったのに、相手はちらちらと視線を逸らし、すぐにこちらへと戻し、かと思えば逸らしを繰り返していた。ああこれはつい先ほどの自分と同じだな、などと気づいてしまえば妙に生温い気持ちになる。
「……どうしました、カイル様」
「あ、あの、あのね、ねーね」
大姐を意味する呼び方を咎めたいところだが、ぽっと頬を染めて言葉を探す幼子を遮る気も起きない。脱力しそうになる思考をどうにか追いやって続きを待つ。
やがて意を決したのか、カイルはぱっと両手を前に突き出した。
「ねーね、これあげる!」
ちいさな手のひらに載せられているのは、ところどころ歪な編み目をした紐だった。何色かの糸を縒り合わせたそれは不格好な編み方も相まって手作りだと知れる。作り手はもちろん、この子どもだろう。
「あなたがね、いつでも身につけられるものを作りたいって」
大皿から料理を各人の更に装いながら、ティアナが苦笑している。その隣ではストラルがこちらを見つめながら目を細めている。
「装身具だと好みもあるし、戦の時に邪魔になるかも知れないでしょう? でも髪結い紐だったらいつも使うものだし、邪魔にもならないし、この子でも作れるから」
「……カイル様がお一人で作られたんですか?」
「うん!」
もじもじと俯いていた子どもがぱっと顔を上げた。得意げな、そのくせまだ不安げな表情でこちらを見つめている。
すっと手を伸ばす――伸ばそうとして、跪いたままくるりと背を向けた。背後からひえっと不明な声が聞こえるが、勘違いをして泣き出す前に後ろに手を伸ばした。今使っている結い紐を解き、ばらりと髪の散るままに目線だけで振り向いて口を開く。
「カイル様、よろしければ結ってくださいませんか」
「……うん!」
恐らくあの紐の不格好さから、きっと結われた髪もとてもきれいとは言い難い仕上がりになるのだろう。
それでも今日ぐらいはいいかと思いながら、ちいさな手に髪を委ねる。
「ねーね、誕生日おめでとう」
祝われる自分よりもずっと嬉しそうに子どもが囁く。時折首筋に触れる柔らかい手がぽかぽかと温かい。
その両親の視線も温かく、どうにも落ち着かない気持ちで、けれどたまには悪くないと目を閉じた。
* * *
随分と草臥れた結い紐ですねえ。
手慰みに、カイの髪に櫛を通していたウノカが呟いた。結い紐と言われて、今や遠いらしい春の日を思い出す。何がどうして死せずここにあるのかはわからないが、ずっと首筋にあったあの紐も健在らしい。
「新しいのに変えませんか? 私、いろいろ持ってますよ」
「……気持ちはありがたいけど、この紐で特に不便なこともないし」
ちらりと視線を動かす。馬車の荷台に腰掛けて矛の手入れを続けるティルがいる。初めはカイを女子扱いするかのように戯れるウノカに苦言を呈しいていたが、今はもう諦めたらしく特に反応を返すこともない。黙々と矛を見つめて手を動かしていた。
嘆息して、そっとウノカの手を払う。堅く結わえた紐は随分と長いこと自分の傍にあって、不格好だった最初の姿などもう残っていない。
あのとき、強引に祝いの席を構えた主がいなくなっても、奥方がどうしているのかわからなくても、あのちいさな手で紐を差し出してきた子どもが変わってしまっても。片割れが消えてしまっても自分が名前を偽っても。最初の姿をなくしたこの紐だけは、ずっと共に在る。
「それに、気に入ってるんだ。大事な贈り物だから」
ウノカのちいさな謝罪の声に手を振って返し、空を見上げる。いつか砕けて破片を散らした空は白けた青を晒していて、どこからか散った淡い花弁が一枚、横切るだけだった。
* * *
「ということが、僕の人生においてもあったわけだけど」
「そうか」
「……君、僕の本当の誕生日知ってるんだよね?」
「ああ。ついでに言うと、今まできちんと祝っていたぞ。目に見える形で」
「え?」
「お前の部屋に花を一輪置くなどしていた」
「…………そんなこともあったようななかったような気がするけどさあ。それって単純に気持ち悪」
「気持ちはわかる! 非常にわかるが今は黙っておいてやれカイ! 無言で泣くなセイ!」
