試作

プロトタイプ短文



 人を斬るのは心地良い。
 未だ目覚めぬ刃が肉に食い込む手応え。上がる苦鳴ごと捻じ込む。叩き斬る。肉を抜ける瞬間の引きずるような粘ついた感覚も嫌いではない。何分、食う寝る殺すぐらいしかすることのない身で選択肢もないのだが、できる三つの内貴重な一つが嫌いではないとはありがたいことだろう。
 顔に散った血飛沫を袖で拭い辺りを見回す。散々食い散らかして三々五々。どれもこれも引き攣った顔をしている。どうしてこういう手合いは結末が見えているのに一々死に恐怖するのか、火群にはとんとわからない。手にした刀を振って血糊を落とし、舌を打つ。
 これだけ食い散らかして未だ衰えぬ切れ味は妖刀足り得るだろうか。されど火群が欲しいのはこんなかたちではない。
 もっと重く、熱く、その『紅蓮』の名のままに、触れる全てを燃やし尽くす至高の力を魅せて欲しい――脳裏に描く未だ見ぬ姿に嘆息する。さながら恋に恋する生娘のように直向きに、そして夜に焦がれる淫売のように艶かしく。
 戦場の――尤も火群の一方的な殺戮に終始している以上、最早戦場とは呼べないだろうが――真ん中で陶酔する火群に、恐怖を振り絞って投げかけられる声があった。魔女の犬め、というそれに、途端浮ついた空気は霧散。代って火群のこめかみに筋が浮く。
「今何つった、あァ!?」
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