「な、泣いてない、泣いてないぞシエル」
「……ごめん、僕が悪かったよ」
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0801の日と0802の日のヒサホム二次創作
※ほんのりすけべ
#トウジンカグラ #小咄
ただいまァ、と蕩けた声が聞こえて、氷雨は蒼天を振る手を止めた。
滲んで滴る汗を拭えば、盥を傍らに抱えた穂群が庭に回り込む姿が見えた。裾をちょろりと結った髪がふわふわ揺れ、氷雨ほどではないが生え際に薄らと汗を滲ませている。盥の中では濡れた布がちいさな山を作っていた。
「おかえり。一人で大丈夫だったか?」
「別に。洗濯だけだろ」
視線すら返すことなく、穂群は答えて盥を足下に置いた。濡れた着物を取り上げパンと叩いて伸ばしている。
こういった物言いが穂群にとって照れ隠しのようなものだと、氷雨は薄々理解している。鞘に納めたままだった蒼天を濡れ縁に横たえ、代わりに庭の隅に寄せていた竿竹を手にしながらせっせと着物の皺を伸ばす伴侶の背中を眺める。当初の当初にはヒノモトを統べる今上帝に知らず甘やかされ、汚れ破れた着物の代わりは何を言わずとも用意されているものと思い込んでいたせいで洗濯という行為を理解していなかった穂群が、フジに移って以降も所在なく暮らしのおおよそを氷雨か、女中のそよに世話されるばかりだったこれが、自ら家の事を一つ一つ覚えて不器用ながらもこなす様が実にいじらしい。別に、洗濯だけ、この台詞を吐くまでにどれほどの――主に氷雨に隠れて家事の教えを請われていたそよの――苦労があったことだろう。大丈夫だったか、という氷雨の危惧には洗濯という行為そのもののみならず、里の洗濯場になっている川縁で他の里人と何某かがあったのではないかという危惧も含まれているのだが、気づいているのかいないのか穂群が答えない以上は今は触れずにおく。
「ありがとうな」
「ん」
竹を持って支えてやれば、ちいさく頭を傾けて穂群が着物の袖を通す。綺麗に皺の伸びた襦袢は氷雨のものだ。続けて穂群が叩いて通したものは穂群自身の着流しで、こちらは皺の伸びが甘い。穂群が手を入れた二着の違いを静かに噛み締めながら、氷雨はいっぱいになった竿を庭の隅に立てられた支柱に渡した。着流しの方は穂群が干し終わって庭から去った後、叩いて皺を伸ばしておいてやろうと密かに考えながら次の竿を取りに戻る。
二人の道着や袴を続けて干し、最後には長く伸びる褌を竿に引っかけてやっと盥が空になる。物置場にしている日陰に盥を干し、穂群ははたはたと襟元をはためかせた。しっとりと汗の滲んだ肌が陽光に晒され、時折開き過ぎた襟から赤い頂がちらりと覗く。思わず凝視しそうになるそこから目を逸らし、氷雨は意味もなく咳払いを零した。ついでにごくりと喉が鳴り、額の汗がつるりと滑っていく。
「疲れただろう、中に戻って涼むといい」
「オマエは?」
「俺……は、もう少し、素振りをしてから戻る、から」
「ふぅん」
穂群の肩を押せばすんなりと進む。かと思えば濡れ縁に腰かけて、そのまま庭を向いて足をぶらつかせ始めた。戻らないのかと視線で問えば、穂群は少しだけ顎を上げる。微かに弓なりに反る喉に薄く汗が滑るのが見えた。
「じゃあ見てる」
「……そうか」
薄らと撓る唇に居心地の悪さを覚えるが、見るな奥にいろと言うのも不自然だろう。穂群が何を思っているのかは知らないが、道場でやっと真っ当な剣を学び始めたからには氷雨の体捌きに興味があるのかも知れない。穂群の隣の蒼天を掴めば、どこからか含んだ笑い声が聞こえてきたが無視を決める。
穂群が洗い、二人で干した洗濯物がゆっくりと風に揺れている。濡れ縁に腰かけて履物を落とした穂群が、素足を遊ばせながら氷雨を眺めている。
先よりも賑やかしい庭で蒼天を上段に構える。一歩踏み出しながら振り下ろす。足を引いて刃先を持ち上げる。少しも揺るがぬように、ざわめく心を律して只管に振る。穂群が戻る前よりも意識を研ぎ澄ませる必要がある。じいっと、氷雨だけを見つめる穂波の瞳の強さときたら。
ちらりと目端に捉えれば、穂群はまたはたりはたりと、ゆるやかに襟を開いていた。氷雨よりも白い肌が晒されて、ふっくりとなだらかな胸が覗いている。時折覗く頂は赤く、氷雨の視線はつい、周囲に残された自身の歯形を捉えてしまう。動揺にぶれればにんまりと、口の端を持ち上げる様が見えた。
「……~~~~穂群ッ」
「あっは。ンだよ、続けねェの?」
遂には曝け出すように片襟を開き、穂群は笑いを多分に含んだ声を返した。これはもう、どう考えても煽っている。だからといって蒼天を下ろし、ずかずかと穂群に歩み寄る自身が一番駄目なのも理解はしているのだがこればかりは仕方がないだろう。
隣に蒼天を転がしながら濡れ縁に片膝から乗り上げる。ちょうど穂群の膝を割るような格好で、そのまま腕がにゅうっと伸びてきた。諸肌脱ぎにしていたせいで素肌同士が触れてかっと熱くなる。穂群の首筋を汗が流れて鎖骨に溜まる様が嫌に眩しく、氷雨は衝動のままにそこに甘く齧り付いた。んッと上がる声は艶めいて、そのくせやはり笑いを含んでいる。やられたと思いながら止まる術などなく、ならばせめてやり返したい。囓った鎖骨を舌でなぞり、氷雨はそのままなだらかな胸へと舌先を這わせた。ふにゅりと沈む感覚に手が伸びるのは最早仕方のないことで、まるで女の乳房のような、けれど丸みを欠いてなだらかなそこを手の腹で撫で摩り、寄せるようにやわく揉んだ。
「んっ……ぁ、は……なァ、ほら……」
「ッ……は……」
ちいさく喉を詰まらせて喘ぎながら、それでも穂群は氷雨の頭を掻き抱く。結い上げた髪に指を絡ませながら撫でられて、氷雨は誘われるまま穂群の肌を吸った。張りのあるなだらかなところ、ふっくりと色づいて膨らむ乳輪、そしてつんと尖りを増す乳首を舌先で弾き、口に含む。
誘っておきながらぴくりと身体全体が跳ねる様が愛おしく、氷雨は片手で穂群の胸をやわやわと揉みながら乳首を吸った。氷雨のものよりもぷっくりとして大きなそれは瑞々しい果実のようで、いつまでも口に含んでいたくなる。母乳が出る訳でもないのに、まるで氷雨をもてなすかのように舌に触れる肌はどこまでも甘い。
二人で暮らすこの天ノ端の別邸は、かつて氷雨の母、しずりが里から隠されるように住んでいた場所だ。実の子である氷雨すらここに来ることは禁じられ遠い記憶は朧になっているが、それでも父の目を盗んで訪れたこの庭の、この縁側に、ちいさな母はいつも楽しそうに座っていた。氷雨を見つけては傍に呼びやさしく頭を撫でてくれた。無論記憶にはなく、幼い精神と肉体の母は乳も出なかったためそよが乳母として赤子の氷雨を育ててくれたと聞いてはいるが、それでもかつて母の暮らしたこの庭で赤子のように穂群の胸をしゃぶる行為には幾許か思うところがないでもない。
胸中を過ぎる背徳感と、少しばかりの興奮。それらを誤魔化すように溢れる唾液を絡めて口内で揉みしだいて吸えば、ひうっと甘ったれた声が頭上から落ちてきた。
「あは……オマエ、ここ……すき、だなァ……? ぁンッ」
「ッハ……お前も、だろッ……!」
自身を棚に上げる穂群を諫めるように甘く尖りに歯を立てれば、跳ねた拍子に穂群の股が氷雨の膝に触れた。身体を重ねるうちに人並みに快楽を得るようになってきたそこは硬さを帯びている。
そもそも誘ったのは穂群からで、ならば欲しいのは氷雨ではなく穂群のはずだろう。なのに氷雨を幼気に扱って笑う穂群に俄に苛立ちを覚え、氷雨は穂群の着物の裾に手を入れた。しっとりと汗の滲んだそこに指を伸ばせば、ぬるんと熱い感触が触れる。
ぴくりと、思わず氷雨のこめかみが蠢いた。
穂群は熱い吐息と共に口の端を緩め、するりと膝を立てる。するすると、勿体ぶるように股を開いて着物の裾を割って――そこには何も身につけていない。しっとりと汗を滲ませ、ちいさく頭をもたげる雄の先、そして晒された奥の蕾が綻んで、とろりと蜜を零している。
「な、ひさめ」
氷雨が舐りしゃぶり、つんと尖らせた乳首をも見せつけるように晒して、穂群はうっとりと微笑んだ。
「しよォぜ」
伴侶の痴態を前にした氷雨の背後で、洗いたての二人の着物がそよそよと風に揺れいた。
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※ほんのりすけべ
#トウジンカグラ #小咄
ただいまァ、と蕩けた声が聞こえて、氷雨は蒼天を振る手を止めた。
滲んで滴る汗を拭えば、盥を傍らに抱えた穂群が庭に回り込む姿が見えた。裾をちょろりと結った髪がふわふわ揺れ、氷雨ほどではないが生え際に薄らと汗を滲ませている。盥の中では濡れた布がちいさな山を作っていた。
「おかえり。一人で大丈夫だったか?」
「別に。洗濯だけだろ」
視線すら返すことなく、穂群は答えて盥を足下に置いた。濡れた着物を取り上げパンと叩いて伸ばしている。
こういった物言いが穂群にとって照れ隠しのようなものだと、氷雨は薄々理解している。鞘に納めたままだった蒼天を濡れ縁に横たえ、代わりに庭の隅に寄せていた竿竹を手にしながらせっせと着物の皺を伸ばす伴侶の背中を眺める。当初の当初にはヒノモトを統べる今上帝に知らず甘やかされ、汚れ破れた着物の代わりは何を言わずとも用意されているものと思い込んでいたせいで洗濯という行為を理解していなかった穂群が、フジに移って以降も所在なく暮らしのおおよそを氷雨か、女中のそよに世話されるばかりだったこれが、自ら家の事を一つ一つ覚えて不器用ながらもこなす様が実にいじらしい。別に、洗濯だけ、この台詞を吐くまでにどれほどの――主に氷雨に隠れて家事の教えを請われていたそよの――苦労があったことだろう。大丈夫だったか、という氷雨の危惧には洗濯という行為そのもののみならず、里の洗濯場になっている川縁で他の里人と何某かがあったのではないかという危惧も含まれているのだが、気づいているのかいないのか穂群が答えない以上は今は触れずにおく。
「ありがとうな」
「ん」
竹を持って支えてやれば、ちいさく頭を傾けて穂群が着物の袖を通す。綺麗に皺の伸びた襦袢は氷雨のものだ。続けて穂群が叩いて通したものは穂群自身の着流しで、こちらは皺の伸びが甘い。穂群が手を入れた二着の違いを静かに噛み締めながら、氷雨はいっぱいになった竿を庭の隅に立てられた支柱に渡した。着流しの方は穂群が干し終わって庭から去った後、叩いて皺を伸ばしておいてやろうと密かに考えながら次の竿を取りに戻る。
二人の道着や袴を続けて干し、最後には長く伸びる褌を竿に引っかけてやっと盥が空になる。物置場にしている日陰に盥を干し、穂群ははたはたと襟元をはためかせた。しっとりと汗の滲んだ肌が陽光に晒され、時折開き過ぎた襟から赤い頂がちらりと覗く。思わず凝視しそうになるそこから目を逸らし、氷雨は意味もなく咳払いを零した。ついでにごくりと喉が鳴り、額の汗がつるりと滑っていく。
「疲れただろう、中に戻って涼むといい」
「オマエは?」
「俺……は、もう少し、素振りをしてから戻る、から」
「ふぅん」
穂群の肩を押せばすんなりと進む。かと思えば濡れ縁に腰かけて、そのまま庭を向いて足をぶらつかせ始めた。戻らないのかと視線で問えば、穂群は少しだけ顎を上げる。微かに弓なりに反る喉に薄く汗が滑るのが見えた。
「じゃあ見てる」
「……そうか」
薄らと撓る唇に居心地の悪さを覚えるが、見るな奥にいろと言うのも不自然だろう。穂群が何を思っているのかは知らないが、道場でやっと真っ当な剣を学び始めたからには氷雨の体捌きに興味があるのかも知れない。穂群の隣の蒼天を掴めば、どこからか含んだ笑い声が聞こえてきたが無視を決める。
穂群が洗い、二人で干した洗濯物がゆっくりと風に揺れている。濡れ縁に腰かけて履物を落とした穂群が、素足を遊ばせながら氷雨を眺めている。
先よりも賑やかしい庭で蒼天を上段に構える。一歩踏み出しながら振り下ろす。足を引いて刃先を持ち上げる。少しも揺るがぬように、ざわめく心を律して只管に振る。穂群が戻る前よりも意識を研ぎ澄ませる必要がある。じいっと、氷雨だけを見つめる穂波の瞳の強さときたら。
ちらりと目端に捉えれば、穂群はまたはたりはたりと、ゆるやかに襟を開いていた。氷雨よりも白い肌が晒されて、ふっくりとなだらかな胸が覗いている。時折覗く頂は赤く、氷雨の視線はつい、周囲に残された自身の歯形を捉えてしまう。動揺にぶれればにんまりと、口の端を持ち上げる様が見えた。
「……~~~~穂群ッ」
「あっは。ンだよ、続けねェの?」
遂には曝け出すように片襟を開き、穂群は笑いを多分に含んだ声を返した。これはもう、どう考えても煽っている。だからといって蒼天を下ろし、ずかずかと穂群に歩み寄る自身が一番駄目なのも理解はしているのだがこればかりは仕方がないだろう。
隣に蒼天を転がしながら濡れ縁に片膝から乗り上げる。ちょうど穂群の膝を割るような格好で、そのまま腕がにゅうっと伸びてきた。諸肌脱ぎにしていたせいで素肌同士が触れてかっと熱くなる。穂群の首筋を汗が流れて鎖骨に溜まる様が嫌に眩しく、氷雨は衝動のままにそこに甘く齧り付いた。んッと上がる声は艶めいて、そのくせやはり笑いを含んでいる。やられたと思いながら止まる術などなく、ならばせめてやり返したい。囓った鎖骨を舌でなぞり、氷雨はそのままなだらかな胸へと舌先を這わせた。ふにゅりと沈む感覚に手が伸びるのは最早仕方のないことで、まるで女の乳房のような、けれど丸みを欠いてなだらかなそこを手の腹で撫で摩り、寄せるようにやわく揉んだ。
「んっ……ぁ、は……なァ、ほら……」
「ッ……は……」
ちいさく喉を詰まらせて喘ぎながら、それでも穂群は氷雨の頭を掻き抱く。結い上げた髪に指を絡ませながら撫でられて、氷雨は誘われるまま穂群の肌を吸った。張りのあるなだらかなところ、ふっくりと色づいて膨らむ乳輪、そしてつんと尖りを増す乳首を舌先で弾き、口に含む。
誘っておきながらぴくりと身体全体が跳ねる様が愛おしく、氷雨は片手で穂群の胸をやわやわと揉みながら乳首を吸った。氷雨のものよりもぷっくりとして大きなそれは瑞々しい果実のようで、いつまでも口に含んでいたくなる。母乳が出る訳でもないのに、まるで氷雨をもてなすかのように舌に触れる肌はどこまでも甘い。
二人で暮らすこの天ノ端の別邸は、かつて氷雨の母、しずりが里から隠されるように住んでいた場所だ。実の子である氷雨すらここに来ることは禁じられ遠い記憶は朧になっているが、それでも父の目を盗んで訪れたこの庭の、この縁側に、ちいさな母はいつも楽しそうに座っていた。氷雨を見つけては傍に呼びやさしく頭を撫でてくれた。無論記憶にはなく、幼い精神と肉体の母は乳も出なかったためそよが乳母として赤子の氷雨を育ててくれたと聞いてはいるが、それでもかつて母の暮らしたこの庭で赤子のように穂群の胸をしゃぶる行為には幾許か思うところがないでもない。
胸中を過ぎる背徳感と、少しばかりの興奮。それらを誤魔化すように溢れる唾液を絡めて口内で揉みしだいて吸えば、ひうっと甘ったれた声が頭上から落ちてきた。
「あは……オマエ、ここ……すき、だなァ……? ぁンッ」
「ッハ……お前も、だろッ……!」
自身を棚に上げる穂群を諫めるように甘く尖りに歯を立てれば、跳ねた拍子に穂群の股が氷雨の膝に触れた。身体を重ねるうちに人並みに快楽を得るようになってきたそこは硬さを帯びている。
そもそも誘ったのは穂群からで、ならば欲しいのは氷雨ではなく穂群のはずだろう。なのに氷雨を幼気に扱って笑う穂群に俄に苛立ちを覚え、氷雨は穂群の着物の裾に手を入れた。しっとりと汗の滲んだそこに指を伸ばせば、ぬるんと熱い感触が触れる。
ぴくりと、思わず氷雨のこめかみが蠢いた。
穂群は熱い吐息と共に口の端を緩め、するりと膝を立てる。するすると、勿体ぶるように股を開いて着物の裾を割って――そこには何も身につけていない。しっとりと汗を滲ませ、ちいさく頭をもたげる雄の先、そして晒された奥の蕾が綻んで、とろりと蜜を零している。
「な、ひさめ」
氷雨が舐りしゃぶり、つんと尖らせた乳首をも見せつけるように晒して、穂群はうっとりと微笑んだ。
「しよォぜ」
伴侶の痴態を前にした氷雨の背後で、洗いたての二人の着物がそよそよと風に揺れいた。
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